リリちゃん側のゴーレム(ゴーレム子かゴーレム美のどっちか)が動いた!
「ゴ~~~~~レム!」
ああっ!
コハナーーーーー!
コハナが思いっきり殴られてぶっ飛んだ!
プロポーズ失敗かーーーーーーーー!
「ゴ~レム……ゴ~レム……」
あれ? もう1体のゴーレム(ゴーレム子かゴーレム美のどっちか)の様子がおかしいぞ?
「あれはゴーレム子です」
おお、ゴーレム子のほうか!
じゃあコハナを殴ったのはゴーレム美ってことだな。
「お、おおおお⁉ 指輪を受け取った⁉」
ゴーレム子がコハリアの指輪を受け取ったぞ!
こっちはプロポーズ成功、なのか……!?
「でかしたンよ! さすがチカのコハリアなンよ! トカゲのコハナとは違ってイケメンなンよ!」
チカが飛び上がって喜んでいる。
まあ、石人形だし、どっちも顔は一緒だけどな。
「まさかたぬき娘に後れを取るとは……。コハナ……なんて情けない……。私はあなたのことをそんな軟弱者に育てた覚えはありませんよ」
膝をついて悔しがるヒナ。
まあ、コハナのほうもヒナに育てられた覚えはないだろうけどな。
「しかし……明暗がくっきり分かれちまったな……」
ダメもとのプロポーズ大作戦だったとはいえ、片方が成功してしまった今……コハナがかわいそうになってくるな……。
「ですがこれは……。ゴーレム子が自分の意思で動いた……ということでしょうか」
リリちゃんそれ! 大事なのはそこなんだよな。
「自分の意思で動いたのはゴーレム美のほうもそうだろうよ。プロポーズを断ったか、受けたかはどっちでも良い。いや、どっちでも良くはないんだが、2体のゴーレムが、リリちゃんの命令とは無関係に、自分たちの意思で答えを出して動いた、これが重要なことなんだよな」
コハナ、お前の屍は拾ってやるぞ……。
おーおー、うまくいったカップルのほうを睨んでいらっしゃる。でも、逆上して殴りかかったりするなよ? それはかっこ悪すぎるからな。コハナもお兄ちゃんなら、ちゃんと弟を祝福してやれ?
「つまりゴーレムたちは人形ではなく、ホムンクルスになった、ということでしょうか?」
「そう結論づけるのは早計だろうな。ただ、『ゴーレムは命令に従うだけの人形。ホムンクルスは自由意思で動く人間』という考え方は改めないといけないかもしれないってことだ」
禁書とやらにその辺りのヒントになる記述があるかもしれないから、読んでみないことには何とも言えん。
「あら? ゴーレム美が動き出しましたわ。とどめを刺しに行くのでしょうか?」
「ええっ⁉」
ミサ王女の言葉通り、ゆっくりとした動作でゴーレム美がコハナのほうに向かって歩き出していた。コハナはへたり込んだまま立ち上がろうとはしていない。
「コハナ、立ち上がれっ!」
「いや~~~~~~~! 私のコハナ~~~~~~、死なないでください!」
ちょっとちょっとヒナさん?
そんな悲劇のヒロインみたいに泣きながら叫ばれても……。さすがに感情移入しすぎ……。
あのさ、冷静に考えて?
土人形のゴーレム美が、炭素鋼で作られたコハナのことを傷つけられるわけないよね? 冷静に冷静に。
「男なら立ち上がれ! プロポーズがダメだったからって、お前がダメになったわけじゃない! 心まで負けるな!」
次があるかはわからないが、この経験をバネに強く生きるんだ! 生きるんだ……あれ? ゴーレム美が……?
「コハナの手を取って……?」
抱き着いた……ぞ?
「カップル成立ですわね♡」
「これって、その解釈で合っているのか……?」
力で倒せないから、抱え上げてどこかにぶつけて破壊しようとか……いや、雰囲気的になんかこう、ラブい空気がすごい……。コハリアとゴーレム子も何か2体の世界に入っているし……ゴーレムたちがめっちゃリア充してやがる……。うらやまけしからんぞ!
「勝負あり、ですわ♡」
ミサ王女のジャッジが下った。
えーと、この場合は……全員の勝利……?
「ハクちゃんの戦略、恐れ入りました。完敗です」
リリちゃんが笑いながら握手を求めてきた。
「お、おう……。まあ、たまたまですよ。なんとなく行けそうだなってくらいの勘だったんで」
正直ここまでの結果は予想していなかった。
コハナとコハリアが自分の意思でプロポーズすることを決めて動いた、俺としてはその結果だけで十分だったからな。
「これで、ハクちゃんたちは禁書庫への入場資格を得ました。文句のつけようもないですからね」
よっぽどの醜態を晒さない限り、入場資格はくれるつもりだったでしょ。
ミサ王女の緩み切った顔を見ていれば、さすがに俺でもそれくらいはわかります。
「コハナ~! おめでとうございます~~~!」
「コハリア、でかしたンよ!」
ガマンできなかったのか、ヒナとチカがゴーレムたちのもとに走って行ってしまった。
2人とも、名づけをしただけなのに、めっちゃ感情移入するじゃんか。作ったのは俺なんだけどな……。
「わたくしたちの子が、人類の歴史に輝かしい第一歩を刻みましたね♡」
ミサ王女が満面の笑みを浮かべながら指を絡めてくる。
「ツッコミどころがすごい……」
子ども云々は置いておくとして、人類の歴史ってところは、もしかしたらそうかもしれないけどな。さすがに考え過ぎか。
でもなー、結局のところ『生命の精霊』の気分次第の命なんだよな……。
そこのところをどうにかしてやりたいな。
禁書の中にその手掛かりがあれば良いんだが……。
「ハクちゃんたちはこれで入場資格は得ましたし、続きは明日にしましょうか。もうかなり遅い時間ですし、寮に戻らないと怒られてしまいそうです」
門限って意味で言っているなら、怒られてしまいそうっていう時間ってやつはとっくに過ぎているんだけどな。なんならもう日付が変わるし。
「ここまできたら、ちょっとだけでも禁書を見てみたいな」
気になってこのままだと眠れそうにない!