リアナが密命大使としての任務を全うするためには、常に冷徹な判断が求められた。それは時に、自分自身を犠牲にすることも含まれていた。誰にも知られることなく、王国を影から支える。それがリアナの宿命だった。
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ある日の早朝、宮廷内の隠し部屋
リアナは父王の秘書官から緊急の報告を受け取った。その報告には、隣国ベリスタ公国が不穏な動きを見せていることが記されていた。特に問題視されたのは、ベリスタが密かに同盟国との和平交渉を阻害する動きを見せているという情報だった。
「これはただの噂では済まされませんね。」
リアナは報告書を閉じ、目を閉じて思考を巡らせた。和平交渉の中断は王国にとって致命的な打撃を与える可能性がある。しかし、敵国だけでなく、同盟国内にもリアナの外交力を疎む勢力が存在しているのは明らかだった。
「ベリスタ公国の動向を探る必要があります。オスカーを呼びなさい。」
リアナは即座に命令を下した。彼女の密偵であるオスカー・バレンタインは、リアナが最も信頼する人物の一人だった。
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その夜、リアナとオスカーが密会する場面
「リアナ様、すぐに出発します。目的地はベリスタ公国の貴族領ですね。」
オスカーは軽く頭を下げると、冷静に作戦の詳細を確認した。
「はい。ベリスタの公爵家が密かに他国と結託しているという情報があります。これを証明できれば、和平交渉を有利に進められます。」
リアナはオスカーに対し、具体的な指示を与えた。彼女の声は落ち着いていたが、その背後には大きな責任がのしかかっていることが伝わってきた。
「わかりました。必ず結果を持ち帰ります。」
オスカーはその言葉を残し、リアナの前から姿を消した。彼が任務に出ると同時に、リアナは自室に戻り、次なる計画の準備を始めた。
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翌朝、宮廷内での一幕
リアナが書簡を整理していると、姉のエリザベートが部屋に訪れた。彼女はわざと大きな声で使用人たちに話しかけながら、リアナの部屋に入ってきた。
「まあまあ、リアナ。こんな地味な部屋で何をしているの?」
エリザベートの挑発的な態度に、リアナは微笑みを浮かべながら返答した。
「刺繍をしていました。少しでも有益な時間を過ごしたいと思いまして。」
リアナの返答に、エリザベートは鼻で笑う。
「刺繍ね。相変わらず平凡な趣味ね。まあ、あなたらしいと言えばそうだけど。」
エリザベートは一通りリアナをからかうと、満足げな表情を浮かべて部屋を出て行った。
だが、リアナの表情には揺るぎがなかった。むしろ、エリザベートの行動には一定の意図があることを察知し、内心で警戒を強めた。
「姉様……また何か企んでいるのかしら。」
リアナは小声でつぶやきながら、再び書簡の整理に戻った。
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数日後、オスカーからの報告
オスカーはリアナに対し、ベリスタ公国が密かに同盟国と結託し、王国に対して不利な条件を押し付けようとしている証拠を持ち帰った。その中には、公爵家の主要な貴族たちが計画していた陰謀の詳細が記されていた。
「リアナ様、この情報を基に動けば、同盟国との交渉を完全に掌握できます。」
オスカーの報告に、リアナは小さく頷いた。
「よくやってくれました、オスカー。この情報を父王に届けます。そして、同盟国への対応も考えなくてはなりませんね。」
リアナの目には明らかな覚悟が宿っていた。
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和平交渉の場に立つリアナ
その翌日、リアナは父王に代わり、同盟国との会談に臨んだ。同盟国の宰相ルーファスがリアナを迎え入れると、彼の表情には期待と警戒が入り混じったものが浮かんでいた。
「リアナ殿下、先日ご提案いただいた条件について検討を重ねました。」
ルーファスが切り出すと、リアナは静かに頷いた。
「宰相様、私はさらに重要な情報をお持ちしました。」
リアナは持参した書簡を広げ、ベリスタ公国の陰謀について説明した。同盟国に対する裏切りを証明する内容に、ルーファスは驚きを隠せなかった。
「これが真実だとすれば、我々はベリスタを警戒しなければなりません。リアナ殿下、あなたの情報は極めて価値があります。」
ルーファスの言葉に、リアナは微笑みを浮かべた。
「王国と同盟国が強固な関係を築くためには、互いの協力が不可欠です。これを和平交渉の礎としましょう。」
リアナの提案に、ルーファスは深く頷いた。
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平和のための代償
会談を終えたリアナは、静かに宮廷に戻った。和平交渉は順調に進み、同盟国との関係はさらに強固なものとなった。しかし、その影でリアナは多くのものを犠牲にしていた。彼女の地位、家族からの信頼、そして自分自身の心の平穏。
「平和のために代償を払うのが私の役割……それでも、これが必要ならば続けるしかない。」
リアナは自室の窓から外を見つめ、夜空に浮かぶ星々に静かに誓った。王国の未来を守るために、彼女はこれからも影で戦い続ける覚悟を新たにするのだった。