どうやら精霊が求めていたホムンクルスの素体とは、人体の完璧なコピーではなくて、外側の部分だけらしいということがわかった。
「わりと今更な話だなあ。最初からわかっていれば、皮膚だけ作って石人形にかぶせたのに……」
遠回りしてしまったよ。
1年以上も時間を無駄に……。
「いいえいいえ。骨と筋肉は必要だそうです。とくに骨と筋肉、そして筋繊維がしっかり作られていると、ホムンクルスの動きが滑らかになるらしく、『生命の精霊』がとても喜んでいます」
「おお、俺たちの努力は無駄じゃなかったんだな!」
じゃあ無駄になったのは血管と内臓の一部くらいか。
「だから内臓なんてグロいし、やめたほうが良いって言ったンよ。チカの言うとおりにしないからこういうことになるンよ」
結果論としてはなあ。
でも当初は必要だと思っていたから作ったんだし……。
「え? なんですか?……なるほど? そうだったんですね! 伝えます伝えます!」
リリちゃんが急にでかい独り言を……?
とうとうおかしくなったのか?
「今『生命の精霊』に話を聴いたのですが、どうやら血管は最初不要と考えていたそうなんですが、出来上がりを見たら新たな活用方法がありそうだということで、とても喜ばれています」
「新たな活用方法?」
血液を全身に届ける以外の目的で使うことなんてなさそうなんだが。
「血の代わりに魔力を流すんだそうです」
魔力を? 血管に?
「その血管があれば、瞬時に全身に魔力を行き渡らせることができて、ホムンクルスの性能が格段に上がる見込みがあるそうですよ」
「おー、なんか良かったな?」
よくわからんが、喜んでもらえたなら良かった。
じゃあ無駄になったのは内臓だけか……。
「血管の活用方法……。それであれば、私からの1歩踏み込んだ提案がありますので、それを伝えていただいても良いですか⁉」
ヒナが手をあげる。
学年1の秀才(女神)が何かを思いついたらしい。
「はい、私のほうからお伝えします」
リリちゃんが頷いた。
「血管が魔力を体に行き渡らせるために使えるなら、心臓と肺も同じ用途で使えると思います」
なるほど?
たしかに、心臓はなんとなくわかるぞ。
「心臓は、本来の用途としては、全身に血液を送り出すために使用します。しかし、流れるものが魔力なら、それ用に少し作り変えるだけで、全身に魔力を送り出すためのポンプの役目を果たしてくれるでしょう」
強いポンプがあれば、それだけ一気に魔力を流すことができるしな。
「そして肺です。本来は呼吸をすることで酸素を体内に取り込み、二酸化炭素を体外に排出する臓器なのですが、呼吸のような動作で大気中に漂う
マナ? オド?
「心臓を使って送り出すものを、契約者の
マナとオドは魔力の種類のことなのか。
自立型ホムンクルス……?
「人が作り出す
言っていることがわかるようなわからないような……。
「今の言葉をそのまま『生命の精霊』に伝えました。返ってきた言葉は『あなたは精霊王か?』と」
「いいえ、『私は女神です』とお伝えください」
にっこり。
いや、何かすげぇわ……。
ヒナが精霊と対等に渡り合っている。俺も精霊の姿、見てぇなあ。
「ではコハクちゃん。小腸と胃は破棄することになってしまいましたが、心臓と肺は私の提案通りに改造して使いましょう。魔力回路に変更するための分子構造は私のほうで考えますので、それをそのまま再現してみてください。その間に横隔膜など呼吸に関係する臓器の作成をお願いできますか?」
「お、おう。やってみるわ」
それが完成すると、呼吸をすることで空気中からも魔力が取り込めちゃうってことだろ? とんでもないものができあがるんじゃねぇか?
「チカをのけ者にして話を進めるんじゃないンよ! トカゲのくせに場を仕切って生意気なンよ!」
地団太を踏むチカ。
たしかに完全に置いていかれている……。
今はヒナが女神パワーをフルマックスで活用しちゃっているから、ある意味仕方がないかもしれない……。
「暇なたぬきにうってつけの仕事がありますよ!」
「なンなンよ? ヌードモデル以外ならやるンよ……?」
ヌードモデルもぜひお願いします!
「心臓と肺の改造をしたいので、たぬきの心臓と肺をください!」
いや……ヒナは何言っているんだ……。
「うまくいけば人類を超える人類、血液の代わりに全身に魔力が流れる新人類になれます!」
「チカが新人類……モテるンよ?」
「モテます! みんながたぬきをチヤホヤしますね!」
「それなら……前向きに検討するンよ」
いや、チヤホヤされる前に心臓と肺を取った時点で死ぬだろ。
「チカで怪しい人体実験はしなくて良いから、ヒナは普通に理論だけ考えてくれ。ホムンクルスは失敗しても時間の浪費だけで済むが、チカが死ぬと困るからな……」
「そうなンよ! チカの胸は国宝だから、国が困るンよ!」
チカの良さは胸だけじゃないけれど……まあだいたい合っているし良いか!