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第6話 お前に食わせるタンメンはねぇ!

「くそがっ! ひどい目に遭ったわ!」


「あ~、コハクちゃんがまた悪い言葉使ってる~。おばさまに言いつけちゃおうかな~?」


 コイツ……人のベッドの上で当たり前のようにくつろぎやがって……。

 あ、ベッドの上で菓子食ってんじゃねぇよ。カスがいっぱい散らかっているじゃねぇか! ちゃんと拾えよ!


「ヒナのせいで今説教されてきたばかりなんだがな? さすがに温厚な俺でもキレるぞ?」


 ヒナの体内に、先が尖った石柱でも生成してやろうか⁉


「コハクちゃんが猟奇的な悪い子になっちゃった……。私、どこで育て方を間違っちゃったのかな……」


「お前に育てられた覚えはねぇ!」


 むしろ世話をしてやった記憶しかないな。


「あ、今のちょっとタンメンっぽく言ってみてほし~い♡」


 タンメン? タンメンって……あれか、俺の前世で昔ちょっと流行っていたあれで良いんだな⁉


「……お前に食わせるタンメンはねぇ!」


 合ってるか、これ……?

 賢治は微妙に次課長世代じゃないんだよな。動画で見たくらいだから、かなりうろ覚えなんだけど。


「全力~♡ でもこの世界にはタンメンなんてないですよね?」


「ヒナが言い出したんだろ……」


 なんで梯子外してきたんだ。ひどくねぇか?


「この世界の麺類ってぜんぜんおいしくないですよね~。コハクちゃんのチートスキルで何とかしてくださいよ~」


「この駄女神が! 俺にあるのは石を加工する標準スキルだけだわ。麺類なんて作れねぇ。わかっていておちょくっているのか?」


 むしろヒナのほうが女神のなんやかんやの力を使って俺にタンメンを食わせろよ。


「無理ですよ~。ちょっとの知識と、コハクちゃんの心の中を覗く以外の権限は全部取り上げられちゃいましたし、今の私はただのかわいい女の子ですよ?」


「でもドラゴンだから火は吐けるじゃん?」


「火魔法はちょっとだけ使えますよ~。まだレベル低いからファイヤーアローとファイヤーボールとファイヤーブレスくらいですけど~」


 レベルが低いと言いながら、けっこういろいろ攻撃魔法が使えるのな。


「良いよな。俺も魔法が使いたかったな……」


「人族で魔法が使えるのは珍しいですからね~。回復系の光魔法を使える人はけっこういるみたいですけど」


 そもそもスキルと魔法の違いがわからん。


「魔法は精霊と契約しないと使えませんね。もともと精霊の声が聞こえる人じゃないと絶対契約できないです」


 精霊の声は聞いたことがないな。

 残念過ぎる……。


「俺が魔法を使えるようになることはない、か……」


 魔法が存在している世界を希望したわけで、『自分が使える世界』とは言わなかったもんな……。


 ここに異世界転生における大切な教訓を置いておくことにする!

 誰か! 俺の屍を越えてゆけ!


【女神と話をする時には、決してあいまいな表現は使ってはいけない。希望をはっきりと口にしろ!】


 そう。わかるだろ? 行間を読めよ、みたいなのは絶対ダメ。

 男として転生したかったら、「男でお願いします」と。

 魔法が使いたかったら、「魔法が使える人種に転生させてください」と。


「でもでも~、精霊のほうから近寄ってきて契約を求めてくる例もあるらしいので、希望は捨てちゃダメですよ? あ、でも精霊には性別の概念がないから、コハクちゃんの女ホイホイハーレム属性は効果なさそうですね~。残念♡」


 ちっとも残念そうじゃない顔がマジでムカつくわ……。


 精霊には性別がないのか。いまいち生態がよくわからんな……。

 あ、でもさ、精霊って女王とかいるんじゃねぇの?

 女王なら女だろ?


「それで~、スキルっていうのはですね~、自分の魔力だけで行使することができるので、素養があればどんな種族でも使えるんです。だいたいの人は生まれた時に大きくなったら使えるスキルが決まっていて、それ以外にスキルが新たに発現するケースはごくごく稀ですね~」


 つまり俺は一生『石加工』という凡庸なスキルと向き合っていかなければいけないわけだ。

 まあがんばるけどな?


「でもでも、さっきの話に戻るんですけど~、『石加工』で石臼を作れば良質な粉が作れると思うんですよね。この世界の麺類がおいしくないのは、ちゃんと細かく粒度のそろった粉を引いていないからだと思いますよ」


 おいおい、ウソだろ……。

 コイツ、マジで言っているのか……。


「ヒナ、お前……なんか悪い物でも食べたのか……?」


「なんでですか? 私、何かおかしなことを言いましたか?」


 ヒナがキョトン顔で俺のことを見つめてくる。


「むしろまともすぎて……どこかおかしくなったんじゃないかと思ってな……」


「コハクちゃんひどいですよ~。私だっていつも失敗ばかりの駄女神じゃないんですよ?」


 いてていてて。

 ドラゴンの力でパンチしてくるな。

 お前のほうはじゃれているつもりかもしれないが、人族の俺にとってみれば、その力は強すぎるからな?


 でもあれだ。石臼!

 マジで最高のアイディアじゃねぇか!

 ぜんぜん思いつかなったわ!

 女神がまさか俺の前世の世界の知識を披露してくるとはな!


「さっそく石臼作りに取りかかってみようぜ。ヒナは台所からこっそり小麦を調達してきてくれないか?」


「は~い、いってきま~す!」


 石臼に適している石の材質は……花崗岩だったかな。

 たしか、石の表面がざらざらしているほうが粉を引くのに良いって何かの本で読んだ気がする。


 でも石臼の構造がよくわからねぇな。

 2枚の石を重ねて、上の石をグルグル回転させると粉になる……。


 どうやって?

 どこから麦を入れるんだろう。

 毎回上の石を持ち上げて麦を入れるんだっけか?



 んー、とりあえずいろいろ試してみるか!


 ここからが俺様の異世界チートの始まりだぜ!

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