クラリスは翌朝、澄み渡る青空の下で目を覚ました。前夜、レオンとの対話は彼女の心に大きな変化をもたらしていた。過去の憎しみや怒りに囚われた自分から、次の一歩を踏み出すべきだという意識が、少しずつではあるが芽生えていた。
クラリスはベッドの上に座り、しばらく窓の外を見つめた。レオンの謝罪は真摯なものであり、かつての自分なら許すことはできなかったかもしれない。しかし、ヴィクターとの出会いや、村での人々との交流を通じて、彼女の心は確実に変わり始めていた。過去の憎しみに囚われ続けることは、自分自身を傷つけるだけだということに気付き始めていた。
「私は、過去を乗り越えなければならない……そのために、レオンの謝罪を受け入れる時が来たのかもしれない。」
クラリスは自らにそう言い聞かせ、ベッドから立ち上がった。今、彼女がするべきことは明確だった。レオンに対して許しを与えることで、過去に決着をつけ、前に進むための決意を固める時が来たのだ。
---
その日、クラリスは静かにレオンのもとを訪れることに決めた。彼がいるのは王宮の庭園の奥にある小さな離宮だった。そこは人目を避けるための場所であり、クラリスも静かに自分の考えを整理するためにふさわしい場所だと感じていた。
庭園を抜け、離宮に近づくと、レオンが一人で立っているのが見えた。彼は考え事をしているのか、遠くの景色をぼんやりと見つめていた。その姿を見たクラリスは、一瞬ためらったものの、深呼吸をしてからゆっくりと彼に歩み寄った。
「レオン様、お話しを伺ってもよろしいでしょうか?」
レオンは彼女の声に気づき、驚いたように振り返ったが、すぐに表情を柔らかくし、彼女を迎え入れた。「クラリス……君が来てくれるとは思っていなかった。」
クラリスは微笑みを浮かべ、彼の隣に立った。彼女はしばらく言葉を探した後、静かに口を開いた。
「昨日の謝罪について、考えていました。あなたの言葉が真剣であることは感じています。そして、私も自分の気持ちと向き合ってみました。私があなたに対して抱いていた怒りや憎しみは確かに深いものでした。でも……それをずっと抱え続けていても、私自身が幸せにはなれないということに気づいたのです。」
レオンは彼女の言葉を聞き、目を伏せた。「僕の過ちが、君にどれだけの痛みを与えたか……本当に申し訳ないと思っている。だが、君がその気持ちを乗り越えようとしてくれていることに、感謝するよ。」
クラリスは少しうつむいてから、レオンの顔を見上げた。「レオン様、私はあなたを許すことに決めました。過去に囚われ続けるのではなく、私自身の未来のために、前に進むためにそうする必要があると感じたのです。」
その言葉を聞いたレオンは、驚きと感謝の表情を浮かべた。「君が僕を許してくれるとは……。本当にありがとう、クラリス。それが僕にとってどれだけの意味があるか、言葉では表せない。」
クラリスは優しく微笑んだ。「私たちが過去に戻ることはできません。でも、これからはお互いが前を向いて生きていくために、この過去を受け入れることが必要だと思います。」
二人はしばらくの間、静かにお互いを見つめ合っていた。クラリスは、自分がようやく過去を乗り越える一歩を踏み出したことを感じ、心の中に穏やかさが広がっていくのを実感していた。
---
レオンとの対話を終えた後、クラリスは再び王宮の廊下を歩いていた。自分の心の中にある痛みや怒りは、完全には消えていないかもしれない。それでも、彼女はレオンを許すという決断をしたことで、過去を振り切り、次のステップに進むことができるようになった。
「これで、私も本当に前に進める……」
彼女がそう自分に言い聞かせたとき、廊下の向こうから誰かが歩いてくるのが見えた。それはヴィクターだった。彼もまた、クラリスの存在に気づき、微笑みながら彼女に歩み寄ってきた。
「クラリス様、良い表情をされていますね。」ヴィクターは彼女の顔に何か変化があることに気づいたのか、優しく問いかけた。
クラリスは少し照れくさそうに笑った。「ええ、今朝レオン様に会って、彼の謝罪を受け入れました。ようやく、自分の中で区切りがついた気がします。」
ヴィクターはその言葉を聞き、静かにうなずいた。「それは素晴らしいことです。クラリス様が過去を乗り越え、未来に向けて進む準備ができたのなら、私も嬉しい限りです。」
クラリスはヴィクターの真摯な言葉に感謝の気持ちを抱きながらも、少しだけ気恥ずかしさを感じていた。彼の支えがあったからこそ、ここまで前進することができたのだと気づかされていた。
「ヴィクター様、あなたの言葉がなければ、私はここまで進めなかったかもしれません。いつも私を支えてくれて、本当にありがとう。」
その感謝の言葉に、ヴィクターは笑みを浮かべながら軽く頭を下げた。「クラリス様が前進する力を持っていたからこそ、ここまで来られたのです。私はほんの少し、お手伝いしただけです。」
二人はしばらく静かに歩き続けたが、クラリスの心の中には新たな決意が芽生えていた。過去を乗り越えた今、自分には次に成すべきことがある――それは、王国の未来のために、ヴィクターと共に力を尽くすことだ。
「ヴィクター様、私には次に進むべき道が見えてきました。私は、今度こそ本当にこの国のために力を尽くしたいと思います。私ができることがあるなら、それを全力で成し遂げる覚悟です。」
その言葉に、ヴィクターは少し驚きつつも、満足げに頷いた。「その決意があれば、どんな困難も乗り越えられるでしょう。クラリス様と共に、この国を良くするために私も全力を尽くします。」
二人は新たな誓いを胸に、再び前を向いて歩き出した。これから待ち受ける新たな挑戦と試練に向けて、クラリスは自分の心に芽生えた新しい目標を信じ、力強く進むことを決意していた。
--