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第46話 いや……だってさ……起動させたヤツがご主人様ってことになるんだぞ?

 そして季節は巡り、俺たちが学院にやってきてから2回目の冬――。


「やっと完成したな……」


 ここまで来るのに2年半か。

 ずいぶん時間がかかったな。


「完成ですね。コハクちゃん、お疲れ様でした」


 だが、まだ完成しただけだ。


「むしろここからだろ。ようやく試験運用を開始できるんだから、ここがスタートラインだ」


 ホムンクルスのために必要なパーツがすべてそろい、人型の箱の中に押し込むことができた。

 そしてこだわりにこだわり抜いた見た目も完成し――。


「なあ、試験体って、ホントにこの見た目で良かったのか……?」


「もちろんですわ」


 ミサがニコニコしながら答える。

 そして、とても大切なものを愛でるように、まだ動くことのない試験体の頬をそっと撫でた。


「ちゃんと動くかわからない一発目だし、失敗前提でもっと簡素な造りでも……」


「いいえ。もうあまり時間がありませんの。何としてでもテスト運用を成功させて、すぐに実践投入しないと間に合わなくなってしまうかもしれませんわ」


 マジで……。


「お父上――国王ってそんなに調子が悪いのか?」


「いいえ、ピンピンしておりますわ」


「じゃあなぜ……」


 それならそんなに焦る必要なさそうじゃん。


「妃殿下があまり長くなさそうなのです……」


 マジかよ……。


「ミサのお母上ではない、よな?」


 念のための確認だ。


「ええ、違います。わたくしは側室の子ですから」


 正妃だけが王妃ってことだよな。側室は王妃とは呼ばれない。まあそう言われたらそうだな。


「その王妃様がもしお亡くなりになったとしたら、国王に何か起きるのか?」


 それが王位継承者の問題とどうつながるのかよくわかっていない。


「おそらく高確率で王位を譲ると思います」


「ヤバいじゃん! でもなんでだ⁉ 王妃と国王の仕事は関係なくないか?」


「王位を退き、側室たちを連れて諸国漫遊をするのが父の夢ですから」


 なんだその夢……。


「ハーレム旅……?」


「コハク様はご存じなかったですわね」


 何を?


「妃殿下は……非常に厳しい方なのです」


「なるほどな」


 いろいろと察しました。

 王様も苦労してんのね……。


「つまり王位継承をする相手が決まるまで、もうあまり時間がないってことか……実際にはどれくらいありそうなんだ?」


「おそらく1年は持たないかと」


「そうか……」


 王妃は知らない人だけど、余命を聴かされると少し悲しい気持ちになるな……。


「コハクちゃん、感傷的になっていても何も始まりません。私たちにできることをしましょう」


 そう言ってヒナがやさしく背中を撫でてきた。


「まあそうだな。よし、じゃあさっそくホムンクルスの稼働実験に入ろう。万が一暴れた時には……ヒナ、チカ、頼むぞ……」


「チカに任せておけばすべて解決なンよ!」


「ええ、私にだけ任せていただければ問題ありません!」


 めちゃくちゃ自信がありそうな2人。

 そしてライバル意識むき出しでバチバチ。

 自信があるのは結構なんだが……。


「ここな……禁書庫だからさ……。くれぐれも周りの本に影響を与えないでくれよ? 濡らしたりだとか、燃やしたりだとか、そういうのはなしで……。精霊魔法の使用は禁止する」


「だったらチカにできることは何もないンよ。実験が終わったら起こしてくれれば良いンよ」


「私にもやれることはなさそうです。おやすみなさい」


「こらー! イスをつなげて寝ようとするな! 揃って同じことをしやがって! 仲良しか!」


 うわ、完全に無視して寝ていやがる……。

 どうすんだよ、これ。


 と、ちょうどタイミングよくリリちゃんが転移してやってきた。


「生徒会の引継ぎ資料作成をしていて遅くなりました。これからホムンクルスの実験ですか? 間に合ったようで良かったです」


「お疲れ様。もちろんリリちゃんを待っていたんだよ。『生命の精霊』はリリちゃんがいないとな」


 先日、形ばかりの生徒会役員選挙があり、ミサが生徒会長に立候補していたが、ほかに対抗もおらず、無事信任された。ちなみに生徒会役員は、新しい生徒会長が選出することになっていて、チカが副会長、俺が書記、ヒナが会計に選出された。なんていうか、生徒会の私的利用だな。


「ハクちゃんに預けている精霊であれば、ハクちゃんの命令も聞いてくれると思いますよ」


「なんて言うか、気持ちの問題だよ。見えない相手に話しかけて何かしてもらうのはなーと」


 精霊が気を悪くしていても、俺からじゃ態度も表情も見えないしな。


「相変わらず律儀な方ですね」


 リリちゃんが笑う。

 さらにミサと2人で内緒話をして笑いあっているが……俺はバカにされているのだろうか?


「2人の世界に入っているところ悪いんだけどー、そろそろホムンクルスのほう頼むわー」


 ヒナもチカも熟睡モードだし、3人でスタートしてしまおう。

 まあ実際のところ、ここ3日ほど泊まり込みで皮膚の最後の仕上げをしていたから、2人ともかなり疲労しているだろう。このまま寝かせておいてやろうかな。俺はあとひと踏ん張りだな。


「はい、もちろんです。ハクちゃんのところにいる『生命の精霊』から伝言です。『すばらしい素体をありがとう。期待以上だ。汝の望むだけ、この素体と共にあろう』だそうです」


「おお、喜んでもらえたか。俺の望むだけ、か。それはもう最大限の賛辞だな。こちらこそありがとうございます」


 どこにいるかわからないが、お礼を言いながら頭を下げてみる。


「ハクちゃん、もうその中に入ってしまいましたよ」


 と、リリちゃんがまだ動かないホムンクルスの素体を指さした。


「早いな。まあ良い。魂となる『生命の精霊』が宿っても、初回起動のために魔力を流さないと動かない仕組みだから問題ない。じゃあ、ミサ。起動を頼む」


 こればっかりはミサの仕事だからな。


「コハク様? このホムンクルスを動かすのはわたくしではありませんわ」


「へ?」


 何を言っているんだ?

 こんなの……どう考えても動かすのはミサしかいないだろう。


「わたくしは、コハク様に動かしていただきたいのです」


「いや……だってさ……起動させたヤツがご主人様ってことになるんだぞ? ちゃんとわかっているか?」


「もちろんですわ。すでにコハク様はわたくしのご主人様だと思っておりますし♡」


 それは……どうだろう。

 これから王位を狙おうとしている者として大丈夫な発言なのか?


「ハクちゃん。ミサの言うとおりにしてあげてください」


「リリちゃんまで? ホントにそれで良いんだな? あとから権限の上書きはできないんだぞ?」


 調べたところによると、ホムンクルスの命令権を持つのは、『精霊の契約者』または『初回起動時に魔力を分け与えた者』。となっていた。

 つまりこの場合、リリちゃんか俺、ということになるわけだが……リリちゃんは俺に命令権を持て、と言っているわけか。


 マジかよ……。

 さすがに緊張するな……。

 だってこのホムンクルスさ……見た目は完全にミサなんだよな……。

 ミサたっての希望で、ミサそっくりのコピーロボットならぬコピーホムンクルスを作ったわけで……。マジで俺がご主人様になるのか……。

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