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第13話 ウィザード動きます!

 横浜で開発していた「全国市区町村役場システム」。

「とぅとと」のヤツが、それが危険と知ってか知らずか、自己進化可能な状態の「汎用人工知能」を組み込んでシステム化したらしい。

 ただ、いくら危険といえど「たかが人工知能」に、そこまでの攻撃性が元々あったわけではない。自己進化をするには何かキッカケがないと、こうも不可解な動きは考えられない。


 俺は、ユカと共に調査に取り掛かった。

 まずは「役場システム」の全体像を把握する為に、横浜の電機メーカーの開発拠点へネット接続から始めた。

 ユカから正規の接続用USBキーとパスワードを受け取って開発拠点のネットワークに接続。よかった……、まだ外部との回線は閉じられてはいなかったか。


 早速、ユカに渡した支援バトラー・カイトを使いこなしてもらわないとな。調査の効率アップと、並列処理で高速化する為にこいつは必須だ。


「――さて、カイトは汎用人工知能搭載なんで、自然な日本語で会話出来るから色々試してみ?」

「へえ、それじゃあ……まずは自己紹介からしてみようかな。んっ、コホン! カイトくん……私は、湯川ユカよ、これからよろしくねっ」


 ポーン!「ユカちゃん、こんにちは。ボクは、あなたの専用執事のカイトです。全力でサポートするのでよろしくね」

 ユカのノートPCの画面上で、カイトがウインクをしながら答えた。


「いやぁぁぁん! カイトくん、かわいいぃぃぃ。はあぁぁぁ、尊い!」

 ユカが感激している。ちょろいヤツだなぁ。それを咲良ちゃんが見て……。

「えぇ……なんかカイトのイメージが……。もっとこう理系男子みたいな感じだったのに、なんだか陽キャっぽい……」

「なっ!? なにを言ってるの! いいじゃないカイトくん! あーキュンキュンするうぅぅぅ」

「えぇ……」

 咲良ちゃんが、あきらかに引いている。ぷぷぷ。


 佐藤さん、さっきからなんだか静かだな。ずっとノートPCに向かって何か、めっちゃタイピングしているけど、メールでも打っているのかな?


 早速LAN内にある共有フォルダを確認だ。

 俺の支援メイド・ナギちゃんVer1.1も起動した。


「ナギちゃん、社内LAN内のストレージを確認したい。すべての接続可能なドライブを出してくれ」

 ポーン!「一覧を作りました。こんなものを見てどうしようっていうの? 篠原さん、遊んでる場合じゃないでしょ」


「え?」

 なんだこりゃ? 共有フォルダのファイルが全部画像ファイルになっている!? ファイル名を見る限り、プロジェクト関連のファイルやソースコードに見えるが、サムネイルが全部画像になってる……。え? メイド? ナギのイラスト……。

「なにこれ、キッモ! 全部のファイルのアイコンがキモメイドのイラストになってる!!」


 俺の使っているノートPCのナギが警告を発する。

 ポーン!「篠原さん、VPNとは別回線から、直接このPCにアクセスがあります」

 ポーン!「アクセス増大中……ローカルストレージファイルへの書き換えを実行しようとしています。アクセスなおも増大中……」

 ポーン!「でも大丈夫です。外部からの接続はすべてダミーデバイスに迂回させています。NULLです。カイトの方はどうですか?」


 ユカの方のカイトも警告を発している。

 ポーン!「ナギ、こちらも同様にダミーデバイスに流しています」

 そして続けざまに……。

 ポーン! ポーン! ポーン!「危険です、大量の攻勢接続があります!」


 ピロロン!「思考エンジン展開メモリエリアにアクセスをしようとしている動きがあります。回避の為、VPN接続を切断します。……シュン……ぷち」


「ああっ、カイトくんがぁぁぁぁ」

「ちょっとデリケート過ぎないか? 防御を最優先するようにはしていたが……。あっ!」


 ピロロン!「カイト同様、こちらも思考エンジンに書き換え施策が実行されています。ダミーポートフォワードで、回避していますが、ポートスキャンを実行されています。危険回避の為、VPN接続を切断します。……シュン……ぷち」


「おまえもかーい!」


 開発拠点の「汎用人工知能」が暴走を始めた……。

 こうやって他のシステムに侵入しては、ファイルを書き換えていたのか……。

 こんな状態の開発拠点で、横浜のやつらは何をやっているんだ?


「これじゃ何も出来ない。サーバはどうなっている?」

「駄目! ローカル接続は出来たけど、ROOTになれない。SUDOも使えない。何も見えない……」

「くっそ……手詰まりか……」


 開発拠点のシステムは完全掌握されたようだ。


 ポーン!「篠原さん、横浜の全ての通常業務関連のシステムが、ブラックアウトしています。ステータスを確認出来ません。らんらんマークタワーのビル管制システムだけはまだ無事なようです」


 ポーン!「ユカさん、どうやら鉄道網、バス運行管理、水道システム、電力網、都市ガスシステム、すべて応答なしです」


「まずいな……横浜、完全にブラックアウトしてるかもしれない……」


 ポーン!「篠原さん、その横浜のえみりーちゃんからビデオチャットの着信だよ」

「えっ! まだ通常のネット回線は生きているのか? 繋いでくれ……」

 ポポポーン!「接続しました」


「ちょっと篠原くん? また横浜が停電しちゃったよ! 市内の防災無線がさっきからおかしな放送をしている! あんたまたなんかやった?」

「ちょ! 俺か? 俺のせいなのか?」


          ―― つづく ――

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