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3-3 ルークの後悔


王宮での公開謁見にて、ルミナが偽聖女の行動を糾弾してから数日が経った。その波紋は王宮内外に広がり、多くの貴族たちが聖女の正当性に疑問を抱き始めた。一方で、ルミナの婚約者だった第二王子ルークもまた、彼女の行動を耳にし、胸中に複雑な感情を抱えていた。



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「ルミナが……偽聖女を批判した?」

ルークは侍従からその話を聞き、驚きとともに焦りを感じていた。婚約破棄をしたあの日、彼は確かに彼女を冷酷に切り捨てた。だが、彼女が王妃としてふさわしくないと思ったのは、ルミナが「聖女の力を持たない」という理由だけであり、それ以外の部分では彼女の高潔さや知性を評価していた。


「なぜ彼女があそこまで……。」

ルークは深い溜息をつきながら、自室の椅子に腰を下ろした。彼女の行動が、ただの復讐心から来るものではないことを彼は理解していた。ルミナが真実を追求するために王宮を揺るがそうとしている――それは彼女の持つ強い正義感と責任感ゆえだと分かっていた。


侍従がさらに続ける。

「ルミナ様は、多くの貴族や商人からも支持を集めつつあるようです。特に、隣国の公爵家であるアレックス様が彼女に協力しているとか。」


その言葉に、ルークの眉が動いた。

「アレックス・サリエル……彼が?」

かつて幼少期にルークも顔を合わせたことがある、隣国の有力な貴族。そのアレックスがルミナに肩入れしていると知り、胸の中に嫉妬のような感情が湧き上がった。



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その日の午後、ルークは偶然にもルミナが街を歩いている姿を目撃した。彼女はアレックスとともに商業地区を視察しており、街の人々からは感謝の言葉をかけられていた。かつて自分の婚約者だった彼女が、今では別の場所で多くの人々から尊敬されている光景を目の当たりにし、ルークの胸には刺すような痛みが走った。


ルークは護衛を連れて街を歩き、意を決してルミナに近づいた。

「ルミナ……少し話がしたい。」


彼の声に、ルミナは一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。

「ルーク殿下。久しぶりですね。」

その口調には、かつて婚約者だった頃の親しみはなく、距離を置いた敬意だけが感じられた。


アレックスが間に入り、軽く頭を下げた。

「ルーク殿下。ルミナと話をするなら、私も立ち会います。」

その言葉には穏やかながらも揺るぎない意思が込められており、ルークは一瞬言葉を詰まらせた。


「……ああ、それで構わない。」

ルークは渋々同意し、近くの静かな場所へと移動した。



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三人が席につくと、ルークは口を開いた。

「ルミナ、あの時は……婚約破棄を一方的に告げてしまったことを謝罪したい。」


その言葉に、ルミナは目を細めた。

「謝罪ですか?今さら何のために?」

その冷ややかな返答に、ルークは少し狼狽したが、続けた。


「あの時、僕は王家と聖女の計画を優先するために君を犠牲にした。それが間違いだったと気づいたんだ。君は本当に高潔で、僕が見落としていたものを持っている。」


ルミナはしばらく彼を見つめた後、静かに息をついた。

「ルーク殿下、その言葉が本心だとしても、私にとっては何の意味もありません。」


ルークはその言葉に動揺した様子を見せた。

「なぜだ?僕は君のために、これから償いをするつもりだ。」


しかし、ルミナの表情は変わらなかった。

「私にとって大切なのは、過去の婚約関係ではなく、これからの私の道です。そしてその道に、殿下が入り込む余地はありません。」


その言葉に、ルークは言葉を失った。



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話を終えた後、ルミナとアレックスがその場を去る姿を、ルークはただ見送るしかなかった。かつて彼が切り捨てた婚約者は、今や彼の手の届かない場所に立っていた。それは後悔と同時に、自分が王としての責務を果たすために何を失ったのかを思い知らされる瞬間だった。


彼は深く息を吐き、呟いた。

「ルミナ……僕は君にふさわしい存在ではなかったのだろうな。」



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その夜、ルークは王宮の自室で一人、窓の外を見つめていた。彼が失ったものは、ただの婚約者ではなく、自分にとって本当に必要な人だったのかもしれない。だが、それを取り戻すことはもうできないという現実に、彼は静かに向き合い始めていた。



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