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第17話 じゃあ……ウマで良いよ、ウマ娘で。ロバに似ているし

「コハクちゃん! 私を置いて先に逝かないで!」


「コハク様~! 死なないでくださいませ~!」


 その場で泣き崩れるヒナ。

 寄り添うミサリエ王女。


「せ~の」


「コハクちゃ~ん」「コハク様~!」


「「死なないで~!」」


 いや、「せーの」って言うのやめろな? 演技くさくてめっちゃ冷めるからさ。


「あのさー、ヒナはドラゴン族のハーフなんだからさ、前に出て俺のことを守れよ。変身して硬い鱗で火石の弾丸を防げって」


 なんで俺の後ろに隠れているんだよ。

 ボディーガードとしての役目を果たせ!


「コハクちゃん、それ小さい頃からずっと言ってますけど、また信じてくれていないんですか? 私の血はほとんど人族だから、ドラゴンになんて変身できませんよ。火が吐けるのも、ドラゴン族の血とは無関係ですよ。火の精霊さんが『口の中に住みたい』って言ってくれているおかげですからね?」


「なんだと……」


 精霊が口の中に住んでいる話は初耳だぞ!


「じゃあもう、ヒナのドラゴン要素ってその角だけじゃん」


「あ、これもカチューシャです。ドラゴンって3年ごとに角が生え変わるので、今は角がない時期なんですよ」


 と、ヒナが頭についていたドラゴンの角……のカチューシャを取って見せてきた。


「マジやんけ……。もうドラゴン要素0じゃん……」


 角も尻尾もなくて……ただの人族の女の子じゃん。


「急に角がなくなったらびっくりさせちゃうと思って、取れた角をカチューシャにしてつけていたんですよ~。コハクちゃんはモン娘好きですし、ドラゴンハーフな私が好きですもんね♡」


「角で突いてくるな! 普通に痛いわ! ていうか、俺はモン娘好きでも、ケモナーでもないからな?」


 何度言ったらわかるんだ!

 石野のじいさんの性癖だからな! ごっちゃにすんなよ!


「でもほら~、コハクちゃんって、たぬき娘が好きじゃないですか~」


 その流れでチカリアさんを指さすな!


「たぬき顔とたぬき娘は天と地ほど違うだろ! ケモナー舐めるなよ⁉ いや、俺はケモナーではないがな!」


 誰か石野のじいさんを連れてきてくれ!

 きっとじいさんならケモナーについて熱く語ってくれるだろうよ!


「つまり……わたくしはたぬきの耳をつけると……?」


 ミサリエ王女は震える声で何を言っているんですか?


「何もなりませんよ。ミサリエ殿下は……無難にネコミミのほうが似合うんじゃないですか?」


 知らんけど。


「わかりましたわ! 猫を狩ってきます!」


「待ってー! 狩るのはやめてあげてー!」


 ネコミミカチューシャは、本物の猫の耳をちぎって作るわけじゃないんだよー! そんな猟奇的なネコミミは絶対やめてー!


「それならやっぱりチカがたぬきミミをつけると良いンよ? そうしたら父上と母上にもっとかわいいって言ってもらえるンよ?」


「え、あー、そうだな。絶対似合うし、かわいいって言われると思う、ぞ! ひげもついているとよりかわいさが増すんじゃないかな! こう、ほっぺたに3本ずつビョンって感じで」


 わかりますかね?

 マンガ的な太いひげですよ。


「ビョン……?」


 チカリアさんが首を傾げている。


 んー、うまく伝わらないか……。

 ちょっとイラストに描いて見せるか。


「ちょっと教室に戻ろうぜ。ノートにイラストを描いて説明するよ。さあ今すぐ行こう!」


 とにかく勢いで押し切ろう!

 ここでこうして対峙していると俺の命が危ない!


「わかったンよ。ひげビョンの謎を教えるンよ」


 チカリアさんは頷き、伝説の樹の下に置いてあった荷物をまとめて背負った。


 お、やったか⁉


「わたくしのネコミミにはひげはいらないでしょうか⁉」


「ネコミミにもひげがあったほうが良いかもしれないですね! なくてもかわいいと思いますけど!」


 ここは宗派が分かれるところだろうな。

 ネコミミは派閥が多い。

 何猫の耳を選択するか、というところから戦争が起きかねないからな……。


 とにかくそういうのも含めて、まずは移動しましょう!


「わ、私も違う耳にしてみようかな~? 何か私に似合う耳ってあったりしますか?」


 ヒナがドラゴンの角を外してから、俺のことを上目遣いで見てくる。


「んー、ロバかな」


「ロバ⁉ ロバの耳ってどんな形状なんですか⁉ ぜんぜん想像がつかないんですけど⁉」


「俺もよく知らん。でも、ウソつきはロバの耳になるんだろ?」


 たしか童話に書いてあったし。


「あれは元々王様の耳がロバの耳だったっていうだけです! ウソを吐いたからロバの耳になったわけじゃないですからね! 私もウソつきじゃないですし!」


「じゃあ……ウマで良いよ、ウマ娘で。ロバに似ているし」


「コハクちゃん……その界隈に安易な気持ちで触れると痛い目を見ますよ……」


「その界隈って何だよ……」


 ウマミミ付ければ良いじゃん。


「触れたらいけないこともあるんですよ……。ほらそれに私って丸顔ですし、馬面じゃないので遠慮しておきます!」


 うーん、そっち方面も別の意味で危なそうな気がするから、深くはツッコまないでおこう。


「じゃあもう好きにしろよ。自分の好きな耳を勝手につけろ」


 俺たちは教室に行く。

 たぬきミミとネコミミのデザインとひげのありなしを議論しなければいけないからな!


「え~、好きな耳かあ♡」


 なぜ俺を見る。


「コハクミミにしようかなあ♡」


 俺の耳を……? いや、それはダメじゃないか……?


「ヒナの頭に俺の耳がくっついていたらもうホラーだろ。絶対猟奇的な何かじゃん……」


「耳たぶ薄くてかわいいと思いますけどね~♡」


「わたくしもコハクミミにしたいですわ!」


 ヒナとミサリエ王女が顔を見合わせて微笑み合っている。

 この2人……ヤバいところで気が合っている気がする……つまりヤバいヤツら……。


 チカリアさんも違う意味でヤバい人だしな……。

 なんかこう、まともな人が近くに1人くらいいてほしい……。


「もう♡ 常識から生まれてきたような存在の私がいるじゃないですか~♡」


 人の心を読んで話しかけてくるヤツが常識を語るな。


「コハク、ヒナ、ミサ! イチャイチャしていないで、早く教室に戻るンよ!」


 チカリアさんがすげぇ乗り気だ……。

 さっきまで俺のことをいしゆみで撃ち殺そうとしていた人とは思えないくらい、普通に溶け込んでいる。


 危機は脱したが……変なの……。

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