やったぜ! 作戦通り
「ゴ~~~レム?」
「ゴ~レム? レム?」
さっきまで砂煙を巻き上げながら腕をブンブン回していた、ゴーレム子とゴーレム美の動きがピタリと止まる。
ゴーレム子とゴーレム美はお互いに顔を見合わせ、目の前に差し出されたルビーの指輪を眺め、そしてコハナとコハリアのことを見つめていた。
俺が伝えた作戦はこうだ。
コハナとコハリアは俺が作った大切なゴーレムたちだ。
そしてそれはリリちゃんのゴーレム子とゴーレム美にも同じことが言えるだろう。
中に『生命の精霊』が入ることでゴーレムたちは命を得ることができたわけだが、『生命の精霊』が意思を持ってその体を動かしているわけではなさそうだった。あくまで精霊は命の動力源であり、ゴーレムたちは命令で動くだけの人形なのだと思った。
つまり、コハナもコハリアも、そしてゴーレム子もゴーレム美も、自我を持った新たな生命なんじゃないかと。それがたとえ仮初の生だったとしても、こんなところで戦って命を落として良いはずがないじゃないか。
そしておそらく、この世界にゴーレムはお前たち4体しかいない。
戦時下ではないから、『ゴーレム作成』は禁止されているし、そもそもそんなスキルを持っているのは、リリちゃんの一族、ロックウェル公爵家に連なる者の一部だろうしな。
もしかしたらもう同胞に出会う機会は訪れないかもしれない。
この出会いを憎しみで終わらせるのか、それとも一生のものとするのかは、お前たち次第だ――。
もし、少しでもお互いにわかり合いたいと思うなら、人間流のプロポーズを試してみるのはどうだろう? これは俺が『石加工』スキルで生成した『ルビー』をあしらった婚約指輪ってやつだ。相手がこれを受け取ったら、特別な関係になることを同意する意味を持つ。主従関係とは違う、対等な間柄――パートナーだな。
どうだ? この話に興味があるなら、これを持って全力でぶつかってこい!
ってな感じだ。
「ゴ~~~~レム!」
「ゴレムゴレムゴレム?」
「ゴーレムゴレムレム!」
「ゴ~レ~~~ム?」
片膝をついたままで微動だにしないコハナとコハリアを前にして、ゴーレム子とゴーレム美が何やら話し合いを始めてしまった。
リリちゃんは、何が起こっているのか、うまく状況が飲み込めないらしく、周りでおろおろしてしまっていた。
「リリちゃん、ちょっとこっちに!」
まだゴーレム子とゴーレム美の話し合いが続きそうなので、こっちはこっちで状況説明をしておこう。
「ゴーレム子とゴーレム美が命令を受けつけなくなってしまいました……。一体何をしたんですか?」
「コハク様、わたくしにも教えてくださいな」
ジャッジのミサ王女も一緒に近づいてきた。
「まあまあまあ。ここはさ、生みの親として、一世一代の大勝負を見守ってやろうじゃないか」
これこれこういう流れでこうなったわけですよ、と。
諸々端折りつつ2人にも説明を入れておく。
「まあ! 素敵ですわ!」
目を輝かせるミサ王女。
きっとこういう話、好きだと思ったわ! ね、ワクワクするだろ?
「まさかプロポーズを……。ゴーレムにそのような感情があるとは思いませんでした……」
少し渋い表情のリリちゃん。
「俺はね、すぐにわかったよ。『生命の精霊』はゴーレムに命を与えるけれど、中に入って操縦するわけじゃないってね。ゴーレムの命はゴーレムのものさ」
「ですが、『生命の精霊』の気まぐれで不意にその活動は……」
それもわかっている。
精霊っていうのはそういうモノなんだろ。もうさ、それは仕方ないかなって……。
でもさ、もしかしたらだぞ、もしかしたら精霊のやつらが「もうちょっとコイツらと一緒にても良いな。おもしろいものが見られるかもしれないな」って考えて、長い期間留まってくれる可能性もあるんじゃねぇ?
「禁書ってのを見てみないとわからないけどさ。もしかしたら『生命の精霊』の在り方次第なんじゃないかなって思ったわけよ」
「ホムンクルスの話ですか?」
「そう、ホムンクルスだ。ゴーレムは命令を受けて動く人形で、ホムンクルスは自由意思で動く人間、だったよな?」
「そうです。そのように書物には書かれてあります」
じゃあ、あの4体を見てみようじゃないか。
「リリちゃんは、あれを見てどう思う?」
「あれ、ですか。迷っていますね……」
ゴーレム子とゴーレム美の話し合いはまだ続いていた。
話している言葉も表情もわからないから、どんなふうに話が進んでいるのかはわからない。
でも――。
「間違いなく迷っているよな。リリちゃんの命令とは無関係に」
それを聞いてリリちゃんが「あっ」という表情を見せた。
「俺が何を言いたいかわかったか?」
「ぜんぜんわからないンよ! ちゃんとわかりやすく説明しないと、温厚なチカもいい加減怒るンよ!」
背後からチカの両手が俺の首をがっちり掴んできた。
「ギブ……もう……締まってるっ!」
チカはとにかく力が強い。
ドワーフ族だからなのか、それとも職人としてしょっちゅう鉄を叩いているからなのか……。そしてめっちゃ短気。死ぬ……。
「たぬき娘はこんな簡単なこともわからないんですかぁ? しょせんたぬきには難しかったみたいですね。ふふん♪」
いや、煽りは良いから……早く助けろ……。死ぬ……。
「ふっ、トカゲ娘がいつもみたいに適当に吹いているだけンよ。ホントにわかったンなら、試しに言ってみるンよ?」
首を絞める力が少しだけ緩んだ。
一瞬の隙を突いて手を振り払い、距離を取ることに成功。
あぶねぇ。
チカと一緒にいると命がいくつあって足りないのはなぜだ……。
「あらあら、大変でしたね♡」
と、ミサ王女が俺の首を撫でてくれた。ああっ、王女様こそが俺の癒し!
「だから~、ゴーレムとホムンクルスは同じものなんですよ!」
「そんなことありえないンよ! 人形と人間が同じなわけないンよ!」
「理解力のないたぬきですね!」
「大ぼら吹きのトカゲは黙るンよ!」
おーおー、もう俺のことなんて忘れて2人で喧々諤々と考察を。お前らホント仲が良いな。
「みなさん、あれを見てくださいまし! どうやら動きがあるようですわよ!」
ジャッジ役のミサ王女が、片手で俺の首を撫でながら、ゴーレムたちのほうを指さした。
「お、ゴーレム子とゴーレム美が動いたな。話し合いが終わったのか……?」
コハナとコハリアのプロポーズの結果は……どうなる⁉