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第6章 禁断のホムンクルス作成

第36話 目が合っただけで呪われる書物もありますから、自己責任でお願いしますね

 イチャつくゴーレム4体をその場に残しつつ、地下室の扉(砂石でできたダミー扉)をくぐって中に入った。


 俺たち人間のことなんて気にもしやしねぇ。いったい何を語らっているのやら。

 しかし、プロポーズ大作戦を考えてやった俺に挨拶の1つもないものかね? そんな礼儀知らずのやつらが、ここで門兵としての役割を果たせるのかね……?


「コイツらをここに残して全員で中に入って大丈夫か? 1人くらい監視役が残っていたほうが良さそうな気が……」


「すでに入場許可証を手に入れている者はスルーしてくれるので、何も心配はいりません」


 自信ありげにリリちゃんが答える。


「許可証がないヤツをちゃんと追い返しているのかが心配って意味ですよ?」


 扉は砂だから強めに触ったら崩れちゃうだろうし? 門兵が役割を果たしてくれないと、輩が禁書庫になだれ込んでしまう恐れが。


「その命令は有効に作用していますから、問題ないと思います」


「まあそれなら……。ということは、これまでの実績として、ここに侵入して追い返されたヤツがいるってことですか……ソイツって死んだ?」


 あんな3mもあるゴーレムに殴られたら普通死ぬよな?


「ご想像にお任せします」


 うむ……。

 その笑顔から想像するに……公爵家の力で揉み消したな……。


「死んだヤツのことなんてどうでも良いンよ。それより、ホントにここが禁書庫なンよ? 何にもないンよ」


 チカが辺りを見回しながら呟いている。

 相変わらず自分の利益にならないことにはドライなお人。


 んー、でもたしかに何もないな。


「おバカさんには見えない禁書庫なんですよ。ね~、リリス先輩?」


 学院首席入学のヒナが誇れるのは学力だけか……。


 まあでもさすがにあれだろ。

 奥の禁書庫コーナーに行くと、ヤバい本たちがわんさか出てくるって感じだろ?


「いいえ。ここはダミー施設ですので、許可がある者は奥の転移装置から禁書庫へ転移することができます」


「まさかの二段構えだった。念には念をってことか」


 ゴーレムだけに頼っているわけではなかったんだな。

 さすが公爵家の禁書庫だ。セキュリティー対策も万全!


「ま~たトカゲ娘がホラ吹いたンよ。ウソつきの角はバキバキに折ってやるンよ!」


「残念ですね~。もう折れてます~。生え変わりの時期だから角はありませ~ん!」


「だったらしっぽをちぎってやるンよ!」


「ハーフの私にしっぽはありませ~ん!」


「ぐぬぬ……もうそんなのドラゴンじゃないンよ!」


 そうだよな。ドラゴンじゃないよな。

 俺もそう思うわー。

 ヒナは角もないし、しっぽもない。

 口の中には火の精霊が住んでいるだけで、ドラゴンブレスが吐けるわけでもない。


 強いて言えば……赤毛がファイヤードラゴンの名残?


「皆様、早く行きますわよ。リリスお姉様についていきませんと、禁書庫に転移できずに、この地下室の中に取り残されてしまいますわ。よいしょっ」


「マジ? 朝まで地下室で過ごすとか嫌だわ……。俺は転移してくるから2人は朝までごゆっくりー」


 ミサ王女は、恐ろしい言葉で急かしてくる一方で、みんなの一番後ろを歩いて、背中を押してくれていた。


「チカも行くンよ! トカゲ娘と一緒に夜を明かすくらいなら、トカゲ娘が死んだほうがマシなンよ!」


「もちろん私も禁書庫に行きます。たぬき娘と一緒に夜を明かすなんてゾッとしますね。最悪そうなったら1人で過ごすことにします。たぬき鍋でもつつきながら」


 思考回路が同じ2人。

 仲良しだなあ。



 と、先頭を行くリリちゃんが、何もない通路の真ん中あたりで立ち止まった。


「みなさん、ここです。しばらく動かずにここで立っていてください」


「ここで……?」


 何もないな。

 ヒナとチカも俺と同じように周りの様子をうかがっていた。


「コハク様、上ですよ」


 ミサ王女に肩を叩かれて、天井を仰ぎ見る。


「うわっ、何か光っているじゃんか!」


 あれが転移装置ってやつか?

 光の線で描かれた何かの模様が……魔法陣っぽい!


「コハク様、転送陣を見つめていると、網膜が焼き切れますのでご注意くださいませ」


 えっ、怖っ!

