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第40話 わたくしの祖父――先代の国王は『強い国』を標榜しておりましたの

『自動的な王位継承権の喪失』を狙う。


「つまり……平民の町娘と駆け落ちさせるってことか?」


 序列上位のお兄さんやお姉さんたちが、王様の許可がない相手と結婚したら、自動的に王位継承権を失い、ミサ王女に順番が回ってくる。そう言っているのか?


「少し違いますが、方向性としてはその方向で合っています」


「いやいや、言っていることはわからないでもないんだが、1人や2人じゃなくて、上に6人もいるんだろ? さすがに全員都合よく平民と結婚させられるわけなくないか?」


 たとえばミサ王女が第2位だったりしたら、けっこう現実的かもしれない作戦だとは思うよ。

 なんなら罠にはめてでも――。


「もしかしてホントに無理やりってことか? 結婚じゃなくて子作りのほうを……?」


 金で平民たちを雇って、王子や王女に無理やり子どもを……!?

 王子たちを拘束するために強いホムンクルスが必要⁉


「ハクちゃん、それは最低です」


「コハクちゃん、その考えはひどいと思います」


「コハク、チカでもそれは引くンよ」


「コハク様……痛くしないでくださいね……」


 みんなが軽蔑のまなざしを向けてくるんですけどー!

 そんなつもりじゃなくてつい口が滑って……。


「いや、積極的にそうしようって言ったわけじゃなくてだね……1つのアイディアとして……」


 でもなんか、ミサ王女だけ違いませんかね⁉ 痛くしないでって何⁉


「冗談です。もちろん私たちもその可能性は検討しました。ですが――」


「わたくしは、お兄様やお姉様が大好きなのです。決して悲しい想いはしてほしくないのです……」


 2人はやさしいんだな。

 お兄さんお姉さんたちを殺したいほど憎いわけでもなく、罠にはめて退場願いたいわけでもなく。


 だったら――。


「なんでそんなに王位継承権がほしいのか、って訊いても良いか? そこが理解できないと先に進めないというか……」


 全力で応援しづらいなと。

 ミサ王女が王位に就かなければいけないと思っている理由が知りたい。 



 一瞬の沈黙の後、ミサ王女とリリちゃんがアイコンタクトを交わしてから頷き合った。


「わたくしの祖父――先代の国王は『強い国』を標榜しておりましたの」


 ミサ王女が語り出した。

 それはまるで、ブレドストン王国の近代史のようだった。


 先王の時代。

 近隣諸国と戦争に明け暮れていた約50年前。


 優秀な『石加工職人』を多く抱えるブレドストン王国は、洗練された武器や防具、そしてゴーレム技術を使って、他国との戦争に着実に勝利し、国土と勢力を広げていった。


 常勝・ブレドストン王国は、大陸の東側を制圧。

 準備を整えてから、次はいよいよ大陸統一の戦いに臨む。そんな折に、北部の雄『メカルミン王国』と西部の雄『ゴストビスファン王国』から、ほぼ同時に休戦協定、そして同盟の申し入れがあったのだ。


 ブレドストン王国、メカルミン王国、ゴストビスファン王国は、それぞれ国の特色・特性はまったく異なっていたが、軍事力という意味でいえば三国とも拮抗していた。どちらか二国が戦争状態になれば、疲弊したところで残りの一国が二国とも叩き、すべてを手に入れる。そんな『三竦み』の状態になりそうな中での休戦協定と同盟の申し入れだった。

 実際のところ、ブレドストン王国も長きに渡る戦争で人・物資ともに枯渇する一方だったため、一時的にでもこの提案を受け入れる価値はある。誰もがそう思った。


 だが先王――ミサ王女の祖父は、ただ1人、同盟に反対した。


 今こそ、大陸を統一すべし。


 二国が同盟を申し入れてきた今が大陸統一のチャンスの時。

 そう強く主張した。しかし側近たち、そして物資の供給に協力していた貴族たちがこぞって反対したため、国王単独の力では、それ以上戦争を続けることはできなかった。


 渋々同盟を結ぶに至ったが、先王は近い将来、同盟は破棄されて再び戦争状態になると信じて疑わなかった。来るべき時に備え、『石加工職人』の優遇をし続け、秘密裏に武器や防具作成の研鑽を続けさせた。

