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第7話 じゃあ、お風呂にする? 私にする? それとも~、か・き・ご・お・り?

 ――俺の部屋にて。


 今日も今日とて、朝からヒナが入り浸っている……。

 なんなら昨日、母さんの部屋に泊まっていなかったか?


 しっかし今日は暑い。

 一段と暑い。

 1人部屋に2人いると、室温が上がっていけないな。


 ここに転生してきて今のところ大きな不満はないんだが、1年の半分くらいは暑い気候なのは何とかしてほしい……。日本に比べたら湿度は低いんだけど、ずっと暑いのはやっぱりきつい。女神パワーで何とかならないものだろうか。


「なー、ヒナ」


「なぁに? チュウするなら歯を磨いてきてね♡」


 ウィンクからハートの炎が……芸が細かくて腹立つわー!


「そんなのしたことねぇだろ……」


 ヒナはなかなかの美少女に育っているとは思うが、中身があの女神だと思うと……かわいさよりもイラつきが上回る不思議!


「どうして私とはしてくれないんですか? この間、お向かいのワーウルフのマミちゃんとチュウしてましたよね⁉」


「見てたのか……。いや、あれはだな、したというかされたというか……マミが一方的に……」


 マミから急に「買い物に付き合ってくれ」と言われて、2人で市場をぶらついていたら、突然背後から襲われてな……。なんていうか、成すすべなく……。


「いつもみたいに石つぶてをぶつけて撃退すれば良かったのに!」


「それはマミがケガしちゃうだろ……」


 女の子相手に石つぶての弾丸を浴びせかけるのはちょっと……。


「私には容赦なくやるのに⁉」


「ヒナはドラゴン族だし、硬い鱗で無傷だろ」


「私、ドラゴン族とのハーフですけど人族ですよ! ドラゴンの鱗なんてぜんぜんないですからね! 見て! このモチモチの柔肌!」


 服を捲ってお腹を見せてくる。

 あら真っ白。

 鍛えてもいないが、ぜい肉もついていないせいか、ヒナの申告通り、適度に柔らかそうなもち肌だった。もちろん硬い鱗なんて一切なし。


「ドラゴンって肌白いのな。全身赤い鱗で覆われているのかと思ってたわ。喉のところにある逆鱗に槍を突き刺して倒すんだろ?」


「私の体って、ほとんど人族のほうの血を継承しているみたいなんですよね~。でも魔力のほうはドラゴン族の血を受け継いでいるから、見た目はほぼ人で力はドラゴン、みたいな? だから逆鱗とかはないです~。私に弱点はなし!」


 硬い鱗に覆われていないなら弱点だらけなのでは……。


「そうだったのか。ほぼ人ね。……そういや、ヒナって角だけで、しっぽがないな。定期的に切り落としているのか?」


 ドラゴンってトカゲみたいなしっぽが生えているものだよな。

 しっぽで攻撃してきたりするし。


「定期的に切り落とすって発想が怖い……。私、しっぽは最初からないですよ……」


「そうなのか? だけどトカゲはしっぽを切っても痛くないんだろ? わりと気軽に自分で切り落とすよな」


「ドラゴンとトカゲは違うので……。たぶんトカゲも痛いは痛いと思いますよ。『自切』は敵に襲われて死ぬくらいならしっぽを犠牲にして~って生存戦略ですし……」


「さすがドラゴンだな。トカゲにも詳しい」


「だから~、ドラゴンとトカゲは違う種族なので……。私、一応コハクちゃんのサポート役としてこの世界にいるので、そのために必要な知識を得るためになら、女神データベースへのアクセスが可能だったりします」


「ということはトカゲの情報もそこから?」


「はいー。前みたいに無制限にすべての情報にアクセスすることはできませんが、ここ『ブレドストン王国』の情報と、コハクちゃんの前世『地球』の情報になら、ある程度はアクセスが可能みたいです」


 女神データベースで情報が得られるのかあ。

 それはなかなか便利そうだな。


「地球のほうの情報もわかるっていうなら、それはすごく助かるな! この間の石臼作りが途中で止まっちゃっているんだよ。どうやったら、粉になった後に石臼の中からうまく取り出せるかわからなくてさ……」


 教えて、女神様!


