ヒナ、ミサリエ王女、そしてチカリアさんを加えた俺たちパーティーは、順風満帆な時を過ご……してはいないな。
むしろトラブルしかない!
学院に入学する前――ヒナと2人の時でも、ここまでのトラブルはなかったんじゃないか?
まずは先日やらかした、教室での小型ピストル発砲&火事未遂事件。
あれはめちゃくちゃ怒られたな……。
チカリアさんは入学式の一件(武器持ち込み事件)から、先生たちには要注意人物としてマークされていたらしく、今回2度目の事件ということで、正式に職員会議にも取り上げられたらしく、わりと真面目に厳重注意された。
一応ね、ミサリエ王女が一緒にいたので、停学や退学みたいな重たい処分は食らわずに済んだのだが、「次やったら実家にも知らせるぞ」という脅しにも聞こえる口頭での厳重注意が行われたわけで――。
なのにさー。
1週間も経たずにさー。
「あーあ……。これはもう、停学は免れないだろうな……」
「チカは何も悪くないンよ。お前の教え方が悪いンよ?」
ここまで反省しないのは、もはや才能だな。
きっとご両親は、チカリアさんがあまりにもかわいいからと、蝶よ花よと大切に育てられたんだろうなあ。かわいいからって何でも許されると思うなよ⁉
「いやー、さすがに俺のせいじゃないだろ……。だって最初に言ったじゃん?『分子の組み換えは少量で慣れてからにしないと危険だから、いきなり大量にやろうとするのはやめろよ』って」
その言いつけを守らないからこういうことになるんだよ……。
「じゃあ火をつけたアイツが悪いンよ」
「私はアクビをしただけです! 火なんてつけてませんよ!」
たしかにさっきヒナの口からは煙が出ていたけれど、それが原因ではないだろうな。
たぶんね、タ方になってきたから、教室の照明が自動でついたせいじゃないかな? あれも精霊魔法なんだろ? 火魔法で着火させているんだよな。まあ、この状況で火をつけたら――。
教室の天井……吹き飛んでいっちゃうよな。
俺たちが『分子組み換え』の訓練をしていたら、突然「ボンッ」って爆発音がして、天井がどこかに消えちゃったんですよね……。
もう少しで夕暮れかあ。
星がぽつぽつ見え始まっていて、とってもきれいだなあ。
教室の天井爆散事件。
あー、どうしてこうなった?
* * *
というわけで俺、ヒナ、チカリアさんの3人は、そろって停学1週間ということになってしまいましたとさ。
さすがに今回ばかりは、ミサリエ王女もかばい切れなかったらしい。
俺たち3人だけで『ワンランク上の石加工』スキルの修行をしていたからね。ミサリエ王女は運悪く、王族のお仕事があるとのことで不在だった……。さすがに今回は王女のご威光も使えんわなあ。
「わたくしの力不足でコハク様たちを守り切れませんでしたわ」って涙を流してくれたけれど、ここまでやらかして停学で済んだのは、ミサリエ王女のおかげなんじゃないかなって思います。はい。
まあでも停学は停学なので、とりあえず俺とヒナの寮部屋で自宅待機中でございます。
「困ったンよ」
「そうだなあ。実家に連絡されると心配されちゃうから困ったな……」
って、ちょっと待て。
何でチカリアさんが俺たちの部屋にいるの? 自分の寮部屋で謹慎して?
「私は実家がないので、その点はまったく心配いりませんね!」
ヒナ……。1人だけ薄い胸を張りやがって……。わりとムカついたから、ちょっと無視しよ。
「この部屋暑いンよ。チカは喉が渇いたンよ」
チカリアさんが胸元をパタパタ。
んんー……見えそうで見えない……な。
しかし無断で部屋に入っておきながら、当たり前のように飲み物を要求してくるとは……。
仕方ないな。
保冷庫に仕舞っておいたあれは……あったあった。
ほい、炭酸水、と。
「シュワ? この水、シュワシュワするンよ?」
「ああ、俺が『石加工』で作った炭酸水だよ。うまいだろ?」
「『石加工』……? 作り方を教えるンよ」
「まあ、あとでな。さっきやっていた『石』から水分を抜き取る加工ができないと、その先の炭酸水は無理だからな。地道に研鑽を積みたまえ」
「でも教室で研究するなと言われると、どこで『ワンランク上の石加工』スキルの研究をしたら良いンよ?」
「あ、もしかしてさっき困っていたのってそっち? チカリアさんの実家は大丈夫なのか?」
停学のことを実家に連絡されてしまったら、チカリアさんのご両親も心配するでしょう。うちなんて母さんが心配しすぎて見に来ちゃうかも……。
「チカは平気なンよ。コハクの
ん、今の報告内容……ちょっと問題がありませんでしたかね? 俺たちの関係……恋人っぽいことは何もしていませんよね? もしかして、なんかしても良いの? 恋人ってことなら、少しくらいは触っても良いかな……?