 息子――現国王(ミサ王女の父)に王位を継承してからも、その考えは一切変わることがなかった。毎日のように自ら軍の演習場に赴き、兵たちを直接指導するほどの入れ込みようだった。


 しかし、現国王はその思想を受け継がなかった。

 平和になった今、武器や防具は不要。軍も最低限の予算で回せば良いと考えていたが、先王の手前、強くその戦略を打ち出すことはなかった。


 5年前、先王の崩御をきっかけに、いよいよブレドストン王国が軍縮に向かって動き出した。

「他国を無用に刺激する」という名目で、武器や防具の製作数に制限をかけたり、他国にはない唯一無二のゴーレム技術の使用を禁止したのだ。



「つまりは、その先王の思想に共感していたのが、ミサ王女だってことなんだな」


 それとゴーレムが作りたいと思っているリリちゃんもか。


「その通りですわ。おじいさまは正しいのです。平和な世の中を維持し続けるには、それ相応の抑止力が必要なのです」


「チカの父君の作る武器だったり、リリちゃんの公爵家が作るゴーレムだったりが抑止力になる、と」


 抑止力ね。

 三国がにらみ合っている状態だからこそ、成り立っている休戦状態なんだろうし、まあ言っていることは理にかなっている気はする。


「その主張が正しいとすると、今の国王の戦略は危ういよな……」


 下手すれば、ブレドストン王国の軍事力が下がったのを見計らって、秘密裏に同盟を結んだメカルミン・ゴストビスファン合同軍が一気に攻め込んでくるかもしれない。


「エイッツ兄様とバロッツ兄様は、お父様の思想をとくに強く受け継いでいて、このままではチカ様のグラニット伯爵家のような、『石加工職人』出身の爵位をはく奪しかねない勢いなのですわ……」


 それは……。

 チカが……ただの平民のかわいい女の子になってしまうな。


「アイツら……コハリアに命令してぶっ殺してやるンよ!」


 めっちゃ怒っていらっしゃる……。

 そうならないために俺も協力するから、コハリアに怖いことはさせないでね……。


「エイッツ殿下が第1王子で、バロッツ殿下が第2王子で合っているか?」


 家系図がわからない。

 後で整理しておきたい。


「合っていますわ。お兄様たちは双子なんですの」


「双子で考え方も似ている、と。エイッツ殿下が王位を継承したら、バロリッツ殿下が参謀を務めてって感じになりそうで手ごわいな……。ついでにほかのお兄さんやお姉さんの話も聴かせてくれるか?」



 というわけでミサ王女から聞き取った、8兄弟姉妹の情報はこうだ。


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 第1位 長男21歳・エイッツ(軍縮派/石加工職人の地位はく奪も画策。自信家)

 第2位 次男21歳・バロッツ(軍縮派/エイッツの双子の弟で考え方も似ている)

 第3位 長女20歳・カノノン(中立派/王位継承に興味なし。恋愛に興味津々で早く結婚したい)

 第4位 次女20歳・クトリア(軍拡派/王位継承に興味なし。男の筋肉を観察するのが好き)

 第5位 三男18歳・ノリッツ(軍拡派/政治に興味がない武闘派。将来、軍を率いたい)

 第6位 三女16歳・リスリン(中立派/王位継承に興味なし。音楽の道に進みたい)

 第7位 四女16歳・ミサリエ(軍拡派/先王の意思を継ぎ国を守りたい。女の子が好き)

 第8位 五女10歳・チェスカ(中立派/幼いため思想はとくになし。ミサリエにべったり)

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 なんだろうな。

 1位2位のやつらを何とかすれば、どうにかなりそうな気がするんだが……?

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