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第9話 いやいやいや、今はマズい! 完全に頭がイッちゃっている状態だぞ! 体調不良で辞退だ!

「新入生のみなさん、王立ブレドストン魔術学院への入学、誠におめでとうございます。我が王立ブレドストン魔術学院は伝統を重んじ――」


 学院長だか、教頭だか知らないが、禿げたジジイの誰が得するのかわからないとにかく長いだけで中身のない挨拶を聞き流す。


 あくびが出そうなのをガマンしつつ、すまし顔をして隣の席に座るヒナに小声で話しかけてみる。


「なあ、ヒナ。なんで俺たち、普通に入学できているんだ……?」


 ビンビンに立っていたフラグ通りだったらさ、入学試験会場に行ったら「平民風情がなぜこの学園の入学試験に?」とかなんとか、貴族のいけ好かないボンボンたちに難癖をつけられて、ヒナがキレて大暴れして、それが大問題になって俺たちは国を追放される。そして放浪者となって国への復讐を誓い、盾の勇者の成り上がりをするはずだっただろ?

 実際、蓋を開けてみたらさ、試験会場には俺たち2人しかいなかっただろ。しかも簡単な筆記試験と面接をしたくらいで帰されたし、まったく波風立たなくて拍子抜けしたよな。


「貴族の方々は一般試験は免除ですからね。今年度、学院の一般受験をしたのが私たち2人だけだったということではないでしょうか?」


「うげぇ、マジかよ……。平民が俺たち2人だけって……絶対いじめられるじゃん……」


 たしかになー、周りのやつらの顔……見るからにお貴族様って感じで、すげぇお高く留まっているもんな。なーんか俺たちが着ている制服よりも豪華な装飾がついている気がするし?


「タイの色が学年を表していて、右肩についている肩章が貴族の階級を表していますから、ご挨拶する時には失礼のないようにお願いしますね」


「えっ、貴族に階級とかあるの⁉ そういう重要な情報は事前に教えておいてくれよ……。失礼のないようにって言われても作法とか知らんぞ?」


「基本的には肩章の房が多いと階級も高い、と覚えておいてください」


 えー、じゃあその左隣のヤツとか超ヤバいんじゃね? 房何本? 5本……10本……数えられない……。その隣の女は……つるんとした肩章だけど、ほかのヤツと色が違うな。もしかして雑魚貴族?


「私のお隣の方はアルマジストン公爵のご子息、ビルヘイア=アルマジストン様です。そのお隣はこの国の第4王女、ミサリエ=ブレドストン殿下です」


 なんだと……。

 公爵って貴族の中でけっこう上のほうの位だよな? それに王女って……雑魚貴族どころか、普通にめっちゃ偉いやつらだったわ。


「なあ、もしかしてさ、なにげなく並んでいるこの席って、偉い人順になっていたりするのか?」


 よく見ると、席のブロックが3つに分かれているな。

 俺たちも座っている最前列のグループは1列だけで人数も俺、ヒナ、公爵の息子と王女様の4人だけ。

 2ブロック目と3ブロック目は同じくらいの人数で、それぞれ50人ずつくらい? この違いは……身分の違いか何かか?


「えっ、ちょっと待ってくれよ。じゃあなんで俺たち1番前に座らされているの⁉ その他扱いにしても、平民が公爵子息と王女の隣っておかしくないか?」


「コハクちゃん……お静かに。ここにはおばさまがいないので、私が言いますね。とにかくその言葉遣いを直してください。学院で話をする時は、たとえ私と2人きりの時でも丁寧語を使う練習をしないといけませんよ。そうしないと……」


 笑顔が怖ぇよ……。

 丁寧語……がんばって努力する……します。


「努力いたしますわ、です」


「努力いたしますわ」


 しますわ、って、悪役令嬢かよ。


「ここにいらっしゃるのは、私たち以外は王族の方、そして貴族のご令息ご令嬢です。特待生の私たちにも同じレベルのマナーが求められます」


「母さんの話を適当に聞き流していたせいで、マナーは何もわからん……。わかりませんわ」


 俺、このままだとマナー違反で打ち首になる?


「大丈夫です。私がいつも隣にいてフォローしますから、安心してください」


「ヒナー! ホント助かるよー!」


 駄女神なんて言ってごめんな! 頼りにしてるぜ……頼りにしていますわ!


「ふへへへへ。コハクちゃんが私に依存している……! コハクちゃんが私なしでは生きられない体にぃ♡」


 あっ、ヤベっ! ハーレム属性のスイッチ入っちゃった。

 こんなところで発情されるとヤバいんだが……ヤバいんですわ。どうするどうする⁉ 大事にならないうちにそっと連れ出すか? でもそれはそれで目立つよな……。おーい、ヒナ! 早いところ正気に戻ってくれ! くれですわ!


「それでは新入生代表、ヒナ=スカーレットさん。ご挨拶をお願いします」


 えっ、ヒナが新入生代表⁉

 いやいやいや、今はマズい! 完全に頭がイッちゃっている状態だぞ! 体調不良で辞退だ!


「はい! ヒナ=スカーレットです!」


 ヒナが元気よく返事をし、イスから立ち上がる。


「おまっ⁉ 行くのか⁉ 今の状態で人前に出るのは……」


「コハクちゃん、私を信じてください。なんて言ったって、私は入学試験首席のヒナちゃんですからね!」


 ヒナが首席だと⁉

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