〜剣闘士とグラディエーター〜
扉が開いた。
吹き込んできたのは、汗と鉄と血の匂い。
カウンターに腰を下ろしたのは、一人の剣闘士。
鍛え抜かれた筋肉、傷だらけの腕、
革のベルトに巻かれたままの拳。
——剣闘士、か。
彼は短く息をつき、低く呟く。
「……勝利の酒をくれ」
俺は微かに笑い、棚からボトルを取り出す。
「グラディエーター——血と炎の名を持つ一杯だ」
ショットグラスにアマレットを注ぎ、
その上にアニゼット(アニスのリキュール)を重ねる。
そして、最後にフロートしたラムに火を灯す。
淡い炎が揺らめき、
まるで”燃え上がる闘技場”のように輝く。
「どうぞ。火が消える前に飲み干すんだな」
剣闘士は目を細め、
ゆっくりとグラスを持ち上げた。
「……いいな」
そして、炎ごと一気に飲み干す。
「……っは!」
アマレットの甘やかな香り、
アニゼットのスパイシーな刺激、
ラムの燃えるような熱が喉を焼く。
まるで”命を賭けた一瞬の熱狂”のような味わい。
剣闘士は笑い、
カウンターを拳で軽く叩いた。
「……これだよ、これが”生”の味だ」
俺はグラスを拭きながら言う。
「次の戦いはいつだ?」
剣闘士は苦笑し、グラスを回す。
「……明日だ」
「勝つつもりか?」
彼は静かに笑った。
「“勝つ”以外の選択肢はねぇよ」
最後の一滴を飲み干し、
金貨を放り投げるように置く。
「また来るぜ、マスター。“生きて帰れたら”な」
俺は微かに笑った。
「待ってるよ。その時は、“勝利の酒”を用意しておく」
扉が開く。
彼の背中には、
“闘技場の熱”がまだ燃えていた。
——今夜もまた、一人の”戦士”に血と炎の一杯を届けた。