クラリスは影の公爵の存在を知り、王国の混乱を引き起こしている黒幕の存在を確信した。だが、捕らえた「黒い牙」のリーダーは毒に倒れ、真相を話す前に命を絶った。これまで手にしていた貴重な情報が一瞬で消えてしまったことに、クラリスは焦燥感を覚えていた。
「影の公爵……一体どこにいるのか。そして、彼の狙いは何なのか。」クラリスは心の中でその問いを繰り返した。
ヴィクターが隣で静かに声をかけた。「焦るな、クラリス様。確かに手がかりは失ったが、今までの情報は無駄にはならない。我々にはまだ影の公爵に迫る道が残されているはずだ。」
クラリスは深く息をつき、ヴィクターに微笑んだ。「そうね、ありがとう。私たちは彼を必ず見つけ出して止めなければならない。」
そう誓いながら、クラリスとヴィクターは今後の行動を練るために、王宮の会議室へと足を運んだ。ここで集まっている重臣たちに、影の公爵という謎の黒幕が王国を混乱させている事実を伝え、次なる手を考える必要があった。
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会議室に集まった重臣たちに、クラリスとヴィクターはこれまでの経緯と影の公爵の存在を説明した。だが、会議は予想以上に険悪な雰囲気に包まれていた。影の公爵が表舞台に出てこない以上、彼の存在を信じようとしない者もいたからだ。
「影の公爵など、ただの噂に過ぎないのではないか?」ある重臣が冷たく言い放った。「貴族社会には多くの影響力を持つ者がいるが、その中にそんな名前を聞いたことはない。」
別の重臣がそれに同調する。「この国の治安が乱れているのは、密貿易や盗賊団のせいに過ぎない。影の公爵などという人物に惑わされてはならん。」
クラリスはその意見に少し苛立ちを感じたが、冷静さを保ちながら答えた。「確かに、その姿は表には出ていません。しかし、私たちは実際に『黒い牙』のリーダーから彼の存在を聞きました。王国の裏で動いている陰謀を軽視するべきではありません。」
ヴィクターも重々しい口調で続けた。「影の公爵が存在するかどうかは、これからの調査で明らかにすべきです。だが、私たちはこの脅威を無視することはできない。万が一、彼が存在し、計画を進めているのだとしたら、王国は取り返しのつかない事態に陥るでしょう。」
重臣たちはしばらく黙り込んだ後、ようやくうなずいた。彼らも完全に納得したわけではないが、クラリスとヴィクターの言葉には一理あると感じたようだった。
「わかりました。調査を進めることには同意します。」一人の重臣が口を開いた。「だが、影の公爵がどこにいるのかを突き止めるには、さらに多くの情報が必要です。我々の協力が必要であれば、惜しまず支援します。」
クラリスは深くうなずいた。「ありがとうございます。影の公爵を追い詰めるためには、皆さんの協力が不可欠です。」
こうして、クラリスとヴィクターは重臣たちの賛同を得て、影の公爵の居場所を突き止めるための調査が正式に始まった。
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翌日、クラリスとヴィクターは自室で今後の計画について話し合っていた。影の公爵の居場所を探るためには、まず彼が関与している組織や取引の痕跡を追う必要があった。
「影の公爵の名前が表に出ることはないにせよ、彼の手下や協力者が動いているはずだ。」ヴィクターは地図を広げながら言った。「密貿易のルートや、盗賊団が活動している地域を詳しく調べれば、彼の手がかりを掴めるかもしれない。」
クラリスはその言葉に頷きながら、地図を見つめた。「そうね。このあたりに目をつけるべきね。国境付近や、密貿易の拠点とされる港の町も怪しいわ。」
二人は情報を整理し、調査に向けて準備を進めた。だが、その前にもう一つ重要なことがあった。それは、首都の治安を守るための体制を整えることだ。影の公爵が計画を進めている以上、首都への攻撃や混乱が再び起こる可能性があったからだ。
「まずは、王宮の周囲と首都の防衛を強化する必要がある。」クラリスは決然とした表情で言った。「私たちが影の公爵を追う間、首都を守るための対策を万全にしなければ。」
ヴィクターも同意し、すぐに防衛部隊に指示を出した。王宮内外の警備を強化し、首都周辺の見張りを増やすことで、影の公爵の不意打ちを防ぐ準備が整えられた。
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数日後、クラリスとヴィクターは、影の公爵の痕跡を追うため、密貿易が行われている港の町へと向かった。長い旅路を経て、彼らがたどり着いたのは活気あふれる港町だったが、そこには表面的な繁栄とは裏腹に、陰湿な取引が横行していることが感じられた。
「ここが、影の公爵の手下たちが動いている場所の一つかもしれない。」クラリスは警戒しながら町の様子を観察した。
「確かに、この町には何か隠されている気がする。」ヴィクターも同じく緊張感を漂わせながら、周囲に目を光らせていた。
彼らはまず、地元の商人たちから話を聞くことにした。いくつかの店を回り、密貿易に関与している可能性がある者たちの情報を集めたが、表立って話す者はいなかった。それでも、彼らの質問に対する商人たちの態度には何か隠している様子が見て取れた。
やがて、クラリスたちは一軒の酒場に足を運んだ。そこは賑やかな場所であり、あらゆる階層の人々が集まるところだった。情報を集めるには最適な場所だと考えたクラリスとヴィクターは、慎重に人々の会話に耳を傾けた。
すると、酒場の奥で密かに交わされている会話がクラリスの耳に届いた。
「準備はできている。次の取引は影の公爵の指示通りだ……」
その名前を聞いた瞬間、クラリスは反射的にヴィクターに目配せをした。二人はすぐにその声の主を探し出し、静かにその後を追い始めた。
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港町の裏通りへと足を進めるクラリスとヴィクター。影の公爵の手下らしき者たちを追いかけ、彼らがどこで何をしているのかを突き止めようとする。
「影の公爵……いよいよ、その手がかりが見えてきたわ。」クラリスは心の中で決意を固め、次の一歩を踏み出した。