 見ろって言っておいて、見たら失明するの⁉ 理不尽過ぎない⁉


 反射的に硬く目をつぶる。

 視界が塞がった瞬間、誰かが俺の手を握ってきた。

 しっとりとした手だ。

 緊張で汗を掻いているのだろうか。となると……たぶんチカだな。強がりばかり言うけれど、わりとビビりなところがあるし。まあ、そこもかわいいから別に良いけれどね。



「コハク様、禁書庫に到着しました」


 再びミサ王女に肩を叩かれて恐る恐る目を開ける。

 つないでいた手はサッと外されてしまった。恥ずかしがり屋さんめ。


 俺の目に飛び込んできたのは、教室くらいの広さの部屋だった。

 真ん中には小さな円卓。そして四方の壁はすべて本で埋め尽くされていた。部屋には窓もなく、出入り口もなかった。


「これはなかなか……」


 転移でしか入ってくることができない禁書庫か。

 雰囲気があるというか、圧迫感があるというか……緊張する。


「チカちゃん、ここにある禁書には勝手に手を振れないようにお願いします」


 チカが近くにある本棚に手を伸ばしたところ、わりと強めに注意されてしまった。


「リリはやっぱりケチなンよ……。美容に悪いからチカはもう寝るンよ」


 すっかり不貞腐れて、部屋の真ん中にあるテーブルに突っ伏した。


「もちろん触りたかったら触っても良いですけれど、目が合っただけで呪われる書物もありますから、自己責任でお願いしますね」


 読んだらとか、手に取ったら、ではなくて、目が合ったらって何……。

 禁書ってヤバ過ぎじゃないか?


「コハクちゃん」


 ヒナが小声で話しかけてきた。


「なんだよ?」


 内緒話か?


「ちなみに女神の書物もここにある禁書と同じ扱いです。コハクちゃんは勝手にページに振れたので、前の世界から存在が消えてしまったんですよ」


「えっ、マジで⁉……って、騙されねぇぞ! あれはお前が俺の生涯のページを破ったせいだろ!」


「引っ掛かりませんでしたか……。でも禁書なのは本当です。実際、コハクちゃんはあれに手を振れたせいで呪われてしまいましたからね」


 もうそういうのには騙されないからな。


「それは本当なのに……だからこの世界に導かれたんですよ?」


 まだ言うか。

 少しでも自分の罪を軽くしようとして必死だな。


「みなさん、これがホムンクルスについて書かれた書物です」


 リリちゃんが、色あせて古びた装丁の本を1冊抱えてやってくる。

 テーブルの上に置くと、「ドンッ」という鈍い音とともに、辺りに埃が舞い散った。


 材質は黒っぽくて硬い……何かの動物の皮だろうか。

 表紙には飾り気がなく、何の文字も書かれていなかった。


「開いてみても?……呪われない……ですよね?」


 表紙はOKだけど、中の紙に触れた呪われます、みたいなトラップはなしにしてくださいよ?


「この書物は平気です。すでに私は何度も読んでいますから。この通りピンピンしています!」


 リリちゃんが自身の制服の袖をまくって、力こぶを作る動作を見せてきた。

 真っ白な肌ですね。そして細腕にはまったく筋肉はなし、と。


 筋肉と言えばチカだな。

 きっと立派な力こぶが――。


「なンなンよ。そんな目で見て……国宝級のチカの胸が触りたいンよ?」


「いや……」


 二の腕を見ていただけなんだけど……伝わっていなかったわ。



「まあそれは後でってことで。じゃあちょっと失礼して、中身を拝見、と」


 円卓の周りに置いてあるイスに座り、ホムンクルスについて書かれた書籍の重たい表紙を捲る。

 ヒナとチカが俺の肩口から覗き見てくるような格好になった。


「えーと、なになに……何にも読めんな」


 何語だ、これ?


「いわゆる古代精霊語というものですね。ハクちゃんたち1年生はまだ習っていませんか?」


「学院で習えるの……?」


「リリスお姉様、古代精霊語は2年生の選択科目ですわ」


 難しい語学系は選択科目か。

 困ったな……。


「仕方ありませんね。今年度首席入学の私が、不甲斐ないコハクちゃんに代わってその書物を読んであげましょう」


 薄い胸を張るヒナ。


「不甲斐ないは余計だ。まあ、頼むわ」


 どうせ女神パワーを使えばどんな言語でも余裕で自動変換なんだろうし。


「いいえ? 普通に来年度分の学習範囲を予習しただけですよ」


 コイツ……まさかリアル優等生か?

 いつも遊んでいるように見せかけて、いつ勉強しているんだよ……。


 まあ良い。

 とにかく読めるなら何でも良い!

 中身が気になって仕方ないんだ! さっさと読んでくれ!

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