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第二章自分の道は手探りで探せばいい

第10話二日目

 翌日、気乗りしないものの学校へと向かっていた。まあ気が重いのは今に始まったことではないのでいいのだが、今日は一つ問題があった。


「なあ、ミルフィア」

「はい、主」


 場所は学校の正門前。他の生徒の波の中、景気よく花弁を散らす桜の風を受けつつ俺はミルフィアを見つめていた。困ったことに学校についてくると言って聞かないのだ。


「お前はここの生徒じゃない。だから基本的にはいちゃ駄目なんだ、分かるだろ?」

「しかし主。昨日の出来事を省みれば一人は危険です」

「それは、まあ」


 昨日、俺は加豪と喧嘩をした。登校初日からあの大騒ぎだ。ミルフィアの気持ちは分からんでもない。

 けれど駄目なんだ。それはミルフィアが生徒じゃないというのもあるが、俺には昨夜に決めたことがある。それはミルフィアには知られちゃいけないことだ。


「お前の言うことも分かる。でも、それでもだ。いいか? 俺の前に現れるな、絶対だぞ?」

「……はい。主がそう言うのでしたら」


 ミルフィアは寂びしそうに頷くと目の前から消えていった。悪いことしたかな? いや、でも仕方がない。これもあいつのためだ。


 ミルフィアに知られてはいけないこと。


 それは彼女の誕生日会を開くということだ。しかし問題は山積みだ、だって俺だぞ? 誕生会を開くということは参加者を集めるということだ。俺だけだと虚しいし。しかし誰が俺の誘いに乗ってくれる?

 無信仰者。みんなの嫌われ者。そんなやつがいくらお願いしたって無理だろう。


「いかんいかん」


 最初から弱気になってるな。俺はミルフィアと友達になると決めたんだ。なら彼女の喜ぶことをしなくてはならない。そのために頑張るんだ。


「よし」


 どうなるかなんて正直分からないが気合だけは入れておく。誰か良さそうな人がいればとりあえず誘ってみよう。


 そんな考えを巡らせながら教室の前にまで来ていた。昨日のこともあってこの扉を開けるのは少々躊躇いがある。だけど行くしかない。行かなくてはならないんだ。


 俺は扉を開け中へと入る。他人の家のような感覚がするぜ。


「おい」

「来たぞ」


 瞬間クラス全員の視線が俺に向けられた。どれも睨むような、敵を見る目だ。


 またこれかよ。分かっていたけどいきなりこんな場面で心がどんよりする。


 しかしどうも違うようだ。その目つきにはただの異端者を見るものではなく明確な理由があるように思う。


 わけが分からない。俺なにかしたか?


 それで教室を見渡してみるとあることに気が付いた。


 何人かの机、それがズタズタに刻まれていたんだ。カッターか? それで引っ掻かれたような傷が何本もある。


「お前、それどうしたんだよ?」

「は? とぼけるなよ」

「あ?」


 なんだ、俺がしたっていうのかよ? こんなことするわけねーだろ。


 そう思うが机に傷がついている奴を見てみれば昨日、俺に真っ先に陰口を言ってきた連中だ。それで俺がやったと思われてるのか。


「俺じゃねえぞ、俺はそんなことしてない」


 はっきりと断言する。当然だ、俺はしてない。だっていうのに。


「嘘吐け、お前だろ? お前以外に誰がいるんだよ」「これだから無信仰者は」「恥ずかしくないの」

「なんだよ、それ……」


 誰も、俺の言うことなんて聞いてくれない。無信仰者ってだけで。まるで信仰が人権の証明のようだ、俺にはそんなものなんてない。


 ふざけんなよ……なんで誰も信じてくれないんだよ!? こんなのありかよ!


 俺は机に鞄を置き教室から出て行った。クラスの数人から怒鳴り声で止められたが全部無視する。


 扉を乱暴に開け、廊下に出ると走り出していた。全力で走って、走って、ここから少しでも離れたかった。


 廊下の突き当りで立ち止まる。荒れた呼吸を整えるが、そんなことよりショックの方が大きい。


 あんなの、どう考えても俺を貶めるための罠だろ。あんなことしたら自分が犯人ですって自白してるようなものだ。そんなことするか? そんな間抜けだと思われてるのか? 無信仰者だからってこんなことまでされなくちゃならないのかよ。


「なんだよそれ!」


 気分が悪い。胸がムカムカする。吐こうと思えば吐けると思う、マジで。


「はあ」


 もう、なにもかもが嫌になる。


 ともかく、教室には戻りたくない。絶対に嫌だ。とはいえここにいるわけにもいかないし。どうしようか。


「そうだ」


 屋上はどうだろう。今の時間なら誰もいないはずだ。


 屋上に辿り着き、扉を開ければ爽やかな青空が迎えてくれる。清々しい風が全身を包んでくれた。


「ふう、落ち着く……ん?」


 と、気づけばフェンスに一人の女の子が立っていた。


 緑色の髪を肩まで伸ばし、ストレートの髪型はそよ風を受けて小さく揺れている。小柄な体で雲しかない青空を見上げていた。先客がいたのか、そういうことなら別を当たるか。


 俺は踵を返そうとするが、そこで少女が振り向いた。半身だけを動かし赤い瞳がじっと見つめてくる。俺を見つけても無表情で、大きな目が俺を見ている。


 すると、今度は小さく手招きしたのだ。


 なんだ?


 少女がなんで俺を呼んでいるのか分からない。


 クイクイ。


 また手招きしてる。理由は分からないが、しかし断るのもあれだしとりあえず行ってみるか。

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