ルミナが事業の準備を進め、ようやく新しい生活に少しずつ希望を見いだし始めた頃、街では奇妙な噂が広がり始めた。それは、王宮で「聖女」として崇められている女性についての話だった。ルミナの婚約破棄にも深く関係しているその女性が、本当に「聖女」なのか疑問を呈する声が一部で囁かれていたのだ。
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ある日、カティアが興奮した様子でルミナの元を訪れた。彼女はルミナが準備中のサロンのテーブルにどさりと新聞を置くと、ため息混じりに口を開いた。
「ルミナ、この噂を聞いたかしら?王宮の聖女が何やら怪しい動きをしているって話よ。」
ルミナは驚きながら新聞を手に取り、その見出しを読んだ。
「『聖女にまつわる奇妙な出来事――真実の聖性はどこに?』」
記事には、聖女が「神託」を受けたとして王宮で贅沢三昧の生活を送り、さらには国民に無理な寄付を要求しているという記述があった。その行為が一部の市民に疑問視され、反発を招いているという内容だ。
ルミナは眉をひそめた。
「贅沢三昧に寄付の強要……これが本当だとしたら、聖女の名を利用した悪行ね。」
カティアは頷き、腕を組んだ。
「そしてその聖女が、あなたの婚約破棄にも関係している。ルミナ、これは単なる噂では済まされない問題よ。」
その言葉に、ルミナの胸に再びあの日の屈辱がよみがえった。聖女の名のもとに婚約を破棄され、尊厳を踏みにじられたあの瞬間。それが偽りに基づくものだったのだとすれば――彼女はただの被害者ではなく、名誉を取り戻す権利がある。
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数日後、ルミナは商業地区にあるカフェで、エリオットと再会した。エリオットは王宮で書記官として働き続けており、ルミナにとっては重要な情報源でもあった。
「エリオット、聖女に関する噂は本当なの?」
ルミナは彼に尋ねた。
エリオットは周囲を確認しながら、低い声で答えた。
「公には認められていないが、王宮内でも疑問の声が上がっている。一部の役人たちは、聖女の行動が国益に反しているのではないかと考えているよ。だが、聖女を疑うことは王家への反逆とみなされかねないため、誰も声を上げられない状況だ。」
ルミナは拳を握りしめた。
「そんな……。聖女が偽りだという証拠があれば、国全体を欺いていることが明らかになるはずよね?」
エリオットは苦笑した。
「証拠があったとしても、それを暴露するのは簡単なことではない。王家と聖女の立場は絶対的だからね。」
それでも、ルミナの目には決意の光が宿っていた。
「それでも、真実を暴かなければならない。私がされたことだけではなく、この国の人々が偽りの信仰で苦しめられているのなら、見過ごすことはできないわ。」
エリオットは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに真剣な顔でうなずいた。
「君がそこまで言うなら、僕も協力しよう。ただし、危険を伴うことは覚悟しておいてくれ。」
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ルミナはアレックスにもこの件を相談する手紙を書いた。アレックスからの返事はすぐに届き、そこにはこう記されていた。
「ルミナ、君の決意は素晴らしいものだ。だが、君一人で背負う必要はない。僕も君とともに真実を追求する準備がある。君の計画を詳しく聞かせてほしい。」
その手紙を読んだルミナは、胸が熱くなるのを感じた。これまで孤独に戦う覚悟をしていたが、仲間がいるという事実が彼女に大きな力を与えてくれた。
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その後、ルミナはカティア、エリオット、そしてアレックスと協力して調査を開始した。カティアは商業のつながりを生かして聖女の背後にいる商人や資金の流れを追い、エリオットは王宮内の記録や聖女に関する隠された情報を探り出した。そして、アレックスは隣国の貴族としての人脈を活用し、聖女が国際的な影響力を持とうとしている動きを抑えるための情報を集めた。
調査を進める中で、ルミナたちは次第に驚くべき事実に近づいていった。聖女とされる女性は、王家の計画で意図的に選ばれた人物であり、本当の聖女ではなかった。彼女が行っている贅沢な生活は、国民の寄付から成り立っており、それを支えるために一部の商人たちが裏で暗躍していることが明らかになった。
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真実が少しずつ明らかになる中、ルミナの決意はますます強くなっていった。偽りの聖女がもたらす悪影響を暴くことで、自分の尊厳を取り戻すだけでなく、この国の人々の信仰を守ることができると信じていた。
夜、星空を見上げながら、ルミナは静かに誓った。
「私は真実をこの手で明らかにする。そして、もう二度と誰にも操られることのない未来を手に入れる。」
その瞳には、過去の悲しみではなく、新たな使命感と希望が映っていた。