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3-1 王宮への挑戦状



夜が明け、王宮の中庭に人々が集まり始めた。貴族たちの間では、今日王宮で行われる「公開謁見」の話題で持ちきりだった。これは普段ならば、王家の政策や聖女の活動について説明をするための場だったが、今日は特別な理由で人々の関心が集まっていた。


「ルミナ・ヴェリーナが公開謁見で発言するそうだ。」

「彼女が?婚約破棄されてから、あの場に姿を現すなんて前代未聞よ!」

「しかも、聖女の行動を批判するためだと聞いたわ。」


その噂は瞬く間に広がり、会場は異様な緊張感に包まれていた。



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数時間後、ルミナはアレックスとともに王宮に到着した。彼女は深い紺色のシンプルなドレスを身にまとい、毅然とした態度で王宮の大広間に足を踏み入れた。その姿は、かつての華やかな貴族令嬢としての面影を残しながらも、どこか凛とした威厳を漂わせていた。


広間に入ると、ルミナの存在に気づいた人々のざわめきが大きくなった。壇上には国王とその傍らに偽聖女が立っていた。彼女は純白のローブを纏い、まるで神聖さを誇示するような笑みを浮かべていた。その視線がルミナに向けられると、ほんの一瞬だけ嫌悪の色がよぎったが、すぐに取り繕うように微笑みに変わった。


「ルミナ・ヴェリーナ。」

国王が彼女の名前を呼ぶと、会場のざわめきはピタリと止んだ。


ルミナは深く礼をし、力強い声で言葉を紡いだ。

「国王陛下、そしてここにお集まりの皆さま。本日はこの場で発言の機会をいただき、心より感謝申し上げます。しかし、私は感謝だけを述べに来たのではございません。」


その言葉に、周囲の貴族たちは息を飲んだ。彼女の声には揺るぎない決意が感じられた。



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「私は、王宮で崇められている聖女の行動について、深く疑問を抱いております。」

ルミナの声は広間に響き渡り、その場に緊張感を生み出した。


偽聖女は一瞬目を見開いたが、すぐに柔らかな微笑みを浮かべた。

「ルミナ様、あなたの心配はありがたいことですが、私は神託に基づいて行動しているだけです。何か誤解があるのでは?」


ルミナはその言葉を無視し、続けた。

「あなたが『神託』を受けて行動しているとおっしゃるのは自由です。しかし、その行動の結果、国民が苦しんでいることをご存じでしょうか?」


広間の隅から、誰かが小さく「その通りだ」とつぶやく声が聞こえた。民の寄付を強制され、生活が困窮しているという話は、貴族たちの耳にも届いていたのだ。


「さらに、私はこれまでの調査で、この『聖女』が本当の聖女ではない可能性があるという事実をつかんでいます。」

ルミナの言葉に、偽聖女の表情がわずかに強張った。その瞬間、周囲の人々はざわめき始めた。



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国王は眉をひそめ、厳しい声で言った。

「ルミナ、そのような発言には確たる証拠が必要だ。君がその証拠を持っているというのか?」


ルミナは頷き、持参した書類を掲げた。

「ここに、聖女とされる女性が王家に仕える以前の記録があります。それによれば、彼女は一般市民として商人たちと密接に関わり、贅沢な生活を送っていたことが記されています。さらに、寄付金の流れに不自然な点があることも明らかにしました。」


その場にいる役人たちがざわつき、偽聖女は冷たい笑みを浮かべた。

「ルミナ様、そのような記録は捏造されることもありますわ。おそらく、私を陥れるために誰かが仕組んだのでは?」


しかし、ルミナは一歩も引かなかった。

「では、寄付金の使途について公開されている記録を精査するべきではありませんか?聖女として清廉潔白であることを証明するために。」


その提案に、周囲の貴族たちの間で同意の声が上がり始めた。偽聖女の表情には、次第に焦りの色が浮かび上がった。



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その日の謁見は、ルミナの提案によって予定よりも早く終了した。国王は彼女の主張を真剣に受け止め、偽聖女に関する記録の精査を命じることを約束した。偽聖女はその場を立ち去る際にルミナを鋭く睨みつけたが、彼女は堂々とその視線を受け止めた。



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広間を出た後、アレックスがそっと声をかけた。

「ルミナ、君は本当に見事だったよ。君の勇気は誰にも真似できない。」


ルミナは彼に微笑みかけた。

「ありがとう、アレックス。でも、これで終わりではないわ。真実を明らかにするまで、私は戦い続けるつもりよ。」


その瞳には強い光が宿っていた。彼女はついに自分の声で王宮に挑戦状を叩きつけ、第一歩を踏み出したのだ。これから待ち受ける困難に立ち向かう覚悟を胸に、ルミナは静かに歩き出した。



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