クラリスがレオンとの過去を受け入れ、未来に向けて一歩を踏み出した翌日、王宮内での会議が再び行われた。ヴィクターと共に参加するクラリスは、今までとは異なる決意を胸に秘めていた。彼女は過去の復讐から解き放たれ、今や国の未来を担う役割を果たすために動き出していた。
会議室に入ると、すでに王宮の重臣たちが集まり、緊迫した表情で話し合いをしていた。クラリスが席に着くと、ヴィクターが隣に座り、彼女に軽くうなずいた。彼もまた、これからの展開に備えているようだった。
「本日は、国境地帯での不穏な動きについての報告をさせていただきます。」
会議を進める役人の一人が資料を広げながら話し始めた。国境付近では、最近異国の勢力が活発に動いており、貧しい村々への略奪行為や、不法な取引が増加しているとのことだった。クラリスが先日訪れた村も、その影響を受けていたが、問題はさらに深刻化しているらしい。
「特に、隣国との密貿易や盗賊団の横行が目立っています。このまま放置すれば、王国全体に対する脅威となりかねません。」報告は深刻な内容だった。
その言葉に、会議室内は一層の緊張感が広がった。クラリスもまた、この問題がどれほど大きな影響を及ぼすかを理解していた。彼女はすぐに、自分がどう貢献できるかを考え始めた。
「ヴィクター様、これはすぐに対処すべき問題ですね。」クラリスは静かに隣のヴィクターに言った。
「ええ、国境地帯での問題を放置するわけにはいきません。だが、これまでの王宮の対応は、いささか遅すぎました。我々が主導して動く必要があります。」
ヴィクターの言葉には、彼自身の強い意志が感じられた。クラリスもまた、彼の意見に賛同し、行動に移す覚悟を決めた。
会議が進む中、重臣たちは次の対応策を議論し始めたが、クラリスはある瞬間、ふと自分の役割がこの場にとどまるだけではないことに気づいた。国境の村々を実際に訪れ、状況を見極めることこそが、彼女の使命であると感じ始めたのだ。
「私が、現地に行きましょう。」
クラリスは唐突に口を開き、会議の参加者全員が驚きの表情で彼女に注目した。彼女が再び発言を続けた。
「私はかつて、復讐のために動いていましたが、今はこの国のために力を尽くす覚悟があります。私が現地に行き、状況を直接見極めて、適切な対策を提案いたします。」
その言葉に、重臣たちはしばし沈黙した。彼女が自ら危険な場所へ行くと申し出たことに驚いたのだろう。しかし、クラリスの目には強い決意が宿っており、誰もその申し出を拒むことができなかった。
「クラリス様……」ヴィクターが隣で静かに呼びかけた。「本気ですか?」
「ええ、私は本気です。このまま王宮にとどまり続けるだけでは、本当の問題を解決することはできません。私が現場に行って、自分の目で状況を確かめなければなりません。」
ヴィクターはしばらく彼女の顔を見つめた後、微笑みを浮かべた。「では、私も同行しましょう。クラリス様一人を危険な場所に行かせるわけにはいきません。」
その言葉にクラリスは感謝の念を感じた。ヴィクターが傍にいてくれることで、彼女の決意はさらに固まった。
重臣たちも最終的に彼女の申し出を認め、クラリスとヴィクターが国境地帯への視察団を率いて向かうことが正式に決定された。
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数日後、クラリスとヴィクターは小規模な視察団を編成し、国境地帯へと旅立った。旅は長く険しいもので、道中には様々な困難が待ち受けていたが、クラリスは自らの役割をしっかりと果たすため、気を引き締めていた。
国境地帯に近づくにつれ、道端には荒れ果てた家々や、襲撃を受けた村の跡が次々と現れた。住民たちの多くは逃げ出し、残った者たちは貧困と絶望に打ちひしがれていた。
「ここまで状況が悪化していたなんて……」クラリスは目の前の光景に心を痛めた。
村の長老に話を聞くと、隣国からの密貿易が原因で市場は崩壊し、盗賊団が人々の生活を脅かしているということが明らかになった。しかも、これらの問題はただの盗賊団や小さな不正取引に留まらず、何らかの大きな力が背後で暗躍している可能性が高いと感じさせた。
「これは単なる盗賊団の仕業ではない……」クラリスは険しい表情でつぶやいた。「もっと組織的な何かが動いている気がするわ。」
ヴィクターもその意見に同意した。「たしかに、これだけの規模で同時に問題が発生しているのは不自然です。背後に何者かの意図があるはずです。」
クラリスは再び自分の力が試される瞬間に立ち会っていることを感じた。彼女はただ復讐に燃える娘ではなく、今や王国の未来を守る一員としての責任を負っている。そして、彼女はこの危機に立ち向かうため、さらなる覚悟を固めた。
「私たちは、この問題を根本から解決しなければならない。」クラリスはヴィクターに向かって言った。「盗賊団や密貿易を操る黒幕を突き止め、すべてを明らかにするわ。」
「もちろん、クラリス様。」ヴィクターはうなずき、剣に手を置きながら微笑んだ。「私も全力でお手伝いします。」
二人は新たな決意を胸に、国境地帯での調査を開始した。これから先に待ち受ける困難は未知数だが、クラリスは今や恐れることなく、自分の力を信じ、王国の未来のために戦う覚悟をしていた。