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第34話 ここはさ、生みの親として、一世一代の大勝負を見守ってやろうじゃないか

 やったぜ! 作戦通り先制攻撃プロポーズだ!


「ゴ~~~レム?」


「ゴ~レム? レム?」


 さっきまで砂煙を巻き上げながら腕をブンブン回していた、ゴーレム子とゴーレム美の動きがピタリと止まる。

 ゴーレム子とゴーレム美はお互いに顔を見合わせ、目の前に差し出されたルビーの指輪を眺め、そしてコハナとコハリアのことを見つめていた。



 俺が伝えた作戦はこうだ。


 コハナとコハリアは俺が作った大切なゴーレムたちだ。

 そしてそれはリリちゃんのゴーレム子とゴーレム美にも同じことが言えるだろう。


 中に『生命の精霊』が入ることでゴーレムたちは命を得ることができたわけだが、『生命の精霊』が意思を持ってその体を動かしているわけではなさそうだった。あくまで精霊は命の動力源であり、ゴーレムたちは命令で動くだけの人形なのだと思った。

 つまり、コハナもコハリアも、そしてゴーレム子もゴーレム美も、自我を持った新たな生命なんじゃないかと。それがたとえ仮初の生だったとしても、こんなところで戦って命を落として良いはずがないじゃないか。


 そしておそらく、この世界にゴーレムはお前たち4体しかいない。

 戦時下ではないから、『ゴーレム作成』は禁止されているし、そもそもそんなスキルを持っているのは、リリちゃんの一族、ロックウェル公爵家に連なる者の一部だろうしな。


 もしかしたらもう同胞に出会う機会は訪れないかもしれない。

 この出会いを憎しみで終わらせるのか、それとも一生のものとするのかは、お前たち次第だ――。


 もし、少しでもお互いにわかり合いたいと思うなら、人間流のプロポーズを試してみるのはどうだろう? これは俺が『石加工』スキルで生成した『ルビー』をあしらった婚約指輪ってやつだ。相手がこれを受け取ったら、特別な関係になることを同意する意味を持つ。主従関係とは違う、対等な間柄――パートナーだな。


 どうだ? この話に興味があるなら、これを持って全力でぶつかってこい!


 ってな感じだ。



「ゴ~~~~レム!」


「ゴレムゴレムゴレム?」


「ゴーレムゴレムレム!」


「ゴ~レ~~~ム?」


 片膝をついたままで微動だにしないコハナとコハリアを前にして、ゴーレム子とゴーレム美が何やら話し合いを始めてしまった。

 リリちゃんは、何が起こっているのか、うまく状況が飲み込めないらしく、周りでおろおろしてしまっていた。


「リリちゃん、ちょっとこっちに!」


 まだゴーレム子とゴーレム美の話し合いが続きそうなので、こっちはこっちで状況説明をしておこう。


「ゴーレム子とゴーレム美が命令を受けつけなくなってしまいました……。一体何をしたんですか?」


「コハク様、わたくしにも教えてくださいな」


 ジャッジのミサ王女も一緒に近づいてきた。


「まあまあまあ。ここはさ、生みの親として、一世一代の大勝負を見守ってやろうじゃないか」


 これこれこういう流れでこうなったわけですよ、と。

 諸々端折りつつ2人にも説明を入れておく。


「まあ! 素敵ですわ!」


 目を輝かせるミサ王女。

 きっとこういう話、好きだと思ったわ! ね、ワクワクするだろ?


「まさかプロポーズを……。ゴーレムにそのような感情があるとは思いませんでした……」


 少し渋い表情のリリちゃん。


「俺はね、すぐにわかったよ。『生命の精霊』はゴーレムに命を与えるけれど、中に入って操縦するわけじゃないってね。ゴーレムの命はゴーレムのものさ」


「ですが、『生命の精霊』の気まぐれで不意にその活動は……」


 それもわかっている。

 精霊っていうのはそういうモノなんだろ。もうさ、それは仕方ないかなって……。

 でもさ、もしかしたらだぞ、もしかしたら精霊のやつらが「もうちょっとコイツらと一緒にても良いな。おもしろいものが見られるかもしれないな」って考えて、長い期間留まってくれる可能性もあるんじゃねぇ?


「禁書ってのを見てみないとわからないけどさ。もしかしたら『生命の精霊』の在り方次第なんじゃないかなって思ったわけよ」


「ホムンクルスの話ですか?」


「そう、ホムンクルスだ。ゴーレムは命令を受けて動く人形で、ホムンクルスは自由意思で動く人間、だったよな?」


「そうです。そのように書物には書かれてあります」


 じゃあ、あの4体を見てみようじゃないか。


「リリちゃんは、あれを見てどう思う?」


「あれ、ですか。迷っていますね……」


 ゴーレム子とゴーレム美の話し合いはまだ続いていた。

 話している言葉も表情もわからないから、どんなふうに話が進んでいるのかはわからない。


 でも――。


「間違いなく迷っているよな。リリちゃんの命令とは無関係に」


 それを聞いてリリちゃんが「あっ」という表情を見せた。


「俺が何を言いたいかわかったか?」


「ぜんぜんわからないンよ! ちゃんとわかりやすく説明しないと、温厚なチカもいい加減怒るンよ!」


 背後からチカの両手が俺の首をがっちり掴んできた。


「ギブ……もう……締まってるっ!」


 チカはとにかく力が強い。

 ドワーフ族だからなのか、それとも職人としてしょっちゅう鉄を叩いているからなのか……。そしてめっちゃ短気。死ぬ……。


「たぬき娘はこんな簡単なこともわからないんですかぁ? しょせんたぬきには難しかったみたいですね。ふふん♪」


 いや、煽りは良いから……早く助けろ……。死ぬ……。


「ふっ、トカゲ娘がいつもみたいに適当に吹いているだけンよ。ホントにわかったンなら、試しに言ってみるンよ?」


 首を絞める力が少しだけ緩んだ。

 一瞬の隙を突いて手を振り払い、距離を取ることに成功。


 あぶねぇ。

 チカと一緒にいると命がいくつあって足りないのはなぜだ……。


「あらあら、大変でしたね♡」


 と、ミサ王女が俺の首を撫でてくれた。ああっ、王女様こそが俺の癒し!


「だから~、ゴーレムとホムンクルスは同じものなんですよ!」


「そんなことありえないンよ! 人形と人間が同じなわけないンよ!」


「理解力のないたぬきですね!」


「大ぼら吹きのトカゲは黙るンよ!」


 おーおー、もう俺のことなんて忘れて2人で喧々諤々と考察を。お前らホント仲が良いな。


「みなさん、あれを見てくださいまし! どうやら動きがあるようですわよ!」


 ジャッジ役のミサ王女が、片手で俺の首を撫でながら、ゴーレムたちのほうを指さした。


「お、ゴーレム子とゴーレム美が動いたな。話し合いが終わったのか……?」


 コハナとコハリアのプロポーズの結果は……どうなる⁉

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