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第6話 静寂の後の虚しさ



エリザベスが王宮でのすべてを失ってから数日が過ぎた。クラリスの計画は成功し、王宮ではエリザベスの名前が話題になることはほとんどなくなっていた。彼女の美しい顔や、王妃としての誇りは失われ、彼女の居場所はすでにどこにもない。王太子レオンも、彼女を見捨てるように冷たい態度を取っており、エリザベスは王宮を去るしかなかった。


クラリスはこれまでの復讐の結果を冷静に受け止めていたが、心の奥底には奇妙な感情が渦巻いていた。彼女は自らが待ち望んでいた瞬間――エリザベスが完全に失脚し、クラリスの前から姿を消すという勝利の瞬間を迎えたにもかかわらず、その心は空虚感で満たされていた。


「これで本当に、私は満足できるのかしら……?」


クラリスは自室で一人、窓から外の風景をぼんやりと眺めながら自問した。彼女は確かに復讐を果たした。しかし、彼女の心の中には、次に何をすべきかという目標が見当たらない。長い間、クラリスはこの日を夢見て過ごしてきた。裏切られた悔しさ、屈辱、そして喪失感が、彼女を突き動かしてきた。しかし、それがすべて終わった今、彼女は次に何を求めるべきか、答えを見つけられずにいた。


「エリザベスは、もう私の前にはいない。レオンも彼女に興味を失った。だが……私は一体何を望んでいるのだろう?」


クラリスは深くため息をつき、椅子にもたれかかった。復讐が達成されたという事実に対して喜びを感じることができず、むしろ一抹の寂しさすら覚える自分に驚いていた。



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その日、クラリスは久しぶりに王宮を離れ、街を歩いてみることにした。華やかなドレスを着て外に出るのは、王宮の舞踏会以来だったが、彼女はできるだけ目立たないように、シンプルな装いを選んだ。王宮から離れ、街の通りを歩くと、ざわつく人々の声や、商人たちの活気に満ちた雰囲気が感じられた。だが、クラリスはその雑多な光景の中で、どこか自分が孤立しているような感覚を覚えた。


「私は、今何をすればいいのだろう……」


そんな思いに浸りながら、クラリスはふと、かつてヴィクターが勧めてくれたカフェに立ち寄ることを思い出した。彼女は方向を変え、そのカフェに向かって歩き始めた。


カフェに到着すると、木製の小さな扉が暖かく迎えてくれた。中に入ると、柔らかな照明が店内を照らし、穏やかな空気が広がっていた。クラリスはカウンターの近くの席に座り、メニューを広げたが、心の中は別のことに囚われていた。


「あの時、ヴィクターは私に何を望んでいたのかしら……?」


ヴィクターはエリザベスを失脚させるための協力者となったが、彼自身の思いを明確に示すことはなかった。彼の忠誠心は王室に向けられていたが、クラリスに対しても特別な感情を抱いていたのではないかという疑念が、彼女の中で湧き上がった。


「……ヴィクターに会いたい。」


ふいに心の中でそう感じた瞬間、カフェの扉が開き、彼女の視界にヴィクターが現れた。彼は驚いた様子で一瞬足を止めたが、すぐに微笑んでクラリスに歩み寄ってきた。


「クラリス様、偶然ですね。ここでお会いできるとは。」


クラリスは思わず微笑みを返した。「ええ、本当に偶然ですわ。少し外を歩いていたのですが、立ち寄ってみたくなって……。」


ヴィクターは彼女の隣に座り、軽く頷いた。「お一人で考え事をされていたのですか?」


クラリスは少し迷いながらも、正直に答えた。「そうね、少し物思いにふけっていたのかもしれません。ヴィクター様、あなたに少しお聞きしたいことがあるのですが……」


ヴィクターはクラリスの言葉に耳を傾け、静かに返事を促した。「どうぞ、何でもお聞きください。」


「あなたは、私が復讐を果たす手助けをしてくれた。けれど、それが終わった今、私は何をすべきなのか……次に何を目指すべきなのかがわからないのです。」


クラリスは自分でも驚くほど率直に自分の気持ちを打ち明けた。ヴィクターはしばらく黙って考え込んだ後、優しく彼女を見つめて言った。


「クラリス様、あなたは長い間、復讐に生きてこられました。その目標が達成された今、空虚さを感じるのは無理もないことです。しかし、それは新たな道を見つけるための一歩に過ぎません。復讐が終わった後、あなた自身が何を望んでいるのかを考える時が来たのです。」


彼の言葉は穏やかで、真摯なものであった。クラリスはその言葉に少し救われたような気がしたが、それでも自分の答えを見つけることは簡単ではなかった。


「新たな道……」


ヴィクターはさらに続けた。「あなたは強い意志を持っています。そしてその力は、他の人々を救うためにも使えるはずです。今までとは違う目的を見つけ、新しい生き方を考えるのも良いのではないでしょうか。」


クラリスはその提案に少し驚きつつも、考え込んだ。自分の力が他者のために使えるという考えは、これまで彼女の中にはなかった。彼女の復讐は、自分自身のためだけにあった。しかし、ヴィクターの言葉は、彼女に新たな可能性を示してくれたように感じた。


「もしかしたら、私にはまだやるべきことがあるのかもしれないわ……」


そう呟いたクラリスの顔には、少しずつ新たな光が戻ってきていた。彼女の復讐の旅は終わったが、これからは自分自身のため、そして他の人々のために生きる新たな道が開かれるかもしれないと感じ始めていた。



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