カティアとの出会いは、ルミナにとって大きな転機となった。彼女の「自分の力で未来を切り開く」という言葉が胸に深く響き、ルミナの中で眠っていた新たな決意が目を覚ました。彼女は、自らの尊厳を取り戻すために、貴族としての特権に頼らず自分自身で何かを成し遂げる道を模索し始める。
しかし、行動を起こすにはまず現実と向き合わなければならなかった。婚約破棄以来、ルミナの立場は貴族社会の中で孤立したままだ。家族との関係も冷え切ったまま、家の中にいても気を休めることはできない。ルミナは、この屋敷を出て独り立ちする必要があると強く感じていた。
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ある日の朝、ルミナは朝食の席で父に意を決して申し出た。
「お父様、私に考えがございます。」
彼女の声は静かだが、その言葉には強い決意が込められていた。
父であるヴェリーナ侯爵は眉をひそめながら彼女を見た。
「考えだと?何を言いたいのだ、ルミナ。」
ルミナは深呼吸をして答えた。
「私は、この屋敷を出て自分の力で生きていくことを決めました。これまで家族に支えられてきたことには感謝していますが、これ以上甘えるわけにはいきません。」
侯爵の顔は険しくなり、母も驚きの表情を浮かべた。
「一人で何をするつもりだ?貴族の娘が外で何かを成し遂げるなど、簡単なことではない。」
ルミナは父の言葉に負けず、まっすぐに答えた。
「簡単ではないことは承知しています。それでも、私は自分で新たな道を切り開きたいのです。」
弟のユリウスは皮肉を込めた笑いを浮かべながら言った。
「姉上が一人で何かをするだなんて笑い話ですね。どうせ失敗して帰ってくるのがオチでしょう。」
その言葉にルミナは一瞬胸を痛めたが、彼の挑発に動揺することなく、毅然とした態度を保った。
「私が失敗しようと成功しようと、それは私自身が責任を負うべきことです。」
その堂々とした言葉に、侯爵は短くため息をついた。
「好きにしろ。ただし、ヴェリーナ家の名誉を汚すような真似だけはするな。」
ルミナは父の言葉を受け入れ、一礼して席を立った。
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数日後、ルミナは屋敷を出る準備を整えた。家を出るといっても、どこへ行き、何をするのかまだ完全には決まっていない。だが、カティアからの助言があった。彼女が紹介してくれた商業地区にある賃貸住宅に、しばらく身を置くことにしたのだ。
小さな馬車に最低限の荷物を積み込み、ルミナは家を後にした。屋敷を振り返ると、そこには自分を冷たく見送る家族の姿が窓越しに見える。だが、その視線にも彼女は怯まず、自らの未来へと歩み出した。
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商業地区に到着すると、そこにはルミナがこれまで見たことのないような活気があった。多くの人々が行き交い、商人たちの声が飛び交う賑やかな街並み。これまでの貴族的な生活とは違う世界が広がっていた。
ルミナが到着した賃貸住宅は、清潔で居心地の良さそうな小さな家だった。彼女は荷物を下ろし、新しい生活の第一歩を踏み出したのだ。
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その夜、カティアが訪ねてきた。彼女はワインの瓶とチーズを持ってきて、ルミナの新生活を祝うために一緒に乾杯をしようと提案した。
「これであなたも第一歩を踏み出したのね。さあ、これからが本番よ。」
カティアは笑顔でグラスを掲げた。
ルミナも笑みを浮かべ、彼女の言葉にうなずいた。
「ありがとう、カティア。あなたがいなければ、私はここまで来られなかったわ。」
二人は楽しく語り合いながら夜を過ごした。ルミナは、この出会いが自分の人生を大きく変えるものになると確信していた。
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その後、ルミナは自分の事業を始める計画を立て始めた。何をするのか具体的には決まっていなかったが、彼女が思い描いていたのは、これまで自分が得た教養やスキルを生かせるものだった。カティアの助けを借りながら、ルミナは一つひとつ可能性を探り、前に進む準備を進めていった。
「私にもできることがあるはず。」
その言葉を胸に、彼女は新たな未来に向けて歩み続けるのだった。
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