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第16話 ……おい。チカの前でイチャつくのはやめるンよ!

「入学式のあの日。チカはお前の真後ろにポジションを取ったンよ。いしゆみを構えて、じっくりと狙いを定めて――」


「俺、大ピンチじゃん……」


 まさか命の危険に晒されていたなんて、ぜんぜん気づかなかったわ……。

 おい、ヒナ! なんでそんな大事なことを言ってくれなかったんだよ⁉ ヒナなら、俺が命を狙われていることに気づいていたんだろ⁉


「コハクちゃんは命なんて狙われていませんでしたよ? ずっとそこの女に睨まれていましたけどね」


 どういうことだ……?


いしゆみを構えて、じっくりと狙いを定めていたら……武器の持ち込みは禁止だと先生に怒られたンよ……」


「でしょうね! 先生グッジョブ!」


 武器の持ち込みが許されている入学式なんてあるわけないよな!

 いや、そもそも学院内は武器禁止だろ!


「学院内は武器の持ち込みはOKですよ。生徒の中には剣士や魔導士志望の方も多いですし、闘技場での訓練に武器は必須ですから」


「あーそうか。でも式典に武器はダメだよな」


「それはそうですね。そんなのただのテロ行為ですし」


「チカは抵抗したンよ。でも、先生が怖い顔をして、正当な理由がなく武器を持ち込むのは禁止って……。でもこれは正当な理由なンよ!」


「絶対違いますよねっ!」


 もはやこの場合、テロっていうか普通に逆恨みによる殺人未遂でしょ!

 なんでそんな簡単によく知らん俺に対して殺意を持てるんだよ⁉


「入学式の後、反省文を書かされて……ようやく取り戻したンよ……チカの命!」


 今、チカリアさんが愛おしそうにキスしているのは俺が作った武器な?


「今日こそお前を亡き者にして、チカは自由を手に入れるンよ!」


 俺の作った武器に嫉妬して、俺を亡き者にしようと……しかも俺が作った武器を使って……?

 マジで何なの? 見た目はめちゃくちゃかわいいのに中身が残念過ぎる。


「この女、頭おかしいですね」


「相当おかしい……。まあ、ヒナも中身はそう変わらんけどな?」


 今のところ、火が吐けることくらいしか、チカリアさんに勝っている部分がないからな?


「巨乳が憎い……」


「スタイルだけじゃなくて、普通に顔も完璧に負けているからな?」


 ちょっと自己評価高すぎるぞ?


「それについては物申したいです! 一般的な顔面偏差値で言ったら私のほうが上なはずです! ねぇ⁉ 殿下⁉」


「え、ええ……そう、かもしれませんわね……?」


 いきなり話を振られて困っていらっしゃるじゃないか。

 一般的な顔面偏差値が高いっていうのは、ミサリエ王女のみたいな人のことを言うんだろ? あとは、生徒会の何とか先輩?


「私は美人です! もっとチヤホヤされたいです!」


「なんだその承認欲求の塊みたいなやつ……。お前が美人かなんて知らんがな。仮にヒナが一般的に見て美人だったとしてもだ、もう出逢ってから3日以上経っているから、お前の顔などとっくに見飽きたわ! 俺は俺の好みで評価させてもらう!」


「ぐぬぬぬ~。コハクちゃんはブス専だったぁ」


「チカリアさんに失礼だぞ! なあ?」


「チカは父上と母上に『天使のようにかわいいね』と言われて育ってきたンよ。だからチカは天使の生まれ変わりなンよ?」


 この人も自己評価めっちゃ高いな……。

 まあでも、チカリアさんは黙っていたら天使のようにかわいいですね。でもそんなに俺のことを睨んでいたら、目つきが悪いしせっかくのかわいい顔が台無しですよ?


「あ~、コハクちゃんが鼻の下を伸ばしてる! エッチぃぃぃぃ!」


「失礼な! 美しいものを愛でて心を癒していただけだわ!」


「それならわたくしのことを見ていただければ、誰よりも癒して差し上げられると思いますわ!」


 なんだこの承認欲求お化けたち……。

 俺の周りにはもっとおしとやかで3歩下がって2歩戻るような美人はおらんのか⁉


「コハクちゃん、それは1日1歩の歌なので美人とは関係ないです」


 そうだっけか……ホントは何だったか……。ってそんなことはどうでも良いのだよ。


「私とコハクちゃんはワンツーパンチでどこまでも一緒に歩いていきましょうね♡」


「その歌のことよく知らんから無理」


 それにな、俺はお前に、本当の意味で前世の世界から存在ごと亡き者にされたわけだし。新たな生はもらったが、そんな相手に勝手についてこられても困るんだよなあ。


「それはもう時効ですよね? 14年も経ちましたし」


「女神時代にやったことを、どこの国の法律を適用しようとしているんだ? あんなひどいことをしておいて、時効なんてあるわけないだろ!」


 俺は一生言い続けるぞ!


