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第22話 マイナスの感情はあっさり反転するものですから

「それで、お前みたいに『石加工』スキルを使うにはどうすれば良いンよ?」


 チカリアさん小型ピストルをいじりながら尋ねてくる。


 新しい武器に興味津々だな。

 眉間にしわを寄せながらいろいろな角度から小型ピストルを眺めている姿もかわいい……。貴族っぽくおしとやかにしていたら最高なのになあ。


「ちなみにそのピストルは最新モデルだから殺傷力はないよ。でも教室では絶対撃つなよ」


 これはフリではない。

 室内で着弾すると、そこら中に花火が飛び散って片づけが面倒だからだ。


「わかったンよ。お前には当てないようにしてやるンよ」


 ピストルの照準を、俺たちの座っている席の対角線にある花瓶に向かって――。


「バ~ンよ」


 花瓶の中心部分に見事着弾。

 陶器製の花瓶は木っ端微塵に破裂した。

 と、同時に、辺り一帯に火花。目で見て楽しい色とりどりの花火が飛び散っていく。


 ちょっ!

 ホントに撃ちやがった!


「フリじゃねぇっての! おい、花火が掲示物の紙とかに燃え移ってるじゃんか! 誰か、水を持ってこい! 消火だ!」


 このままだと火事になっちまう!


「まあ! どうしましょう! お水……花瓶が割れてしまって……じょうろを借りてまいりますわ!」


 ミサリエ王女が慌てて教室を飛び出していく。


 頼んだ!

 って、ヒナは何で動かねぇんだよ。お前も急げ! ミサリエ王女と協力して水汲んで来い! 俺は布で叩いたりして、何とか消火を図ってみる!


「これくらいなら、チカに任せンよ」


 チカリアさんがズンズンと大股で歩き、火元に近づいていく。

 そして両手を広げて前に突き出した。


「おい、危ないぞ!」


「コハクちゃん、たぶん大丈夫ですよ」


 なんだと?

 なぜそんなに余裕ぶっていられるんだ?


「チカに任せるンよ。『ウォーターボール』なンよ!」


 チカリアさんの手の平から、顔よりも大きな水の球が生成される。


 マジか!


「精霊さん精霊さん、火を消すンよ! お願いなンよ!」


 精霊魔法が使えるのか!


 チカリアさんの手の平から放たれた『ウォーターボール』が、それはそれはものすごくゆっくり――人間が歩くよりも遅いくらいのスピードで飛んでいく。花瓶の残骸辺りを中心に、今もまだバチバチと音を立てて上がり続ける花火のもとへ。


 『ウォーターボール』と花火が接触。


 パシャッっと音がして、水球が割れる。

 水を被った花火の一部の火が弱まった。


 いやー、でもな、さすがにこの程度の『ウォーターボール』では火薬を使った火は消えない――そう思った瞬間だった。


「ウソだろ……」


 崩れた水球から伸びた氷が、まるで生き物のように花火の炎を侵食していく。

 花火がみるみる凍っていく⁉


「チカの契約している精霊さんは、氷魔法が得意なンよ。いつも刀を鋳造する時の瞬間冷却に使わせてもらっているンよ」


「すげぇ。あっという間に火が消えた……」


 たしかにな、刀を鋳造する時に冷却水は欠かせない。

 急冷することで刀の強度を増すことができるからだ。


 しかしこの氷……花火の火が消えるだけではなくて、花火のまま形を保ったまま凍ったところを見るに、ただの氷じゃないな。温度がヤバそうだ……。もしかして絶対零度か……?


「しかし『石加工職人』に水魔法か。……氷魔法は相性が良すぎるな。さすがドワーフ族だ」


 この力、ほしいな。

 ヒナの火魔法と同じくらい有用だわ。


「だったら、コハクちゃんのハーレムに入れてしまえば良いんじゃないですか?」


「入れてしまえばって、なあ。俺、チカリアさんに殺されそうになっていたんだぞ……」


 いくらなんでも嫌われている相手には、俺のハーレム属性は効果がないだろ。小型ピストルとか、少しずつ貢物でもして好感度を上げていく作戦でいけば、いつかは通用するのか?


「そんな面倒なことをしなくても平気ですよ。マイナスの感情はあっさり反転するものですから」


 好きの反対は嫌いではなくて、無関心ってやつか?

 そんな簡単にいくかねぇ。


「チカリアさん!」


 ヒナが歩み寄っていく。


「なンなンよ」


 テンションの低いチカリアさんが、明らかにめんどくさそうに返事をした。


 この2人……なーんか相性悪そうだよな。

 口を開けば殴り合いに発展しそうになったりしているし……。火と水だから? それぞれの契約している精霊に引っ張られているなんてことがあるのか?


「コハクちゃんがチカリアさんの水魔法の美しさに惚れたそうです。弟子にしてくださいとのことなので、お願いできますか?」


「おい、急になんだよ……」


 俺はそんなことは一言も――。


「ホントなンよ? そんなにきれいだったンよ?」


 あれ? 鼻で笑われず……食いついた? もしや好感触なのか?


「ね? コハクちゃん?」


「お、おう……。惚れた惚れた! 美しい水魔法だったなあ。もっと見たい、できればずっと近くで見ていたいなーなんてな?」


 とりあえず押してみる!

 意外とこんなことでいけたりするのか?


「仕方ないンよ。チカが水魔法を教えてあげるンよ。その代わり、お前はチカに『ワンランク上の石加工』というのを教えるンよ」


「お、おう……」


 バーター取引ってやつだな。

 悪くはない……が、俺は精霊とは契約できないから、水魔法が使えるようにはならないと思うんだが……まあ今は良いか。


「チカが水魔法の師匠で、お前が『ワンランク上の石加工』の師匠なンよ。教え、教えられる関係……つまり恋人同士ってことなンよ?」


 照れたように小首を傾げて俺のことを見つめ――。


「お、おう……」


 そんなわけないだろ。

 というツッコミができなかった……。


 急にデレたチカリアさん……かわいすぎない?


 痛って!

 おい、ヒナ!


 なんで今ドラゴンの角でお尻を突いてきたんだよ⁉

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