「お安い御用ですよ~。試作中の石臼を見せてください」


「あれだよ。好きなだけ見てくれ」


 部屋の隅に転がしてあった石臼のようなものを指さす。

 ヒナは上の石を持ち上げてひっくり返したりしながら何かを確認してから、ポンと手を叩いた。


「なるほどなるほど、わかりましたよ。石の材質や構造は悪くないんですけど、上石と下石がこすれる部分に溝が必要みたいです」


「溝? なんのために?」


「擦れる断面を増やす目的と、粉になった後に、石を回す振動で粉がその溝を伝って外に排出されるために必要みたいですね。なので、粉を受けるための木箱か何かを用意して、その中で石臼を動かして粉を箱の中に溜める仕組みが一般的のようです」


「おー、そういうことか! ぜんぜん思いつかなかったわ。溝がないから石の間で粉が詰まってうまく動かなくなっちまっていたんだな。サンキュー女神!」


 これで勝てるぜ!


「俺の女神だなんてやだもう~♡」


 急にクネクネし出す駄女神。


「俺の、とは言っていないが……」


「は~い、コハクちゃんだけの女神、ヒナちゃんですよ~♡」


 何も聞いていない。また始まってしまったか。

 俺のハーレム属性って、発動に波があるよな。ヒナも普通に話している時には正気な駄女神なのに、突然頭の中が今みたいにピンク色になって……厄介な呪いだわ。


「じゃあ、お風呂にする? 私にする? それとも~、か・き・ご・お・り?」


「……なんだそれ? なんか順番違うし、唐突にかき氷? おかしくなった? あ、元からか」


「違うの~! お部屋が暑いです~! 水浴びしたい! せめてかき氷が食べたいです~!」


 ベッドで足をバタバタさせて騒ぐな!

 余計に暑くなる! しかも埃がすごい舞っているから!


「まあ、今日は……今日も暑いな……。この世界にはエアコンとかないしな……。そういえば、エアコンは作れないのか?」


「さすがに電子機器はちょっと……。説明書を参照してもうまく説明できる自信がないです……」


 役立たず!

 と思ったけれど、俺も説明されたとて、電子回路なんて作れるわけなかったわ。


「せめて水魔法で氷が出せれば……」


「おー、水魔法良いじゃん。さっそく水の妖精と契約してきてくれよ」


 ドラゴン族ならいけるだろ。

 ウォータードラゴンとかいるしな。


「簡単に言わないでくださいよ……。私、火の精霊と契約しているから無理ですって。火と水の精霊はお互いに敵視しあっていて相性が悪いんです」


「そこはドラゴンの力でガツンとかましてやれば良いんじゃないか? 知らんけど」


 ファイヤーブレスで脅せば言うこと聞くんじゃね?


「無茶言わないでください。そんなことしたら、火の精霊さんからも契約を切られちゃいますって」


 使えない駄女神だなあ。

 じゃあよそから調達してくるしかないか。

 水魔法が使える仲間がほしいなあ。


「あ、その顔! またどこかで女の子を引っかけてこようとしていますね⁉」


「ち、違う! 言い方が悪い! 水魔法が使える仲間がいたほうが便利だと思ってな! 俺の『石加工』の研究にも、火と水はかかせないからな。ヒナが水魔法を使えないとなると、仲間を増やすしかなくないか?」


「私がコハクちゃんを独り占めしたいのに~!」


 そっちが勝手にハーレム属性を付与しておいて、その発言はおかしくない?


「じゃあ水魔法を覚えてくれ!」


「それは無理ですよぉ」


「じゃあ仲間を増やすしかないな」


 交渉決裂だ!


「うぅ……せめて男の人にしましょうよ……」


「もちろん仲間になってくれるなら性別・種族は問わん! 水魔法が使えればな! あとは性格に難がなくて、誠実で上司に隠し事をせず、人のことを勝手に死亡認定したり、女に転生させたりしないヤツなら誰でも良いな!」


「そのことは何百回も謝ったじゃないですか~。性格に難があるのはコハクちゃんのほうですよ……」


「なんか言ったか?」


「何も……うぅ……」


 こうして定期的に駄女神をいじりつつ、仲間になってくれそうなヤツを探してはいるのだが、この街には魔法が使える子ども自体そんなにいないからな……。

 しかも平民で俺たちと遊んでくれそうなヤツなんて……。


 早く大人になりてぇな。

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