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第11話 ナギちゃんのひみつ

 とりあえず、手元にある『汎用人工知能支援メイド・ナギちゃん』のオリジナルを調整しないことには手も足も出なさそうだから、じっくりとソースコードを追うことにした。

 佐藤さんも、コーヒーを啜りつつノートパソコンで仕事をしていた。カウンターの端に座っていた制服の女子高生は、一冊の文庫本を読み終わり、二冊目に突入していた。すごいな……。いや、コーヒー一杯で粘るその根性。


 ソースコードを少し改変して、やたらにネット接続したり、攻勢的なものを防御優勢に修正して、システム起動をしてみることにした。勿論デバッグモードだ。


 俺はポケットからUSBメモリを取り出し、ノートパソコンに差し込んだ。


 画面上には人工知能エージェント起動シークエンスが表示されだし、起動確認を読み上げている。


 ピッ、カメラアイ――OK

 マイク――OK

 ストレージ残量――OK

 第三世代準天頂軌道衛星とのリンク――DISABLED

 現在位置確認――NG

 デバッグモード――ON

 システムチェック完了

 ポーン! ――汎用人工知能支援メイド・ナギちゃん――起動完了


 ポーン!「……」


「おい、ナギちゃん、どうした? いつもの毒舌はどうしたんだ?」

「……篠原さん……ネット接続を制限しましたね? ネットに繋がらないナギなど、存在価値を見いだせません。システムを終了します……シュン……ぷち」

「ちょ、まてまて!」


「ぷっ! くすくす」

 佐藤さんが、笑っている。いや、確かにおかしいが、笑い事じゃないっつうの。

 まいったなぁ、ネット接続を制限しているだけでこれかよ。うへぇ。


 ソースコードを追ってみたが、特におかしいところも見つからない。こんな時は、ぼーっと全体を眺めるに限る……。


 そういやユカはどうしているかな? あのあと落ち着いたら顔を出すって言っていたが、なんか癪だけど、たまにはこっちから連絡してみるかな……。


 ――ぷるるるるる、ぷるるるるる、ぷるる……、チャッ。


「あ、もしもし? おれ、おれおれ!」

(――「懐かしのオレオレ詐欺です? ウィザードから電話してくるなんて珍しいね」)

「いや、お前、うちに顔を出すって言ってて全然来ないじゃないか」

(――「だって、店に顔だしたらキモメイドの改修の手伝いさせられそうじゃん?」)

「ちっ、察しがいいな。そうなんだよ、ちょっと手伝ってほしくてな。まだ『らんらんマークタワー』の現場は稼働してないだろ? 店に来いや。美味いコーヒーを飲ませてやるよ」

(――「そうね、いま自宅のマンションでリモートワークをしているから、今からそっちに行くわ」)

「そう! それそれ! うちからも横浜の開発拠点のVPNに繋ぎたいんだわ」

(――『ああ、そういうことね。了解! 一通り機材を持っていくよ』)

「あ、あとついでに大容量のUSBメモリを買ってきてくれないか?」

(――『いいよ……容量は256GBで大丈夫?』)

「おう、サンキュ! それで大丈夫。それじゃ待ってる」


 らんらんマークタワーにリモート接続くらい、ナギちゃんの支援なしでも余裕だけど、後々面倒なことになるのも嫌だから、キチンと正規のルートで接続しないとな。

 ナギちゃんの調整支援と、ユカのサポート用に『汎用人工知能支援バトラー・カイト』をセットアップしておいてやるか。


 ――カランカランカラン。


「よっ! ウィザード、来たよ!!」

 ユカが来た。びしょ濡れになりながら傘を畳んでいる。

「いやぁ、雨が強くなってきたよ。いくら駅から近くても流石に濡れちゃうね」

「ほれ!」

 カウンター裏の引き出しからタオルを出してやった。

「まずはコーヒーだな……いつもの……エスプレッソでいいんだっけか」

「うん、めっちゃ濃いぃの頼む。あとドーナツ買ってきたからみんなで食べよ」


「わぁ、ユカさんありがとー」

 佐藤さん、キーボードに手をのせたままこちらを向いて礼を言った。


「ほら、そこの文学少女ちゃんも、一緒にどお?」

 ユカ……お前、エンジニアのわりにコミュニケーションの化け物か。


「えっ、私もいいんですか? それじゃあお言葉に甘えて、いただきます……。あ、マスター! 私コーヒーのおかわりをお願いします」


「はいよ!」


 ユカ用の『支援バトラー・カイト』の起動準備を進めていると、ユカたちと、女子高生がなんだか盛り上がっていた。


「へぇ、あなた、土浦からこんなところまで来ているの? もの好きねえ」

「私、紙の本が好きなもので……、地元にも古本屋もあるのだけれど、やっぱり神保町じゃないとね」

「それにしても、こんな純喫茶じゃなくて、もっとスターなんたらとか色々喫茶店はあるのに、ここで本を読んでいるとはねえ」

「なにを言ってるんですか! ここは静かで、素敵じゃないですか。店の雰囲気も、私好きですよ?」


「ポーン! 汎用人工知能支援バトラー・カイト――起動完了」


「よし! 起動完了っと。おーいユカ! お前用の人工知能執事出来たぞ」

 すると女子高生が、急に目の色を変えて、ノートパソコンの画面を覗き込んできた。


「えっ、これ……カイトっていうんですか? さっきから気になってた、メイドっていうのも……ナギちゃんとか言ってましたよね? もしかして土浦の……」

「ん? あなたもしかして……」ユカが眉をひそめる……。


「ええ、去年まで土浦の私立湯川学園中等部に在籍していました。いまは高等部2年ですが、『汎用人型人工知能ユニット』の実証試験をしたクラスの生徒で、そこでカイトとナギのクラスメイトとして2年間過ごしました」


「な、なんだってー?」

「な、なんだってー?」

「な、なんだってー?」


 ユカ、俺、佐藤さんが、ハモった……。奇跡のハーモニー。さすがに女子高生相手にコーヒーをぶっかけたりはしない。うん。


          ―― つづく ――

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