エリザベスに対する噂が王宮内で広まり始めてから、クラリスの計画は着実に進展していた。貴族たちの間では、エリザベスに対する信頼が薄れ始め、彼女の振る舞いが一つ一つ疑われるようになっていた。舞踏会でエリザベスに不安を植え付けたクラリスは、次なる段階に進む時が来たと確信していた。
クラリスは慎重に情報を操り、エリザベスが王室の資金を横領しているという噂を広めることに成功した。しかし、それだけではエリザベスを完全に崩壊させるには足りない。彼女が王妃の座から追い落とされ、完全に孤立するには、もっと決定的な一手が必要だった。
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数日後、クラリスは王宮の中庭で一人佇んでいた。彼女は考え事をしていたが、顔には微笑を浮かべていた。その瞬間、彼女に気づいた一人の男性が近づいてきた。背が高く、整った顔立ちを持つその男性は、王宮内でも評判の高い騎士団長、ヴィクター・ローランだった。
「クラリス様、お久しぶりです。」ヴィクターは軽く頭を下げ、礼儀正しく挨拶した。
クラリスは微笑みながら彼を見上げた。「ヴィクター様、お会いできて光栄です。今日の舞踏会はいかがでしたか?」
「素晴らしいものでしたが、やはり貴女の存在が華やかさを増しているように感じました。」ヴィクターは冗談交じりに言いながら、クラリスを見つめた。その瞳には、隠しきれない興味が込められているのをクラリスは感じた。
彼は以前からクラリスに興味を抱いていたが、クラリスはそれを利用しようと考えていた。ヴィクターは王宮内でも影響力があり、彼の助けを得られれば、さらに計画が加速するだろう。
「お褒めの言葉、ありがとうございます。」クラリスは穏やかに返事をした。「実は、私には少しお話ししたいことがあるのです。もしよろしければ、少しお時間を頂けますか?」
ヴィクターは驚いた表情を見せながらも、すぐに快諾した。「もちろんです、クラリス様。お話を伺いましょう。」
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二人は中庭のベンチに腰掛け、クラリスは慎重に言葉を選びながら話し始めた。
「最近、エリザベス様に関する噂を耳にしたことはありますか?」彼女の言葉は慎重で、相手の反応を探るようにしていた。
ヴィクターは少し顔を曇らせた。「はい、少しばかり耳にしました。ですが、それが真実であるかどうかは確認しておりません。」
クラリスは静かにうなずいた。「そうですね。ただ、私自身も少し心配しているのです。あの方が、王室にとって本当に適切な存在なのかどうか……。」
ヴィクターは驚いた表情でクラリスを見つめた。彼はエリザベスの婚約者であるレオンの友人でもあったため、その言葉に少なからず衝撃を受けたのだろう。しかし、クラリスの冷静で美しい顔つきに、彼は次第にその言葉の真意を探ろうとする気配を見せた。
「クラリス様、何かご存知のことがあるのでしょうか?」ヴィクターの声には、少しの興味と警戒心が含まれていた。
「そうですね……ただの噂話に過ぎないかもしれませんが、エリザベス様が王室の資金を私的に利用しているという話を耳にしました。」クラリスはあくまで控えめな口調で話したが、その言葉の持つ影響力は十分だった。
ヴィクターは一瞬目を見開いた。「それは非常に深刻な問題です。もしそれが真実ならば、王室にとって大きなスキャンダルとなるでしょう。」
「そうでしょうね。ですが、私は確証がないため、あくまで噂としてしか伝えられません。」クラリスは静かに話を続けた。「ただ、もしこれが真実であれば、王宮にとって大きな問題になると思い、ヴィクター様にお知らせしたのです。」
ヴィクターはしばらく黙り込んだ後、深く息を吐いた。「クラリス様、そのような情報をお伝えいただき感謝します。私自身もこの件について調査を進める必要がありそうです。」
クラリスはその言葉に満足感を覚えた。ヴィクターが動けば、エリザベスの不正がさらに明らかになるだろう。彼は忠誠心が強く、正義感に溢れた騎士であるため、この問題を放置することはできないはずだ。
「どうか、慎重に調査を進めてください。私はただ、この国が正しい道を歩むことを願っているだけです。」クラリスは最後にそう付け加え、ヴィクターに一礼した。
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その後、ヴィクターはすぐにエリザベスの不正についての調査を開始した。彼の調査が進むにつれ、エリザベスが王室の資金を不正に使用していた証拠が次々と明るみに出てきた。彼女は自身の豪華な衣装や贅沢な生活のために王室の資金を流用していたのだ。
この事実が明るみに出ると、エリザベスに対する信頼は完全に崩壊した。王宮内では彼女の追放が囁かれ始め、レオンもまた彼女を庇いきれなくなっていた。彼の表情は日に日に暗くなり、エリザベスとの関係は冷え切っていった。
エリザベスは次第に孤立し、かつて彼女を支持していた貴族たちも次々と彼女から離れていった。クラリスはその光景を冷静に見守りながら、内心で復讐の手応えを感じていた。
「これで終わりではないわ……エリザベス、まだあなたには払うべき代償が残っている。」
クラリスは次なる計画に向けて着実に準備を進めていった。エリザベスが完全に失脚し、王宮から追放されるその日まで、クラリスの復讐は決して止まらない。
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