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第10話 新入生代表、コハクちゃんが大好きなヒナ=スカーレットでした!

 ああ、入学試験はヒナと俺の2人しか受けていないからか……。

 1/2でヒナが首席……負けたぜ!


「ぜんぜん違います! ここにいる全学部の新入生、総勢212名の中で首席ですよ!」


 ウソだろ……。

 火を吐くことしか能がないくせにどうやって……あー、お前、女神の力を使って入学試験の結果を書き換えたな?


「女神がそんな不正を働くわけないでしょう。いつでも清く正しく、みんなのお手本となるのが女神です。実力で首席なんですよ。私は正気です。立派に新入生代表の挨拶を務めてきましょう!」


「お、おう……」


 実力で首席ねぇ……。

 そういやヒナって、この世界と俺の元いた地球の知識のデータベースには自由にアクセスできるんだっけ?


 それってカンニングし放題じゃん!

 やっぱり不正じゃねぇか!


「みなさんこんにちは~! 新入生代表のヒナ=スカーレットです! 本日は私たち新入生のためにこのように盛大な入学式を挙行いただき、誠にありがとうございま~す! 新入生のみなさん、そして先輩方。これから卒業まで協力し、みんなで仲良くやっていきましょうね!」


 マナーマナーって言っていたわりには、だいぶくだけた感じの挨拶だな……。周りもざわざわしているし、これ……大丈夫なのか?

 ああ、席が3ブロック分かれているうちの1番後ろのブロックは、在校生の席――先輩たちだったか。


「私、この場を借りて先に伝えておきたいことがあるんです。この伝統ある王立ブレドストン魔術学院に入学できるのは、基本的には貴族のご令息ご令嬢ですよね。でも私、平民です。しかも孤児です」


 うわっ、さらにざわざわがすごい……。

 このカミングアウト大丈夫なのか⁉ 先生たちもヒナの挨拶を止めようかどうしようか迷ってねぇ⁉


「私のお母さんは、ファイヤードラゴンっていう幻想種なんですよ。みなさん、ドラゴンって知ってますか? そう、超巨大なあれです。神話上の生き物ですよね。神様みたいなものなので、人の姿も取れるんです。なんでか、私のお父さんと恋に落ちて、私が生まれたわけですけど~、お母さんは人の子を育てることができなかったのか、私を産んだ後にどこかに消えちゃったんですよね。お父さんと私を残して……」


 初めて聞く話だ……。

 ヒナの中身は女神だが、体の持ち主のほうの話なんだろうな。


「お父さんは男手一つで私のことを育ててくれたんですけど、私が5歳の時に……事件に巻き込まれて死んじゃったんです。それで、私は孤児になっちゃって、サーズストン伯爵寮の孤児院に預けられることになりました。当時の記憶はあんまりないんですけどね~。でもはっきりと覚えていることがあるんです」


 もう会場のざわつきは収まっていて、みんながヒナの話に耳を傾けていた。


「私が孤児でも、差別することなく優しくしてくれた人のことを。そう、今日一緒にこの学院に入学したフィルズストン商会の長女・コハク=フィルズストンさんです」


 待て待て。

 この流れで紹介されたら、俺がみんなにめっちゃ注目されるじゃねぇか! すっごい熱い視線が集まっているんですけど⁉


「コハクちゃんは毎日私のことを遊びに誘ってくれて、フィルズストンのおじさまおばさまも、私にご飯を食べさせてくれたり、服をくれたり、読み書きを教えてくれたり。それはもう家族同然に扱ってくれて……ホントに感謝してもしきれません。たまたま私がコハクちゃんと同い年の子だったってだけなのにですよ~」


 美談になっている……。

 真実は真逆で、ヒナが毎日押しかけてきてはウザ絡みをしてきただけなのに。

 まあ、父さんと母さんがヒナにやさしくしているのは事実だけどな。


「私ね、コハクちゃんのことを愛しているんです!」


 ちょっと、ヒナさん⁉

 また会場のみなさんがざわざわしちゃっているから!


「友達としてではなくて、1人の女性として……性的な目でコハクちゃんのことを見ています!」


 ざわざわ最高潮!

 良い話から一気に落としすぎ!

 みなさんが混乱しまくっているから、その話はそれくらいにしておきなさい!


「でもでも、私はコハクちゃんを1人占めするつもりはないんです! コハクちゃんはとっても魅力的で、コハクちゃんの魅力はみんなで分かち合うものだと思っているからです!」


 お前……何言っているの?

 やっぱりハーレム属性の効果でおかしくなっているのか?


「今日みなさんにお伝えしたかったのはただ1つ! 私は『コハクちゃんハーレム』に入りたい人のことを大歓迎しています! いつでもお気軽に声をおかけください! たくさんの方とコハクちゃんの魅力について語り合える日が来ることを楽しみにしています。これで入学の挨拶とかえさせていただきます。新入生代表、コハクちゃんが大好きなヒナ=スカーレットでした!」


 シーンと静まり返った会場。

 ヒナが階段を降りる足音だけが響き渡る。


 とんでもない挨拶をしやがって……。

 ったく、仕方ねぇなあ。


 俺が1人立ち上がって拍手を始めると、ほかの生徒も釣られたように続いて拍手をしてきた。


 初日からとんでもないトラブルを起こしやがって……。

 これから俺はどんな顔をして学院に通えば良いんだよ……。

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