「コハクちゃ~ん♡」
「おい、やめろ」
今は忙しい!
貧の者はお呼びでないんだよ。
あっちでおとなしく火でも吹いてろ。
「……最近のコハクちゃん、ちょっと調子に乗っていませんか?」
爪を立てて肩を掴むな! 痛いわ。
「俺は普通だが?」
「そうですか」
おや、あっさりと身を引いたな。
そうそう、それで良い。
ヒナは罪深き女神で、贖罪のために俺のサポート役を買って出ているだけだもんな。必要以上にベタベタすることはないんだぞ。
「やっぱりミサ殿下やたぬき娘にチヤホヤされて、調子に乗っていますよね……」
「チヤホヤって……。まあ、美しい女性たちに囲まれて、俺はとてもしあわせだよ。ありがとうな?」
ハーレム属性ってやつも、程良い感じに作用すれば良いもんだな。
「だからって私のことを蔑ろにして良いわけじゃないんですよ?」
「別に蔑ろにはしていないが……」
「してます」
「してないが……」
「無自覚なら極悪ですよ!」
ケホッ。
急に顔に煙を吹きかけてくるな! いやがらせか!
「私の胸が小さいから、コハクちゃんは私にやさしくないんですか⁉」
いや、いきなり涙目になるなって……。
「いや、さすがにそんなことくらいでは……」
そんなに差をつけるわけない……じゃないか、な?
「きぃ! やっぱりそうなんだ! たぬき娘が憎いっ!」
ヒナがチカリアさんを睨みつける。
「なンなンよ……。お前の胸が小さいのと、チカの胸が大きくて形が良くてもう少しで国宝認定されるのには何の関連性もないンよ?」
ほほぅ。国宝っすか。
それはぜひ一度拝んでみたいものですな。
「ほら! そうやってす~ぐに寄せて上げて、コハクちゃんの視線を奪おうとする! そういう姑息なやり方が気に入らないんですよ!」
「チカは普通に腕を組んでいるだけンよ。言いがかりはやめるンよ!」
ボタンを1つ開けて、腕で寄せてあげて、前かがみになって……今はわざとですね?
大変けしからんっ!
「もう我慢ならないです! 女神の名のもとに、たぬき娘を粛清します!」
女神は粛清とかしないんじゃないか?
それと、今のヒナにはそんな権限はないんじゃなかったっけ……。
「トカゲの分際で女神気取りなンよ? やれるものならやってみるンよ! もう一度水素爆発をお見舞いするンよ!」
「それは……冗談抜きでやめてほしい……」
謹慎中に同じ事故を起こしたら、今度こそ退学になってしまう……。
そう、教室の天井が吹き飛んだのは、水をたっぷり含んだ『石』を加工する訓練中に起きた、悲しい事故が原因なのだ。
訓練では『石』を分子分解するわけだが、もともとの『石』の分子は壊さないように、『水素石(H2)』と『酸素石(O2)』だけを分解して取り出す。そして取り出した分子を『水石(H2O)』として再結合させるという、初歩的な訓練なのだが……。
実は分子の再結合には配合量にコツがいるのだ。
『水素石(H2)』と『酸素石(O2)』の量をちょうど良い分量で取り出す必要がある。どちらかを多く取り出しすぎると、『水石(H2O)』として結合させる時に、少し余った分子が空気中に逃げてしまうんだよな。
それを密閉空間で繰り返しやらかしてしまうと、空気中の水素濃度と酸素濃度が上がってしまい……何かの拍子にドカンッ!
これが『教室の天井爆散事件』の顛末ってわけさ。
だから初心者は少量の結合でやれと、あれほど……。