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第3話 そういう意味の「ごめんなさい」だったのかよ……

『板野さん……本当にすみませんでした……』


 女神が背中の羽根をたたんで、頭を深々と下げてくる。


 謝罪ができたのはえらい。

 がしかし、ずいぶん遅かったじゃないか。

 白を切って誤魔化そうとした罪は重いぞ。


「ちゃんと全部話してくれよ。納得がいけば騒ぐのはやめてやろう」


 納得がいかなければ大騒ぎを続けようと思う!


『今日お亡くなりになる予定だったのは、石野建造さんで間違いありません。板野賢治さんは手違いで巻き込まれてしまったようです』


「手違いね。続けて」


『おそらく、こちらの書物で、石野さんのページと板野さんのページがくっついてしまっていたのが原因ではないかと思われます……。なぜなのか、理由はまったくわかりませんが、完璧にくっついてしまっていて。理由はこれっぽっちも見当がつきませんが、偶然に!』


「ページがくっついて、ね。俺と石野のじいさんの人生がごっちゃになって扱われた、と」


『そうですそうです。だから私のせいではなくて――』


「ページがくっつく、なんてことはよくあるのか? 紙が安物だからでは?」


『いいえいいえ。こんなことは10年に一度くらいしかありませんので、たまたまです』


 10年に一度?

 けっこう頻度が高いような……。


「ページがくっついていたのは……偶然、なんだよな?」


『……偶然です!』


 さては、ウソだな?

 わかりやすく目をそらしただろ、今。


「ホントのことを言え。怒らないから」


『偶然……。ページの上にジュースをこぼしちゃいました……』


「やっぱりお前が原因じゃねぇか!」


 殴ってやろうか!


『ふぇ~ん! 怒らないって言ったのに怒った~!』


 すぐに泣くな!

 女神のくせにかわい子ぶるのはやめろ! お前いくつだ⁉


「お前がジュースをこぼし、石野のじいさんのページと俺のページがくっついてしまった、と。それで俺とじいさんが記録上ごっちゃになってしまい、俺はじいさんの身代わりになって死んだ。そういうことなんだな?」


『頭良いですね~。初恋もまだなのに』


 笑顔で手を叩いてくる。


「初恋関係ねぇだろ! 煽ってんのか⁉ あぁ?」


 マジ殴りてぇ。


『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。良い寝床を用意しますから許してください!』


 良い寝床って……。


「人違いだってはっきりしたわけだし、もう帰らせてくれって」


 さすがにじいさんと交代して帰らせてくれるんだよな?


『それはちょっとできなくて……』


「なんでだよ。女神は人を生き返らせたり、転生させたりできるんだろ? あれはウソか?」


 ラノベの知識だけど。


『通常であればできるんですけど~、板野さんのページはさっき破れてしまいましたし、もう世界に存在しなくなっちゃったと言いますか……』


「えっ、世界に存在しなくなった⁉ どういうことだよ⁉」


『この書物に残されているのが、人類の全記録でして……。ここに記録がないということは、最初から存在していなかった、と。そういうことになっちゃいます』


 なっちゃいますって。


「さっきくっついたページを無理やりはがそうとしてお前が破ったんじゃ……」


『だから「ごめんなさい」と言ったのですが?』


「ですが? じゃねぇよ。何ちょっと逆ギレしてんだよ!」


 そういう意味の「ごめんなさい」だったのかよ……。てっきり、石野のじいさんと勘違いしていて「ごめんなさい」って意味かと……。


『ですので、石野さんが眠るはずだった立派な石の下には寝かせてあげられないのです。急いで別の場所を用意しますから、少々お待ちください』


「石は別に好きでもなんでもないし、それはどっちでも良い……。ホントに帰れないの? 俺の人生、もう終わりってこと?」


 大学受験をして、大学生デビューをして、サークルで彼女を作って夢のキャンパスライフ……。終わりなのか?


『あの~』


 女神が俺の機嫌をうかがうように話しかけてくる。


「なんだよ。もう俺は生き返れないんだよな……。どうあっても『死亡済み』なんだよな。もう放っておいてくれよ……」


 女神のうっかりミスで人違いされたせいで、俺は死んだ。しかも生き返ることもできない。そもそも最初から存在すらしていなかったことになった、と。


 ああ、全部終わりだ。


『あの~。板野さんは転生のほうって興味あったりしますか?』


「えっ、転生できるの⁉ 異世界転生ってこと⁉ 生き返れるってこと⁉」


 マジかよ!

 死ななくて済むってことか!


『そうですね~。転生のほうだったらキャンセル待ちもいくつかあるのでサクッといけますが~。ご希望の条件に沿えるかどうかはわかりませんけれど~』


「サクッとって……かなり怪しいが、いくつか候補があるってことなのか?」


『はい~。ご迷惑をおかけしてしまったので、できるだけ良い条件の転生先をご紹介しようと思いますが、それで許していただければと……。このことは、どうか上司にはご内密にしていただければと……』


 それが本音か。

 まあ良い。


 異世界転生できるなら、死んだことはチャラにしてやる!

 大学デビューも異世界転生デビューも似たようなものだろ!


「その話、乗ったぜ!」


『ありがとうございます~。ではいくつかご希望の条件をいただいてもよろしいですか?』


 希望の条件か。

 そうだな……。この際だから……。

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