「それで……ホムンクルスの名前をつけるんだったな……」
押し倒されたり、つむじを蹴られたり、ずいぶん脱線しましたわ……。
まあまだ絶賛脱線中だったか。
ミサとホムンクルスは2人とも俺に抱き着いたままだし、さっきまでヒナチカコンビに蹴られていたつむじはまだジンジンするしな。
『
「おう……」
2人を抱きかかえたまま、上半身を起こ……せないな。今の俺の腹筋では無理だ。前世ではできたかって? いや、まず女子2人を抱きかかえる状況になったことがないからわからんな。
とまあ、無理なことはせず、脱力してそのまま寝転がっておこう。
おー、照明が眩しい……。
しかし、あれだな。名づけってやつは時間を掛ければ掛けるほど期待値が上がって行く気がする……。かといって、これといったものは何も思い浮かんではいないのだが……。どうするかなあ。
「コハクちゃん、目を閉じて深呼吸をしてください。頭を空っぽにしてから、直感で思いついた名前で良いのではないでしょうか」
ヒナが上から見下ろすように顔を覗かせてくる。
逆光でその表情はよく見えな……くはないな。わりとあれだ、真面目な女神モードの時のヒナの表情だわ。素直に従っておきますかね。
「だけど直感って言ってもな……名前は一生ものだし、そんな適当にはつけられないぞ?」
「何も思い浮かばないなら、『チカの舎弟』って名前にするンよ」
ゲームのサブキャラの名前じゃないんだから……。いるよな。〇〇のサブとか、〇〇の倉庫とかつけるヤツ。
「大丈夫です。適当ではありませんよ。ホムンクルスはコハクちゃんに名前をつけてほしがっているんです。つまり、コハクちゃんの頭の中に浮かんだ名前が、ホムンクルスのほしがっている名前なのですよ」
わかったようなわからないような。
「ううーん。そういうものなのか……」
俺が決めたものなら何でも良いってことか?
ピンとは来ていないが……まあ、目を閉じようか。
目を閉じてみると、両サイドの2人の体温、そして息遣いがよく感じられるようになった。
ミサもホムンクルスも生きているんだなあ。
「コハクちゃん、ホムンクルス作り、本当にお疲れ様でした。ここまでの道のりは大変でしたね。2年もかかりましたし」
ああ、そうだな。
お前が転生する時に、ちゃんとチートスキルをくれていたらこんなには苦労しなかったかもな。『石加工』スキルで人体を模倣して作るなんて荒業……苦労したわ……。
「でも楽しかったですね」
ああ、みんなで協力して何かをするって楽しいな。
前世では中学の時の文化祭がこんな感じだったなって思い出したよ。高校の文化祭? みんな受験勉強に必死過ぎて、1年の頃からクラスの出し物なんてほとんど何もやっていなかった。つまらないものさ。
「マツリ……」
みんなで協力して作り上げたホムンクルス。
苦労や挫折を味わいつつも、毎日がお祭りのようで……。
「『マツリ』って名前、どうかな……?」
俺の問いに誰も答えてはくれない。
……外したか?
いや、違うな。
みんなは、ホムンクルスが答えるのを待っているんだ。
「なあ、お前の名前、『マツリ』でどうかな?」
右胸に抱いているホムンクルスの背中を指で軽く叩いてみる。
ホムンクルスは一度俺の胸に顔をこすりつけてから、勢いよく頭を持ち上げた。
『
一瞬だけ笑顔を見せる。
だがすぐに、マツリは顔を歪めて泣き出してしまった。
「どうしたどうした? やっぱり気に入らなかったか? 別のを考えるか?」
マツリは頭を激しくブンブンと振る。
『いいえいいえ。うれしくて……ふえぇぇぇぇぇぇ』
頭を振ったせいで髪はぐちゃぐちゃ。顔もクシャクシャ。そして涙が頬を伝って俺の胸元に落ちてきていた。
「そかそか。気に入ってもらえたなら良かったよ。これからよろしくな。マツリ」
『はい! はい! こちらこそよろしくお願いしますぅ』
マツリは再び俺の胸に顔をうずめて泣き出した。
そしてマツリの声に呼応するように、ミサのすすり泣く声も大きくなる。
「なんだよ、2人そろって泣き虫か」
俺の左胸に突っ伏したままのミサの頭も軽く撫でてやる。
「わたくしは……ウソ泣きですわ」
顔を上げずにミサが答えた。
はいはい。そういうことにしておこうかね。ミサの涙が下着まで染みてきているんだけど、まあウソ泣きだから平気だよな。
「ハクちゃん。名づけ、見事でした」
リリちゃんがしゃがみ込み、俺の胸からミサを引き剥がしにかかる。
「ああっ! もう少し!」
ミサは一瞬だけ抵抗を見せたが――。
「ハクちゃんに甘えるのは、もうおしまいにしなさい。ミサはこれから王になろうとしているのに、いつまでも泣いているのはおかしいですよ」
リリちゃんがピシャリ。
ミサの体を少々強引に引き起こしてから立ち上がらせた。
あとはホムンクルス――マツリだが……まあ、こっちはもう少しだけ感動を味わわせておくか……。
振り乱されてぐちゃぐちゃになっているマツリの髪をゆっくりと撫でてつけていると、空いたばかりの左胸に強い衝撃――。
「痛ってぇ……今度はチカ……? なんだよ……」
レスリングで負けたから慰められに来たとか?
「チカはえらいンよ! ミサが退くまでちゃんと順番待ちできていたンよ! さっさと褒めるンよ!」
頭撫でろってことね。
はいはい。
「えらいえらい。チカは世界一えらいしかわいいからな」
これで満足でしょうか……?
「世界一かわいいチカのナデナデできて、コハクもしあわせなンよ」
「そうだな。しあわせしあわせ」
しかしなあ、ホントにどうして、こんなにかわいい生き物が生まれてしまったんだろうな。
チカのご両親の教育の賜物なのだろうとは思うが、それにしてもかわいい……。普段は誰彼構わずシャーシャー牙をむいているのに、突然全力で甘えてくるネコみたいだ。
「なあ、痛ってぇって。……ヒナ……つむじ蹴るのやめてくれない?」
痛いし、無表情で見降ろされるとホラーなんですけど。
「私の番はいつ回ってきますか?」
そんなの俺に訊かれても知りませんけど⁉