リリちゃんの言葉を聞いて、軽くめまいを覚えた。
頼む、聞き間違いであってくれ……。
「えっと、リリちゃん……もう1回言ってくれるか?」
俺の耳がおかしくなったのかもしれない。
そうだ、ちょっと聞き間違ったに違いない……。
「ですから、『内臓は美しくないから不要だ』とおっしゃっています」
「……誰が?」
「『生命の精霊』です。ほら、今もハクちゃんの肩に乗っています」
リリちゃんが俺の肩のあたりを指さしてくる。
「マジかよ……美しくないねえ……」
基準がそこなのか……。
『生命の精霊』は、まるでチカみたいなことを言うんだな。相変わらず姿は見えないが。
「でも見てくれよ。こんなにきれいな小腸ができたんだぞ? こっちの肺なんて超々力作だぞ?」
「ものすごく嫌がっていますね。今もすごい形相でハクちゃんの頭を叩いています」
「ええ……そんなに……」
ぜんぜん叩かれている感触はないんだけどな。
でもそんなに嫌がられているものを、俺たちは何か月も掛けて作っていたとは……。
「って、おい! ヒナもチカも精霊の姿が見えるんだよな⁉ なんで精霊が怒っているって教えてくれなかったんだよ!」
めっちゃ無駄な時間を過ごしたじゃんか!
「最近、『生命の精霊』の姿をよく見るなとは思っていたんですよ。きっと人体の完成が近いから待ちきれなくて見に来ているものかと……」
「精霊さんは契約している人間にしか、言葉を伝えないンよ。だから、ほかの人が契約している精霊さんの声は聞こえないンよ」
精霊との契約って、そういう制約もあるのか。
「だが、声が聞こえないにしてもだ……殴ってきているのは見た目でわかりそうなものなんだが……」
俺が殴られている姿は見えていたんだよな?
その時にすぐ止めてくれるか、もしくはリリちゃんに精霊がなんて言っているのかを尋ねてくれれば……。
「精霊の喜怒哀楽は個体差がありますから。私にはその『生命の精霊』がコハクちゃんの頭を撫でているようにしか見えませんでしたし」
「チカには『コハク、よくやっているぞ』と褒めているように見えていたンよ」
「まあ、それなら仕方ない……」
感じ方は人……精霊それぞれだな。
しかしどうしよう。
半年もかけて製作したこの内臓たち……。
最初に取り組んだ心臓。そして肺。今は食道、胃、そして小腸まで出来上がったところなんだが。
「精霊は人間よりもエネルギー変換効率が高いそうなので、『食べたものを消化する』という概念がないそうです」
「なんだって⁉ ということは……ものは食べるんだな?」
「そこからですか……。コハクちゃんは基本的な知識が欠けているようですね」
いや、ため息吐くなよ。
ヒナが教えてくれなかったら、いつどこで俺がその基本的な知識とやらを手に入れられると思っているんだ?
「わかりましたわかりました。無知なコハクちゃんのためにわかりや~すく説明します」
「恩着せがましいヤツめ。聴いてやるからさっさと説明しろい」
「精霊の主な活動エネルギーは、主に契約者の
「そうなのか。つまりおやつなんかをその辺に置いておくと、いつの間にか精霊に食われていることがある、と……」
そういや、この間ミサからもらった『王宮御用達・超高級リンゴ』2個を保冷庫に大事にしまっておいて夕食の後に食べようと思ったらなくなっていたっけ。あれも精霊の仕業か……。
「そのリンゴなら、私とたぬきが1個ずつ食べました。精霊は勝手に人の物を食べたりはしません。人間に勧められた時以外は人間の食べ物を口にしないものです。精霊から見れば人間の食べ物は大したエネルギー源にはならないので、ただの嗜好品ですし」
おい。
今軽く流せない話が混じっていなかったか?
「蜜がたっぷりでとってもおいしかったンよ。リンゴがチカに『そこの美しい人、私を食べて』と呼び掛けてきたから仕方なく食べて上げただけなンよ。チカはリンゴ助けをしただけだから一切悪くないンよ?」
リンゴ助け……。
それなら仕方ないな……とはならんだろ。
「食べちまったのは仕方ない。まあ、とてもうまそうだったし? でもさ、せめて『ガマンできずに食べてごめんなさい』くらい言えよな? 謝ったら死ぬわけでもないし……」
「謝ったら死ぬンよっ!」
「ええ、死にます! コハクちゃんに謝るくらいなら死んだほうがマシですっ!」
ほぅ、口をそろえてそこまではっきりと……。
「この口が悪いんだな? この口たちが!」
2人の口にサッと指をひっかけて、内側から思いっきりほっぺたを引っ張ってやる。
どうだ、痛いか!
これに懲りたらさっさと謝……おい。何をしている?
「2人ともやめなさい……。俺の指を舐め回すんじゃない……」
「
「
ええい、2人とも! 恍惚の表情で俺の指をしゃぶるんじゃない!
ちょっと舌の感触が気持ち良いからマジでやめなさい!
「私も……舐めてみたいです」
リリちゃんまで物欲しそうな目で見てくるのはやめて⁉
ミサじゃあるまいし、あなたはそういうキャラじゃないでしょ!