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第30話 RPGの設定みたいで血沸き肉躍るというか。まあ、そういうのってあるじゃん?

 リリスさん……リリちゃんに連れられて、俺たちは生徒会執務室を出た。

 どこへ向かうのかと思えば、着いた先は貴族用の寮だった。


 ちなみに、とっくに陽は落ちていて、もう完全に夜である。


「ここにロックウェル公爵家の禁書庫があるんですね。さすが、立派な門構えだなあ」


 と、場の雰囲気を和ませるために軽いジョークを――。


「何言っているンよ。ここはただの女子寮なンよ。チカの部屋は503号室だから、いつでも夜這いにくると良いンよ」


「夜這いですか……」


 しかしあれだ、貴族の寮ってマンションみたいに部屋番号がついているんだな。ちょっと意外だ。『薔薇の間』みたいにオシャレな名前がついているものだとばかり。


「わたくしの部屋は120004号室ですわ」


「ごめんなさい……この寮って何階建て?」


 見た感じ、5階建てくらいに見えるんですけど?

 なんか魔法的なあれで、中に入ると無限の空間になっているとか?


「ミサの部屋はチカの隣の504号室なンよ。でもそれは別に覚えなくて良いンよ」


 ぜんぜん違った。

 まあ、そんな無限空間の魔法なんてあるわけないか。

 普通にボケ負けたわ。


「ハクちゃん、夜這いは後にしてください。今はほかの生徒たちに見つからないようにこっそりこちらへお願いします」


「あ、はい」


 といっても、普通に生徒の往来がまあまあある時間帯なんですけど、どうやってこっそりすれば良いんだろう。俺とヒナを貴族寮の付近で見かけたことが珍しいんだろうな。上級生たちがこっちを見てきているな。ひそひそ小声で「夜這い?」って、それを言いだしたのは俺ではないですよ?



 リリちゃんに案内されたのは、貴族寮の入り口から少し離れたところにある古びた小屋だった。

 鍵を開けて小屋の中に入る。中はがらんとしていて家具など何も置かれていなかった。ただ部屋のど真ん中に地下へと通じる階段があるだけ。


「地下への階段か……」


 まるで悪の秘密結社みたいだな。

 もしかしたら、この下では悪魔崇拝でも行われているのだろうか。


「何を言っているんですか? この世界には普通に魔族の方もいますよ。魔族崇拝なんて流行るわけないじゃないですか」


 ヒナが俺の耳元でぼそりと呟いた。


 慣れたつもりでも、ついついこういう時には前世の固定観念が出てしまうというか、RPGの設定みたいで血沸き肉躍るというか。まあ、そういうのってあるじゃん?


「もう巻き込まれてしまったので今さらとやかくは言いませんけれど……危ないことはなしにしてほしいんですよね」


 すっげぇ正論……。


「なんか、巻き込んじまって悪かったな」


 俺さ、ヒナがいないと何にもできないから、どうしても頼っちまうんだよな。

 あーあ、ヒナがいなくても1人でやれるようになりてぇなあ。

 そうだ! もしあれだったらさ、ありとあらゆる物質の分子構造を紙に書き出しておいてくれると助かる。そうすればお前がいなくても俺1人でがんばれるからさ。な? よーし、がんばるぞ!


「そうやって私のことを用済みにして天界に返そうとしても無駄ですからね」


「バレたか……」


 まあそれは半分冗談だとしてもだ。

 俺1人の力で『ワンランク上の石加工』ができるようになると良いんだがなあ。1度分子分解をすれば構造は頭に入るわけだし、日々新しい『石』の分子構造を理解して知識量を増やしていくしかないのかな。


「コハク。早く階段を降りるンよ!」


 チカリアさんが俺の手を引いて急かしてくる。


「はいはい、行きましょうかね」


「ヒナとばかりしゃべるのはずるいンよ。チカともおしゃべりするンよ」


 こっそり耳打ち。

 うむ、嫉妬している姿もかわいいな。


「何の話をしましょうかね?」


 ちょっとエッチな話でもします?


「『水石』の分解比率が頭ではわかっていても、実際にやるとどうしても『水素石(H2)』のほうが多くなってしまうンよ。コツを教えてほしいンよ……」


 こんなのガチの授業じゃん。

 頬を赤らめてモジモジしながらする質問じゃないンよ?


「ハクちゃん、チカちゃんとイチャイチャしていると置いていきますよ」


 残念ながらイチャイチャはしていなんだよなあ。

 イチャイチャしたかった!


「すぐいきます! チカ、『水石』の授業はまた明日にでもな?」


「わかったンよ。でも怖いから……手を繋ぐンよ」


「お、おう……」


 これは……イチャイチャ?


「皆さん、これから地下室へ向かいます。地下へと至る階段の途中ではぐれると大変なことになりますから、私にしっかりついてくることをお勧めします」


 リリスさん、めっちゃ脅してくるじゃんか……。


「階段の途中になんかあるんですか……?」


 と、俺が質問すると、リリスさんがにやりと笑った。


「ここは地下迷宮への入り口――途中で正しい道を見失った者の魂は地下迷宮に囚われ、永久に彷徨うことになるでしょう」


「ヤバいじゃん……。さすが禁書庫……」


「コハク様。リリスお姉様のペースにはまってますわよ。階段は1本道ですし、煌々と明かりはついております。もちろん地下迷宮などではありませんわ」


「もう、ミサったら、ネタばらしが早い~。私ももう少しだけハクちゃんで遊びたいです~」


 そういう冗談は勘弁してください……。

 ヒナとチカの顔、見えます?

 リリちゃんが俺と距離を詰めようとすると、怒りの矛先が俺に……理不尽ですね。


「あのー、リリちゃん。禁書庫に行くのって時間かかりますか? 時間がかかりそうなら明日にするのも手かなーと」


 俺のほうには急ぐ理由はないんで、仕切り直しても全然平気です。なんなら明日もまだ停学中だし、朝から動けます!


「禁書の確認は明日にしましょうか。でも今日中に地下室への入場許可設定をしてしまいたいので、急いで一度地下室に行きましょう。手間は取らせません」


「まあ、そういうことなら」


 入場許可設定か。

 あれかな。ここにあるのは門外不出の禁書だし、中に入るにはロックウェル公爵家の許可を得ないといけないのかな。申込書を書いて会員登録的な?



 一本道の長い階段を降りていき、もの数分で地下室に到着する。

 しかし、それを一目見て、俺は軽い気持ちでここにやって来たことを激しく後悔するのだった。


「あー、入場許可設定ね……。はいはい。そういうシステムね……」


 地下室の前には、高さ3m……いや、5mを超える大きな扉があった。

 そしてその扉を塞ぐようにして立っていたのは、巨大な土人形――ゴーレムでした、と。


 しかも2体。

 これはまあ……扉の番人的なあれですよねー。


 帰りたい!

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