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2-2 新たな友人

 ルミナが再び社交界に顔を出し始めてから数週間が経った。その日は、彼女のかつての知人である伯爵家主催の夜会に招かれた日だった。表向きは音楽と舞踊を楽しむための会だが、実際には上流社会の情報交換の場となることがほとんどだ。


広間に足を踏み入れると、豪華なシャンデリアが煌めき、絢爛たる装飾が目を引いた。だが、そんな美しい景色の中で、ルミナに向けられる視線は相変わらず冷ややかだった。まるで彼女がただの観察対象でしかないかのように、人々は彼女を話題にしては遠巻きにささやき合う。


「……またあの婚約破棄された令嬢ね。」

「本当に気の毒ね。でも、あの家の立場を考えると仕方ないのかしら。」


耳に入ってくる心ない言葉に、ルミナは心を乱されないよう努めて微笑みを浮かべた。彼女が今ここにいるのは、ただ社交界に居場所を維持するためではない。新しい自分を見つけるために、彼女はここにいるのだ。



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夜会が始まり、音楽とともに舞踏会が進む中、ルミナは人々との適度な距離を保ちながら過ごしていた。そんな中、一人の女性が彼女の目に留まった。明らかに異国風の華やかなドレスを纏い、堂々とした立ち振る舞いを見せているその女性は、周囲から少し浮いているようだった。


興味を引かれたルミナは、彼女に近づくことにした。

「初めてお見かけしますが、どちらの方でしょう?」


女性は振り返ると、親しみやすい笑顔を浮かべた。

「あら、ご挨拶ありがとうございます。私はカティア・エシュトヴァ。隣国の商人家の娘ですわ。」


カティアの名前には、ルミナも聞き覚えがあった。エシュトヴァ家は隣国でも有名な商家で、貴族ではないものの、その財力と影響力から上流階級とも対等に渡り合う地位を築いていた。


「ルミナ・ヴェリーナと申します。こちらこそ、ご挨拶に感謝しますわ。」

ルミナが自己紹介すると、カティアの瞳が輝いた。


「まあ、あなたがあのルミナ様なのね。噂でいろいろ聞いていますわ。でも、私は噂なんて信じない人間ですの。こうしてお会いして直接話せて嬉しいですわ。」


その言葉に、ルミナは少し驚いた。多くの人々が噂をもとに彼女を避けたり、軽んじたりしている中で、カティアは彼女を真っ直ぐに見つめていた。



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二人は自然と会話を始め、気がつけば夜会の片隅で楽しそうに話し込んでいた。カティアは自分の家がどのようにして商業で成功を収めたのかを語り、彼女自身もその一端を担っていることを誇らしげに話した。


「私たちの家は貴族ではないけれど、商売の力でここまで来たの。お金が全てではないけれど、自由に動ける力はとても重要ですわ。」


その言葉に、ルミナは何か心を打たれるものを感じた。これまでの彼女の人生は、貴族としての義務やしきたりに縛られるものだった。それに対し、カティアは自分の力で道を切り開き、自由を手に入れている。そんな彼女の姿が、ルミナにはとても眩しく映った。


「ルミナ様、もし何か力になれることがあれば、いつでもおっしゃってくださいね。私はあなたの味方ですわ。」

カティアがそう言って微笑むと、ルミナの胸に暖かい感情が広がった。



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夜会が終わりに近づくころ、カティアはルミナに小声で言った。

「実は、私たち商人の世界では、貴族がどれだけの地位を持っていても、力のある人が認められるのよ。ルミナ様もご自分の力で何かを成し遂げれば、周囲の評価なんて簡単に覆せますわ。」


その言葉は、ルミナにとって新たな視点を与えてくれるものだった。貴族であることに固執せず、自分自身の力で未来を切り開く――そんな選択肢が彼女の中に生まれた瞬間だった。



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ルミナはカティアとの出会いを通じて、初めて心から話せる友人を得ただけでなく、新たな可能性を見出すことができた。自分が生きるべき道は、ただ受け入れるだけではなく、創り出すものなのだと。


その夜、ルミナは屋敷に戻ると、窓辺で空を見上げながらつぶやいた。

「私にもできるかもしれない。自分の力で新しい世界を……。」


カティアからの言葉が彼女の心を大きく動かし、次の一歩を踏み出すきっかけとなったのだった。



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