「つまり……『俺はお前を離さない。一生そばにいて、その罪を償い続けろ』そういうことですね♡」


「ぜんぜん違う」


 思考がポジティブすぎるだろ……。

 良い感じの火魔法の使い手が現れたら、さっさと天界に帰ってくれ。

 ヒナがいるとトラブルばっかりで気が落ち着かないしな。


「またまた~♡」


「事実だ」


「素直じゃないんだから~♡」


「……おい。チカの前でイチャつくのはやめるンよ!」


 すごい形相でいしゆみを構えるな!

 それ、もし人に当たったらマジで死ぬからな?


「チカリア様もコハク様のハーレムに混じりたいそうですよ♡ わたくしも混じりたいです♡」


 そうですかねー。この態度からして、どうしてもそうは思えないんですけどねー。

 ねぇ、王女殿下?「混じりたい」っておっしゃっているわりには、がっつりと伝説の樹の後ろに隠れていらっしゃいますね? あのいしゆみって、爆発貫通攻撃ができるんで、それくらいの太さの樹だと、木っ端みじんになるんですよね。そこはぜんぜん安全圏ではないですからね。


「チカはちっともうらやましくなんてないンよ! 職人の世界には友達も恋人もいらないンよ!」


「考え直してくださいませんか? 一生独り身というのはとても淋しいですわよ?」


 まあそれはそうだな。

 今回はミサリエ王女の言うことに一理ある。


「チカリアさんの父君も鍛冶職人なんだよな?」


「もちろんそうなンよ。それがお前に何か関係あるンよ?」


「チカリアさんの母君も鍛冶職人?」


「もちろんそうなンよ。それがお前に何か関係あるンよ?」


「2人は同じ工房出身なんだろ?」


「もちろんそうなンよ。それがお前に何か関係あるンよ?」


 ふむ、ということは……やはり職場結婚か。

 毎日武器や防具の加工をしていたら、出逢いの場なんて限られているもんな。まあ、そうなるよなあ。


「チカリアさんの父君と母君は恋愛結婚してんじゃん」


「っ⁉……う、うるさいンよ! それとこれとは話が違うンよっ! すぐに黙らないと撃つンよ!」


 今、痛いところを突かれたって顔をしましたね?

 勢いに任せてキレて誤魔化しているけれど、実は自分の両親が恋愛結婚したことに気づいてしまいましたね?


「別に職人を目指すからって、寝ても覚めても石加工のことばかり考えていなければいけないわけじゃないだろ。息抜きも必要だし、友達も必要。もちろん恋人だって家族だって必要に決まっている。チカリアさんのご両親が正しいよ」


 自分で言っていて思ったが、寝ても覚めてもって石加工のことばかり考えているって……。


「まるで石野建造さんみたいですね」


 あー! もう思い出したくなった石野のじいさんの名前!

 じいさんのせいで俺がこんな目に!

 俺は石加工なんて別に好きでもなんでもねぇのにな!


「コハクちゃんは、この世界のことキライですか……?」


 ヒナ……そんな目で見るなって。

 俺だってさ、14年もここで過ごしているんだぜ。


「そこそこ楽しんではいるよ」


 ここに転生してきた経緯は気に入らねぇ。でもな、前世の、板野賢治の人生と比べてどうか、なんてことはわからない。もう俺には選択肢なんてねぇんだもんな。


 この世界をどれだけ楽しめるかは、俺自身のこの先のがんばりに掛かっている。

 きっとそうだ!


「あ、コハクちゃん」


「なんだよ……。今の俺、すっげぇかっこいい感じだったんだが?」


「このままだとこの先をがんばれなくなりそうなので……一応。念のため注意喚起を使用かと思いまして……」


 ん? 注意喚起? なんだ?


「お前……偉そうなことを言っているけれど、見え見えの時間稼ぎなンよ。とっくに時間切れなンよ!」


 ちょちょちょ!

 いしゆみの弾丸用火石がすでに着火されてるぅ!


「俺の人生、14歳で終わっちゃうじゃん!」


 このままだと前世よりも理不尽な死に方しちゃう⁉

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