「特別にスキルを……? どういうことなのか詳しく説明するンよ」
険しい表情のまま、チカリアさんが距離を縮めてくる。
まずは……
「まあまあ、落ち着いて。とりあえず座ろう。ちゃんと説明するからさ」
俺自身が教室の隅の席に腰かけ、チカリアさんにも俺の正面に座るように誘ってみる。チカリアさんはしかめっ面のまま無言で頷き、ゆっくりと腰を下ろした。遅れてヒナとミサリエ王女が、俺たちの席に近づいてくる。
「よし、簡単なクイズを出そうと思う」
俺はポケットから色の違う3種類の石を取り出し、机の上に置いてみせた。形はバラバラで、サイズはだいたい5cm角程度の小さな石ころたちだ。
「チカリアさんは、『武器を作れ』と言われたら、この3つの石のうち、どれを使って武器を作る?」
「……バカにしているンよ? こんな小さな素材から作れる武器なんてないンよ」
機嫌を損ねたのか、チカリアさんの片眉が上がる。
「ごめんごめん。これはサンプル品ってことで、この3種類の石は、それぞれ武器を作るのに必要な量だけ用意できるものとして考えて」
うむ、わりと現実主義者だったわ。
自分のことを「世界一かわいい」なんて言う人だし、もっとふわふわしている人かと……。
「う~ン」
突然出したクイズなのに、適当に答えるのではなくて、しっかりと石の種類を吟味してから答えようとしてくれているね。さすがドワーフ族随一の鍛冶職人の娘。これだけでもチカリアさんが真面目に鍛冶職人を目指していることがわかる。
「これにするンよ」
チカリアさんが3つの中から1つの石をつまみ、俺に見せてくる。
「ちなみにそれを選んだ理由を尋ねても良いか?」
「いつも取り扱っている鉄に1番近いンよ」
「ありがとう。わかりやすい理由だ」
ちなみにチカリアさんが選んだのは『鉄』が含まれた石――鉄鉱石だ。刀を鍛造するのによく使われる『炭素鋼』は、鉄鉱石から鉄を抽出して、そこに炭素を混ぜて作り出す。でもこれは、鉄鉱石の中でも、鉄の含有率が極めて低い粗悪品だから、相当わかりづらかったはずなんだけど、普通に当ててきたね。
まあ、鉄鉱石を選ぶということは、鍛冶職人として考えればスタートラインともいうべき当たり前の正解なわけだけどね。
「……やっぱり、バカにしているンよ?」
「してないしてない。じゃあここからが本題」
俺はにやりと笑って、チカリアさんに選ばれなかった残りの2つの石を持ち上げてみせる。
「チカリアさんは、こいつらがなんなのかわかる? 何に使われる素材なのかわかる? って言ったほうが考えやすい良いかな?」
さあ、どんな答えを出すのか楽しみだ。
ここからが俺の研究の成果発表みたいなものだからな。
「どちらも見たことがないンよ。わざわざ持ち歩いているし、珍しい石なンよ?」
首を傾げて……さすがに降参かな? 少なくともチカリアさんの中に答えはなさそうだ。
もちろん想定通りだけど。逆にわかったらすごい、っていうか、もしこの石の成分を正確に言い当てることができるとしたら、それは俺と同じような知識を持っている転生者しかありえないからな。
「コハクちゃんの持っている知識じゃないですけどね」
それは今は良いじゃん?
ヒナの持ってこれる知識は俺の知識とイコールじゃん? 俺とヒナは運命共同体じゃん?
って、ちょっとした冗談を真に受けてまんざらでもない雰囲気を出すのはやめて? ミサリエ王女がヒナの変化に目ざとく気づいて、俺が何かしたのかと疑ってきているからさ……。ホントこの人勘が良いな……。なんかそういう精神系のスキル持ちなのか?
「まあ、これは珍しい石かもしれないな。なんせ俺が作ったんだし」
ドヤー。
「石を作った……ンよ? 加工した、のではないンよ?」
「まあ正確に言えば加工だな。俺流に加工して、自然な鉱物のように見せかけてみた、ってところか」
実際はガッツリ人工物なんだけど、その辺の山から切り出してきたみたいに見えるだろう? 最近さ、一周回って加工して研磨した宝石よりも、無加工の原石のほうが良いなって思えるようになってきたんだよね。素朴な美しさってやつ? この感じ、わかる?
「そんなことをして何になるンよ?」
呆れたような冷めたような目。
あれ? 無加工の原石の良さがわからない?
「世界一の美少女とお話する機会を得て、こうやってクイズを出して驚かせられる、とか?」
「お世辞が過ぎるとバカにしているようにしか聞こえないンよ。遺言はそれで良いンよ?」
「冗談だから! すぐに
思い切ってリスクを冒し、チカリアさんの持つ
「やめるンよ! この武器に触れて良いのはチカだけなンよ!」
「いや、それは元々俺が作ったものだからね、っと」
はい、無力化に成功。
これでヨシ。
チカリアさんの手元にあった
「ああああああっ! チカの命が砂になってしまったンよ! 何をしたンよ⁉」
チカリアさんはそれを見つめて体を震わせていた。ミサリエ王女は目を見開き、口をポカンと開けて驚きをあらわにしていた。ちなみに、ヒナはこの光景を見慣れているだろうし、とくにいつもと変わらずだった。
「まあ、言ってしまえば、元の素材に戻したってところかな」
まあ、実際には本来の石の状態よりもさらに細かく分解しちゃったけどな。
「元の素材……? どういうことなンよ……」
「だからそういうこと。たとえばこっちの謎の石たちも……ほらな、細かい粒子の砂に分解できるんだよ」
両手に1個ずつ持った謎の石が、俺の手の平の上で砂になる。
普段はもっと細かくするんだが、そうすると目に見えなくなるからな。そういうのは、基本的にはちゃんとした設備がないところではやらないようにしている。風で飛んで、貴重な素材がどこかへ行ってしまったらだるいしな。
「ちょっと離れていてくれよ。今から『ワンランク上の石加工』をするからさ」
俺の実力に驚愕して恐れおののけ!