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第49話 俺は美しいものなら、人だろうとホムンクルスだろうと石だろうと何でも好きだからな!

「リリちゃん、とりあえずホムンクルスの起動実験は成功したわけだが、この後どうしたら良いと思う……?」


 それと、この惨劇についても収拾を図りたい。とにかく助けてくれ!


「これが噂に名高い『ハクちゃんハーレム』というものですね。初めて目にしましたが……修羅場ですね♪ ふふふふふ♪」


 と、リリちゃんは泣き続けるミサの頭を撫でながら、けっこうなボリュームの声で大笑いを始めてしまった。


「いや、まったく笑い事ではないんですが……」


 ミサは床にへたり込んでガチ泣きしているし、ホムンクルスは一応ローブは身につけているものの、ほぼ裸の状態で円卓に上がって勝利のポーズを取っているし、ヒナとチカはお互いの胸を千切り合おうとしてレスリングの様相を呈しているし……もうカオスですわ! これは断じてハーレムなどではない! 解釈違いだ!


「いくつか系統の違う問題が起きているので、順番に片づけていきませんか?」


「ええ、まあ……そうっすね」


 この状況をまとめて解決するのは無理だ。

 さて、どれから手をつけよう……。


「ホムンクルスに名前をつけるところからではないでしょうか?」


「えっ、そこからか?」


 まずは泣いているミサの機嫌を取るところからかと……。


「まずは名前からです。ホムンクルスの起動実験は成功しました。安定稼働もしています。『生命の精霊』もこのまま核の中で生活することを決めたようですし、もう本格稼働に移行したと言って良いと思います」


「おお、『生命の精霊』はあのルビーの核を気に入ってくれたんだな。それは良かった」


 精霊と契約できない俺からは、精霊の姿が見えないし反応もわからないから不安ではあったんだよ。起動はしたけれど、すぐに精霊が素体を離れてしまったらそれで終わりだしな。


「そんなにビクビクしなくても大丈夫です。あの『生命の精霊』はずいぶん前から『ハクちゃんハーレム』の一員のようですし♡」


「ええ、そうなのか……」


 目に見えない精霊から好かれていたの、俺?

 それならそれで、せめて姿だけでも見たいところだが……。


「コハクちゃんは精霊にまでっ! 手を! 出そうと~~~~しているんですかぁ?」


「これ以上ぉぉぉぉぉぉ! ライバルを増やすのはっ! やめるンよっ! おおおぉぉぉぉっ!」


 ヒナとチカはこのままレスリングを続けるか、こっちにきて会話に参加するか、どっちかにしてくれ。中途半端に関節技を掛け合いながらこっちを見なくて良い。ケガをするぞ? って、ああ、レスリングのほうに戻るのね。……まあ良いけどな。2人とも気をつけろよ。


「さあ、ミサに負けないようなかわいい名前をつけてあげてください」


「やっぱり俺がつけるのか……」


 ゴーレム太郎とゴーレム次郎の名前は大不評だったのに、俺の名づけセンスで大丈夫なのか? って言っても、ミサは使い物にならない状態だし、レスリング中の2人も当てにならんな……。この様子だとリリちゃんは代わってくれそうにないか。俺1人で何か考えなければ……。


「ミサにそっくりなホムンクルス……。ミサリエ……ホムンクルス……」


 良さげな組み合わせはないか……。

 ホムリエ。ミサンクルス。ミムンクルス。ホサリエ。クルリエ。サリ。ムンク。


 ああっ、わからん!


「ハクちゃん。ちなみに、ミサの名前から文字を取って考えるのは禁止です。別個の人格として新しい名前をつけてあげてください」


「ええ……」


 まさか俺の思考が読まれたのか……。

 ううーん、別個の人格か……。


 王女。巨乳。笑顔がかわいい。礼儀正しい。めったに怒らない。やさしい。甘やかしてくれる。気遣いができる。お姉ちゃんっぽい。ここぞという時に頼りになる。すぐ手を繋ぎたがる。徹夜していると夜食を用意してくれる。国民に寄り添ってくれる良い王様になりそう。たぶん人気が出る。近衛軍辺りにガチ目のファンクラブができそう。大人になったらもっと色気が増して美人になりそう。控えめに言って天使の生まれ変わり。


「ハクちゃん。それはミサの良いところです。今はホムンクルスの名前を考えてあげてください」


「な、なぜ俺の考えていることがわかったぁぁぁぁぁ⁉」


 完全に俺の心を読んでいるのでは⁉

 もしや、リリちゃんもヒナのような女神の力を使えるのか⁉ 見た目は気品があってヒナよりも女神っぽいし!


「コハクちゃんは~! 失礼な人ですねっ! 私が~~~~~っああぁぁぁっ! コハクちゃんの心の声を~~~~中継しているにっ! 決まっているぅぅぅぅぅぅぅじゃないですかっ!」


「犯人はヒナか! 余計なことすんな! お前はレスリングに集中してろ!」


 チカはショープロレスなんてしてくれる性格じゃないからな! マジで集中しないとケガするぞ⁉


「コハク様……そんな……わたくしのことを……恥ずかしいですわっ」


 ああっ、まさか俺の心の声の中継って、リリちゃんだけじゃなくてミサにも⁉ それはダメだろ! 今めっちゃハズイこと考えちゃっていたぞ⁉


「いや……今のはホムンクルスの名前を考えていたのであってだな……」


「コハク様! 今すぐ結婚してくださいませっ!」


 ミサの目の周りは涙のせいで真っ赤。顔全体から首筋に至るまで肌が見えるところもすべて真っ赤。これはたぶん俺の恥ずかしい心の声を聴いたせい……。


 そんな状態で2mくらいは跳躍して俺の胸に飛び込んできた。

 何とか抱き留めることはできたが、飛び込まれた衝撃で2人とも床に転がってしまった。


「まあ、その気持ちはね、うれしいんだけど……ほら、王位継承権争いの最中だから、今はそっちに集中しないとな?」


 それから法律の問題もあるし……あとは……レスリングを中断して睨んできている2人とか、円卓を持ち上げて、位置エネルギーを利用して殴りつけようとしてきているホムンクルスの問題とか……。俺死んじゃう!


「ミサ! とにかく今は王位継承権に集中しよう! 王様になって、ぜひ法律を変えてくれ!」


 そうしたら同性でもハーレムでも好き放題じゃね? 知らんけど!


ご主人様マスター、そうなった場合、人工的に生み出されたわたくしも結婚できますか?』


 えーと……。

 俺の答え次第では、そのまま円卓が凶器として振り下ろされる。そんな重要な分岐点――。


「も、もちろんだとも! 俺は美しいものなら、人だろうとホムンクルスだろうと石だろうと何でも好きだからな!」


『ああん♡ ご主人様マスター、愛していますわ♡』


 円卓は無事元の位置へ。

 そして俺は2人のミサ(片方はミサそっくりのホムンクルス)を両脇に抱きかかえることに……。


 これで……正解だったのか。

 まあ、とりあえず生き延びたから正解か……。



 いや……なあ、おい……ヒナ&チカ。ヒナチカコンビ。


 痛ぇって。マジで……。


 無言のまま、交互につま先で俺のつむじを蹴ってくるんじゃねぇって。

 マジで痛いから。陥没しちゃうから!

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