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第18話 ヒナ……この世界にハードな18禁モノの知識を持ち込んではいけない

 教室に戻り、しばらく時間をもらってラフスケッチを描いてみる。

 こういうのは口で説明してもぜんぜん伝わらないからな。


「じゃあ2人とも、このラフ画の通りの耳とひげで良いか?」


 チカリアさんがたぬきミミとひげのセット。

 ミサリエ王女がネコミミとひげのセット。

 一応2人の似顔絵なども交えつつ……と言っても、ラフなんでそこそこ手を抜いた出来になっちゃっているけれどな。そこにクレームはなしで頼むよ?


「それともひげなしverのほうが好みだったら言ってくれよ」


 違いを見せるために、ひげなしverのイラストも描いて見せてみた。


「これがチカ……? 世界一かわいいンよ……」


 薄々思っていたけれど、チカリアさんってかなり自己評価高いな。ヒナと良い勝負だ……。

 まあね、たぬきミミをつけたら、今よりもさらにかわいくはなると思うよ? 学院で1番取れるくらいはいけるかな?


「この宝を王宮に飾ってもよろしいでしょうか?」 


 と、ミサリエ王女。

 感動で涙を流すのはリアクションがオーバー過ぎませんか? 王女様なら、普通に肖像画の1枚や2枚は描いてもらったことがあるでしょ。しかもプロの画家にさ。


「冗談でも絶対にやめてくださいよ。そんなラフ画を王宮になんて飾られたら恥ずかしすぎるんで!」


「それでは宮廷画家として雇用する方向で話を進めるということでいかがでしょうか」


「それもちょっと……。俺、『石加工』のスキルしか持っていないんで……」


 気に入ってくれたのなら、それはうれしいことではあるんだけど、褒め方がいちいち重い……。


「コハクちゃん……」


「なんだヒナ?」


 呼びかけられて振り返ると、ヒナが恐ろしい形相で佇んでいた。

 ウキウキでラフイラストを抱きしめる2人とは対照的な……。


「どうした? ヒナはそのイラスト、気に入らなかったか? オーダー通りだと思うんだが?」


「そうですか……。じゃあこのイラストの通りに、コハクちゃんの血だらけの耳を口に咥えて見せましょうか?」


「……すんません。悪ふざけが過ぎました」


 だってさー、ヒナが「コハクミミが良いです!」って譲らないから俺だってちょっとふざけてホラーテイストの絵を描いてみたりしたくなっちゃっただけだし? 悪気はなかったんだし?


「そういう意地悪をするなら、私にだって考えがありますよ!」


 足で床をダンダンと踏み鳴らす。


 けっこう怒っていらっしゃる……。


「考えってなんだよ……」


「もう石の成分表をほしがっても手に入れてあげませんからね!」


「そ、それは……非常に困るんだが……」


 それをやられると『ワンランク上の石加工職人』を目指す俺としては死活問題になってしまう。

 なぜなら、スキル研鑽の修行をしていく中で、『石加工』のためには岩石や鉱物――つまり石のことだが、その詳細なデータがなくてはならないものだとわかってしまったからな。

 石の構成要素や成分なんかを細かく理解していればいるほど、これまでの『石加工』の概念を覆す加工――ワンランクもツーランクも上の――まるで魔法のような加工処理ができてしまうことがわかったのだよ。


 はっはっは。こんなことができるのは、おそらくこの世界に俺1人だけだろうな。


「というわけでヒナ様……引き続き私めに力をお貸し願えませんでしょうか……」


 ここはプライドを捨てて土下座の構え。


「コハク様⁉ どうなされたのですか⁉」


「コハク、腹痛くてうずくまっているンよ?」


 この国には土下座という文化がないからな。2人には俺が何の目的でこうしているのかわかっていないようだ。

 でもヒナには伝わるよな? 俺のこの想い!


「……おい、何をしている」


 わざわざ靴を脱いで……さらに靴下まで脱いで素足になって、いったい何をしようとしている……?


「何って~、それはもちろん~、コハクちゃんに忠誠の証を立ててもらいたいな~と思っただけですよ?」


 そう言って、ヒナは俺の顔の前に素足突き出してくる。

 おいー! 1日革靴を履いていて、なんなら伝説の樹探しで外を歩き回って、蒸れに蒸れてとんでもない悪臭を放っている素足を……俺の鼻先に! 鼻が曲がるからやめてく……れ? あれ? ぜんぜん臭くないな? むしろ癒される? 嗅いでいると疲れが取れていくようなさわやかな香りが……?


「女神の足が臭いわけないじゃないですか。変なコハクちゃんですね」


「お、おう……そう、か……」


 女神ってそういうもんなのか。

 そう言えば昼間に顔を舐め回されても臭くはなかったな……。女神ってそういうもんなのか。なんか変なの。


「それで……忠誠の証って、俺は具体的に何をすれば良いんだ? 足の爪でも切れば良いのか?」


 足の爪って自分だと切りにくいもんな。わかるわかる。


「違いますよ。忠誠の証といったら、足をペロペロするって相場が決まってますよ?」


 どこの相場だよ……。


「適当にダウンロードしてきたマンガにそう書いてありましたよ?」


 マンガ……。

 適当にダウンロードしてくるなよ。それ、違法サイトじゃないよな? ちゃんとしたサイトで課金してからダウンロードしたか?


「えーと、タイトルは……『私は卑しい畜生でございます。どうかご慈悲を! お身足に触れる栄誉をお与えください!~騎士は女王陛下に忠誠を誓う~』だそうです」


「うむ。そのデータは破棄しなさい。……そこの2人、ひそひそしない!」


 ヒナ……この世界にハードな18禁モノの知識を持ち込んではいけない。間違ってもBLはいけないよ? 例外として、GLは尊いものだからどんどん広めていこう。


「コハクちゃん、それは自分に都合が良すぎますよ……」


 冗談だ。

 まあでも、俺たちが広めなくてもミサリエ王女もみたいな人もいるからな。「同性女性が好き」って、普通に告白してきたし、この世界も捨てたもんじゃないよな!


「私としてはコハクちゃんハーレムが広がっていくならそれはそれで?」


「ハーレムは……あんまり大っぴらに集めると周りからのヘイトがな……」


 さっきみたいに命を狙われたくない。

 って、チカリアさんは別にハーレムに反対して俺の命を狙ってきたわけじゃないんだよな。


「ああ、そうだ、チカリアさん」


 たった今、すっげぇ良いことを思いついたわ!


「どうしたンよ? ヒナの足をペロペロ舐めないンよ?」


「えっとそれは……あとで応相談ってことで」


 ヒナももう、普通に靴下履き始めているし? おそらくさっきのは冗談だったんだろうな?


「それより、チカリアさんにも、そのいしゆみみたいなものの簡単な作り方を教えましょうか」


 チカリアさんの目つきが鋭くなった。


 よし、興味はありそうだな。


「誰にも言わないと――父君や母君にも言わないと約束できるなら、チカリアさんにだけ、特別に俺のスキルの秘密を教えますよ」

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