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第41話「闘技場の覇者に、血と炎の一杯を」

〜剣闘士とグラディエーター〜


 扉が開いた。


 吹き込んできたのは、汗と鉄と血の匂い。


 カウンターに腰を下ろしたのは、一人の剣闘士。

 鍛え抜かれた筋肉、傷だらけの腕、

 革のベルトに巻かれたままの拳。


 ——剣闘士、か。


 彼は短く息をつき、低く呟く。


 「……勝利の酒をくれ」


 俺は微かに笑い、棚からボトルを取り出す。


 「グラディエーター——血と炎の名を持つ一杯だ」


 ショットグラスにアマレットを注ぎ、

 その上にアニゼット(アニスのリキュール)を重ねる。


 そして、最後にフロートしたラムに火を灯す。


 淡い炎が揺らめき、

 まるで”燃え上がる闘技場”のように輝く。


 「どうぞ。火が消える前に飲み干すんだな」


 剣闘士は目を細め、

 ゆっくりとグラスを持ち上げた。


 「……いいな」


 そして、炎ごと一気に飲み干す。


 「……っは!」


 アマレットの甘やかな香り、

 アニゼットのスパイシーな刺激、

 ラムの燃えるような熱が喉を焼く。


 まるで”命を賭けた一瞬の熱狂”のような味わい。


 剣闘士は笑い、

 カウンターを拳で軽く叩いた。


 「……これだよ、これが”生”の味だ」


 俺はグラスを拭きながら言う。


 「次の戦いはいつだ?」


 剣闘士は苦笑し、グラスを回す。


 「……明日だ」


 「勝つつもりか?」


 彼は静かに笑った。


 「“勝つ”以外の選択肢はねぇよ」


 最後の一滴を飲み干し、

 金貨を放り投げるように置く。


 「また来るぜ、マスター。“生きて帰れたら”な」


 俺は微かに笑った。


 「待ってるよ。その時は、“勝利の酒”を用意しておく」


 扉が開く。


 彼の背中には、

 “闘技場の熱”がまだ燃えていた。


 ——今夜もまた、一人の”戦士”に血と炎の一杯を届けた。

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