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第41話 闘いとは相手がいます。相手は思考する生き物なんですよ

 改めて、王位継承権争いをしている8人のメモを眺めてみる。


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 第1位 長男21歳・エイッツ(軍縮派/石加工職人の地位はく奪も画策。自信家)

 第2位 次男21歳・バロッツ(軍縮派/エイッツの双子の弟で考え方も似ている)

 第3位 長女20歳・カノノン(中立派/王位継承に興味なし。恋愛に興味津々で早く結婚したい)

 第4位 次女20歳・クトリア(軍拡派/王位継承に興味なし。男の筋肉を観察するのが好き)

 第5位 三男18歳・ノリッツ(軍拡派/政治に興味がない武闘派。将来、軍を率いたい)

 第6位 三女16歳・リスリン(中立派/王位継承に興味なし。音楽の道に進みたい)

 第7位 四女16歳・ミサリエ(軍拡派/先王の意思を継ぎ国を守りたい。女の子が好き)

 第8位 五女10歳・チェスカ(中立派/幼いため思想はとくになし。ミサリエにべったり)

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「ほとんど全員、王位継承に興味がないじゃんか。1位と2位のエイッツ殿下&バロッツ殿下の双子コンビをなんとかできれば、あとはこっちの言いなりにできるんじゃねぇ?」


 とくにお姉様方は好きな道に進ませてあげれば良いんじゃねぇ? 筋肉を観察したいクトリア王女は……軍事訓練施設辺りが出入り自由になっていたらすごく喜びそう。


「ハクちゃん、事はそう簡単ではないんです」


 リリちゃんが眉をハの字に曲げて小さく息を吐いた。


「というと?」


「先ほども説明した通り、王位継承権が移るのは、第1位の者が『死亡する』または『継承権をはく奪される』。この2つのパターンしかないんです」


「だからエイッツ殿下とバロッツ殿下には、何らかの方法で平民と結婚してもらって、『自動的な王位継承権の喪失』を狙うわけだろ? そうしたらあとの4人は王様になる気がないわけだから、次の王様候補はミサ殿下ってことに……」


「ならないんです。残念ながら」


 リリちゃんが首を振る。


 なぜだ?

「王様になりたくない」って言えば自動的に――。


 ああ、そうか。


「『死亡』か『継承権のはく奪』しかない……?『辞退』は……」


「ないんです」


「マジかよ……」


 困っていた理由はそういうことだったのか。


「エイッツ殿下とバロッツ殿下が戦線離脱しても、3位のカノノン殿下が控えているから、まだまだミサリエ殿下には王位継承権が回ってこないわけですね~。厄介なシステムです」


 ヒナが勝手に問題点を整理して、1人頷いていた。


「上から順に王位継承権をなくさせていかないといけないのか……。これは骨が折れる作業だな……」


 1人に1人対して、しなきゃいけない対応は違うだろうし、全員気持ち良くこちらの思惑に沿って動いてくれるとも限らない。


「必ずしも王位継承権の順位通りでなければいけないということはありません。たとえば結婚したがっているカノノンお姉様にお相手を見つけて差し上げれば、3位の王位継承権が消滅しますから、4位以下の順位が1つずつ繰り上がることになります」


「なるほど。じゃあ、攻めやすいところからっていう手もあるわけだな」


 選択肢が広がるし、そのほうが助かる。


「コハクちゃん、ミサリエ殿下の上には6人もいますから、そう簡単ではありませんよ」


「明確に期限が決まっているわけじゃないんだから、気長に1人ずつ倒せば良いんじゃないのか? 今の国王ってそんなに高齢だっけ?」


 時間はかかるだろうが、絶対に攻略不可能ってことはないだろう。


「コハクちゃんは、これが王位を継承するための闘いであることを忘れています」


「忘れてねぇよ? 王様が王位を譲る時に、王位継承権第1位の座にいる必要があるって闘いだろ?」


 勝者は1人の厳しい戦い。

 さすがにそれくらいはわかる。


「闘いとは相手がいます。相手は思考する生き物なんですよ」


 何を当たり前のことを言っているんだ?


「兄弟のうち、1人が離脱したとして、それは気になる問題でしょうか?」


「え、急にクイズ? 自分の順位にもよるが、理由が平民との結婚なら驚くかな? まあ本人がうれしそうにしていたら、祝福はするんじゃねぇ?」


 兄弟仲がどれくらいなのかわからないから想像でしかないが……。


「もしわたくしが何も知らなかったら、祝福すると思いますわ」


 ああ、良かった。

 ミサ王女の兄弟姉妹との仲は、それなりに良さそうだ。


「1人ならそうかもしれませんね。では同じ理由で2人目、3人目が王位継承争いから離脱していったらどうでしょうか?」


 なるほど……そういうことか。

 相手は思考する生き物、ね。


「俺が渦中の存在なら、2人目で少し怪しむんだろうな。3人目で確信する。裏で糸を引いている人物がいるな、と」


 たしかにこれは厄介だわ……。


「わたくしは3人までは祝福できると思いますわ」


 おおらかでけっこうなことですね。


 感じ方はまあ、人それぞれだと思うが、手放しで喜べるのは1人だけ。どれくらい疑うかは人それぞれだろうが、2人目以降の離脱者が出れば、徐々に疑惑の色が濃くなっていくだろうよ。


「ハクちゃんにもわかっていただけましたか? 平民との結婚だけでは策として不十分なんです」


「よーくわかりましたよ。ほかにも打てる手がなければ、さすがに6人全員は不可能だ」


「そんな面倒なことをしなくても、全員ぶっ殺せばミサが1位なンよ!」


 チカが円卓を荒々しく叩いた。


 なんて野蛮なんだ……。 

 だけど俺もちょっと面倒だなとは思ってしまったよ。だからと言ってぶっ殺して良いわけじゃないが、ほかの兄弟姉妹に疑われずに全員を罠にはめていくのは非現実的だな。


「そこで私たちが考えたのが、ホムンクルスによる攻略なんです」


 うわ、出た!

 ここでホムンクルス⁉


 何に使うのかぜんぜん見当がつかない!

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