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第32話 たぬきの丸焼きにして今夜の夕食にしてあげま――ファイヤアロー!

 石人形にするために良さそうな素材はないか……。


 地下室の前は円形の広場になっているが、地面は黄色みを帯びた細かい粒子の砂地で、石人形の材料に向いているとはとても思えない。これはおそらく海辺から運んできた砂を蒔いたものだろう。


「コハクちゃん? うろうろして何を探しているんですか?」


 ヒナが不思議そうに首を傾げながら声をかけてきた。


「リリちゃんの話を聴いていなかったのか? ゴーレム作りだよ。『生命の妖精』を宿すための素体となる石人形を作る必要がある」


「それなら砂を使えば良いンよ。『砂』は『石』なンよ?」


 チカがしゃがみ込み、足元の砂を掬って見せた。


 照明に反射してキラキラと砂。

 やはり『石』として再構成しても、大した強度にはならなそうだ。普通に2体の土人形のゴーレムに力負けしてあっさり壊れそうだ。


「戦闘になるなら、ちょっと強度が足らないな。せめて鉄分を含んでいてくれたらな……」


「鉄分ならそこにあるじゃないですか?」


 そこ?


 ヒナが指さしているのは――。


「いや……これは地下室の扉……」


「でも鉄分いっぱいですよ?」


「そりゃそうなんだが……」


 扉の材質は……装飾品を除けば、鉄に炭素を混ぜた『炭素鋼』だな。つまりは武器にも使えるとても硬い合金なわけで……。

 ちなみ鉄ってやつは純度が高ければ良いわけではない。純粋な鉄より、炭素を混ぜたほうが硬度や強度を増すことができるのだよ。武器や防具にするには、それなりに炭素を混ぜてやる必要があるってわけだ。どれくらいかって? それは企業秘密だな。


「コハクちゃんは企業じゃなくて個人ですよ」


 いちいち心の声にツッコんでくるな。


「早く分子分解して石人形にしてしまってくださいよ」


「それはさすがにダメだろ……」


 常識的に考えて、地下室のドアを分解して良いわけがない。

 お前、誰かがやって来て、いきなり自分ちのドアを分解したら怒らねぇの?


「コハクちゃん、知らないんですか?」


「何をだよ」


「女神は怒ったりしないものなんですよ」


 それはそれは純度の高い笑顔でした。

 混ぜ物なしですね。


「でもお前……2秒に1回ブチ切れるじゃん?」


「またまた~♡ 人が愚かな行為をするのは当たり前ですし、女神の私がそんなことでいちいち目くじらを立てるわけないじゃないですか~♡」


 もしかして自覚ないのか?

 俺とかチカに対して切れまくっているんだが……。


「なあ、チカ」


「何か用なンよ? 気軽に呼ばれると迷惑なンよ。仕方ないなら1回だけ話を聞いてやるンよ」


 相変わらずツンデレさんだなあ。

 呼びかけただけで軟体動物みたいに絡みついてきておいて、迷惑って言われても……。


「ちょっとヒナをおちょくってみてくれ」


「なんでチカがそんな面倒なことをしないといけないンよ? トカゲ娘なんて視界に入れるだけ時間の無駄なンよ。貧乳トカゲに生きる価値なんてないンよ」


 拒否しているふりをしつつ、息を吐くように罵倒の言葉が次々と。

 さすがだな。


「ふふん? 私は女神なので、たぬき娘の鳴き声なんていちいち聞く必要もないんですよ。ちょ~っとコハクちゃんがブス専だからって調子に乗ってますね? あームカつく! 〇ね! たぬきの丸焼きにして今夜の夕食にしてあげま――ファイヤアロー!」


 途中で「ムカつく、〇ね」って言っちゃっているじゃん。

 せめて最後までガマンしろよな。

 マジで沸点低すぎだろ。


「ハクちゃん? ゴーレム作りはまだですか? ギブアップですか?」


 リリちゃんがしびれを切らしたのか、確認の声をかけてきた。

 リリちゃんの隣に立つミサ王女は、ヒナとチカのやり取りを楽しそうに眺めている。まあね、わかるよ。その気持ちは。俺も第三者だったらこの状況を楽しめると思うんだわ。こういうのは対岸の火事が一番楽しめる。だが、当事者になるのはやめておいたほうが良い。燃やされそうになったり、凍らされそうになるのはいつも当事者の俺だからな。何が言いたいかって? 笑っていないで、良いから助けろください! はい、笑って無視ですねー。


「いや、うーん。わかった。もう……今すぐ作るわ」


 あんまり悩んでいても良い解決策は浮かばないし、扉……使うしかないか。


 すぐに地面の『砂石』をそれっぽく扉に仕立てて同じ場所に突き立てておけば、案外それで許してもらえるんじゃないだろうか?

 あー、そうだよな! こんなに強そうなゴーレムが守っているんだから、地下室の扉は『炭素鋼』の扉である必要はないんじゃないか? 触ったら崩れるような『砂石』の扉だって、ゴーレム子とゴーレム美が許可証のないヤツをワンパンして近づけなければ良いんだし。


 よし、覚悟を決めて、ゴーレムの素体――石人形を作るぞ!


「なあ、ミサ殿下」


 ちょっとだけ頼みがあるんだが――って、言わなくてもわかっちゃいます?


「何⁉ ミサ、どうしたの? 何で急に私に目隠しを?」


 頼む前からもうリリちゃんの目を塞いで……察する能力がすごいな!


「サンキュー! すぐに作るぜ!」


 扉は2枚。

 敵のゴーレムは2体。


 となれば、俺の石人形に使えるのは、ゴーレム1体につき扉1枚だ!


 いけ! 俺のゴーレム太郎、ゴーレム次郎!


 というわけで鉄扉で石人形を作るのと同時に、『砂石』を使って扉っぽいものを作って、使用しなかった装飾品を取りつければ……ハリボテの扉が2枚完成! 取り付けもヨシ! 偽装工作ヨシ!


「はーい、リリちゃんお待たせー。こっちの石人形の準備はできたぞー」


 ミサ王女、もう目隠しを外しても平気だ。


「相変わらずコハクの手際は惚れ惚れするンよ……」


「『炭素鋼』はこれまでに何度も取り扱っていますから、分解も再構成もお手のものですね」


 はいはい、チカもヒナも過分な評価ありがとう、と。


「なるほど……これがハクちゃんのゴーレムですね……。うわさに聞いていた通りの人物のようで安心しました。これなら私たちの運命を預けるに足る人物かもしれませんね……」


 リリちゃんのお眼鏡にもかなったのかな?

 まあ第一関門クリアってところか。


 でも、運命を預けるって、ちょっと大げさじゃないですか?

 禁呪の『ホムンクルス』の研究をしたいだけですよね?


「まあいいや。ゴーレムの素体は用意した。俺の肩に乗っている『生命の妖精』を俺のゴーレム太郎とゴーレム次郎に宿らせてくれ!」


「コハクちゃん……」


 ヒナがジト目で俺のことを見ている。


「なんだよ、今良いところなんだが?」


「ゴーレム太郎とゴーレム次郎って……」


 強そうでかっこいいだろ?


「クソダサゴミセンスなンよ」


 チカさん⁉ 辛辣すぎませんかっ⁉

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