アレックスとの再会から数日後、ルミナは少しずつ自分を取り戻し始めていた。彼の励ましを受けて、以前のように嘆き悲しむだけの日々から脱し、未来に向けて動き出そうと考え始めていた。しかし、彼女の中にはまだ拭いきれない疑問が残っていた。なぜ、ルークは突然婚約破棄を告げたのだろうか。聖女選定が理由と言われても、その裏にもっと深い事情が隠されている気がしてならなかった。
「このままでは終われないわ……。」
ルミナは、自分の尊厳を取り戻すためにも真実を知る必要があると感じていた。そう決意すると、彼女は王宮で働く旧友の一人に手紙を送り、情報を探る手助けを依頼することにした。
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手紙を送ってから数日後、旧友であるエリオットから返事が届いた。彼は王宮の書記官として働いており、ルミナとは幼少期からの知り合いだった。彼の手紙には、驚くべき内容が記されていた。
「ルミナ、君が婚約破棄された理由について、いくつかの噂を耳にした。殿下は、偽りの聖女を新しい婚約者に迎えるため、君との婚約を解消したという話だ。その聖女とされる女性は、王家が支配力を強めるために祭り上げられた存在らしい。」
ルミナはその手紙を読み終えると、驚きと怒りが胸に込み上げた。
「偽りの聖女……?それが私の婚約破棄の理由だったなんて……!」
彼女は拳を握り締めた。もしこれが真実であれば、ルークはただ彼女を利用して捨てたに過ぎない。さらに、王家の権力を強化するために聖女の地位を歪めたとなれば、それは神聖な儀式を冒涜する行為でもある。
「私は彼らに利用されただけだったのね。」
そう呟いたルミナの瞳には、これまでの悲しみとは違う強い決意が宿っていた。
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その夜、彼女はアレックスを再び呼び出した。真相を共有し、彼の意見を聞きたかったのだ。応接室で彼を待つ間、ルミナは自分の中に沸き上がる焦燥感を抑えきれなかった。
やがてアレックスが現れると、彼女はエリオットからの手紙を差し出した。アレックスはそれを読み、眉をひそめた。
「……これは驚きだな。偽りの聖女を婚約者に迎えるとは……王家は思った以上に焦っているのかもしれない。」
ルミナはうなずいた。
「彼らの計画がどれだけ深く練られたものかはわからないけれど、私はもう彼らの思惑に振り回されたくないの。」
アレックスは少し考え込んだ後、ルミナに真剣な表情で言った。
「そのためには、君がまず自分自身を守る術を持つ必要がある。僕も協力する。けれど、君が自分で動かなければならない場面も出てくるだろう。」
彼の言葉に、ルミナは深く頷いた。これまで家族や周囲に頼りきりだった自分を反省し、これからは自ら行動する覚悟を決めた。
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翌日、ルミナはエリオットに再び手紙を書き、さらに詳しい情報を探るよう依頼した。そして、自分自身でも動き出すための計画を立て始めた。まずは自分がどのように王家の陰謀に巻き込まれたのかをはっきりさせる必要がある。そこから彼女の未来が決まるのだ。
計画を立てる中で、彼女はアレックスから渡された小さな封筒を開けた。それは彼が贈ってくれた護身用の指輪だった。
「これには小さな魔法が込められている。危険な目に遭った時に使ってくれ。」
そう言って渡された指輪を手に取ると、ルミナは小さく微笑んだ。彼の優しさが、彼女に大きな力を与えてくれる。
「ありがとう、アレックス。私は負けないわ。」
指輪を指にはめた彼女の瞳は、以前のような曇りが消え、強い決意に満ちていた。
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ルミナの心の中に、確固たる決意が生まれた。自分の尊厳を取り戻し、偽りの聖女を巡る陰謀を暴く。そして、それを成し遂げることで、自分自身の未来を切り開いていく。
彼女は窓の外に目を向けた。夜空に輝く星々が、彼女を静かに見守っているように思えた。
「私はただの駒じゃない。自分の物語を自分で書き換えてみせる。」
そう心に誓ったルミナは、再び歩き出す準備を始めていた。
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