国境地帯の状況は、クラリスが想像していた以上に深刻だった。盗賊団の横行や密貿易だけでなく、住民たちが恐怖に支配され、誰もが何か大きな脅威に怯えているようだった。ヴィクターと共に数日間調査を続けるうちに、クラリスは確信を強めていった。これは単なる小さな犯罪組織の仕業ではなく、王国の安全を脅かす大規模な陰謀が進行していることを。
村の長老たちや商人たちから話を聞くと、ある共通の名前が浮かび上がってきた。それは「黒い牙」と呼ばれる密貿易と盗賊団を束ねる謎の組織だった。彼らは、隣国との国境を拠点にし、巧妙に王国の経済や治安を揺さぶっているらしい。
「黒い牙……何者なのかしら?」クラリスは考え込んだ。
「これは単なる盗賊や不法商人ではない。背後に何らかの組織的な動きがあることは間違いないな。」ヴィクターも同様に深刻な顔をしていた。
クラリスはヴィクターと共に、村の住民たちからさらに詳しい情報を集めることを決めた。彼らはあらゆる手がかりを探し、ついにある洞窟がその組織の隠れ家として使われていることを突き止めた。
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数日後、クラリスとヴィクターは少数の兵士たちと共に、その洞窟へ向かった。険しい山道を進むと、徐々に空気が張り詰めてきた。洞窟の前にたどり着いたとき、クラリスは何か邪悪なものを感じ取った。
「ここに……黒い牙がいるのでしょうか?」クラリスは緊張した声でヴィクターに問いかけた。
「間違いないだろう。この場所はあまりにも静かすぎる。」ヴィクターは剣に手をかけ、警戒しながら答えた。
クラリスは深呼吸をし、心を落ち着けた。「私はもう、恐れない。私が守るべきものは、ここにある。」
二人は洞窟の奥へと慎重に進んでいった。暗闇の中、時折遠くで響く音が、何かが動いていることを示していた。やがて、洞窟の奥に薄暗い明かりが見え、そこには数人の盗賊が集まっていた。
「準備はできているな?」一人の男が仲間に声をかける。明らかに彼らは何か大きな計画を立てているようだった。
クラリスは影に身を潜め、彼らの会話に耳を傾けた。彼らは、王国の首都に向けて何か大規模な攻撃を計画しているらしかった。盗賊団や密貿易は単なる一部に過ぎず、彼らの本当の狙いは、王国全体を混乱に陥れることだった。
「首都が標的だというのか……!」クラリスは衝撃を受けた。これが単なる盗賊団の略奪ではなく、王国を揺るがす重大な陰謀であることが明らかになった。
ヴィクターもまたその情報を聞き、表情を険しくした。「これは王宮に戻って報告する必要があるな。しかし、彼らを見過ごすわけにはいかない。」
クラリスは迷わず決断した。「今ここで、少なくともこの洞窟にいる連中を止めましょう。このまま見過ごして首都への攻撃を許すわけにはいきません。」
ヴィクターは頷き、二人は兵士たちと共に行動を開始した。
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クラリスは剣を構え、洞窟の中に潜む敵に向かって進んでいった。最初の一撃で驚いた盗賊たちは混乱し、次々と倒されていった。しかし、リーダーと思しき男がその混乱の中で指示を出し、盗賊たちは次第に反撃を試みた。
「ここまで来たか。だが、お前たちが私たちを止めることはできない!」リーダーの男は冷笑を浮かべながら、クラリスに向かって剣を抜いた。
「あなたが黒い牙の指揮者ですか?」クラリスはその男に向かって問いかけた。
「そうだ。だが、私を倒しても意味はない。黒い牙はただの組織ではない。私を失っても、次の者が動き出すだけだ。」男はそう言いながら、剣を振りかざしてきた。
クラリスは素早くその攻撃をかわし、反撃に転じた。彼女の剣技は鋭く、男の防御を崩していった。だが、男は何か不気味な笑みを浮かべていた。
「どうした?まだその程度か?」男は挑発的に笑いながらクラリスを挑んできた。
クラリスは冷静さを保ちながら、彼の攻撃を見極め、確実に隙を突いた。そして、ついに彼の剣を弾き飛ばし、彼を追い詰めた。
「終わりよ。黒い牙の計画はここで終わるわ。」クラリスは剣を男の喉元に突きつけた。
しかし、男はそれでも笑みを崩さなかった。「終わり?それはどうかな……私を倒したところで、計画はもう動いている。お前がここで私を討つかどうかなど、何の意味もないんだよ。」
その言葉にクラリスは一瞬動揺した。彼を倒すことが、果たして計画を止めることにつながるのだろうか?
その時、ヴィクターがクラリスの背後に近づき、静かに言った。「この男はただの駒だ。真の黒幕は別にいるはずだ。無駄に命を奪う必要はない。」
クラリスは深く息をつき、剣を下ろした。「あなたを生かしておく理由はないけれど、今ここで殺すことに意味はないわ。捕虜として王宮で尋問を受けてもらう。」
男は嘲笑を浮かべたまま、捕縛された。
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その後、クラリスたちは洞窟から帰還し、捕えた黒い牙のリーダーを王宮へと連行した。首都への攻撃計画は阻止され、ひとまず危機は去ったが、クラリスは背後に潜むさらに大きな陰謀を感じ取っていた。
「黒い牙がただの駒だとしたら……真の黒幕は誰なのか……?」
クラリスの新たな戦いが、これから始まろうとしていた。王国の未来を守るため、そして真の敵を見つけ出すため、彼女の旅は続いていく。