「いよいよJリーグの新たなシーズンが始まります。秋春制に移行して数年経ちますが、もうJリーグ開催は夏の終わりと秋の始まりの風物詩となりましたね。そこで今日はJリーグ開幕にちなみ、昨年度のJリーグ名場面集をお送りいたします!」
修斗は朝早くのニュースを見ていた。ニュースはどのチャンネルもJリーグ開幕関連のものばかりだった。名場面集やスーパーゴールの映像、そして前年度の覇者であるクラブチームのインタビューなど様々なものが放送されていた。
(そういえば、もうそんな季節かぁ。そして
そのJリーグのインタビューの中には修斗の叔父である久遠秀明(くおんひであき)のものもあった。一部では引退説も報じられていたが、現役を続行することに決めてた。そしてその理由をテレビで語っていた。
「そうですね、正直に言うと今年がラストかも知れないって思っています。ただ、僕は最後まで走り続けたいです。サッカーは走り続けられる限りはできますから。応援のほどよろしくお願いいたします」
「はい! ありがとうございました! 以上、日本サッカー界のレジェンド久遠秀明さんでした!」
日本サッカー界のレジェンド、秀明は社会からそう思われている。ワールドカップ3大会連続出場にして、そのうち2大会はエースストライカーとして呼ばれていた。しかし残念ながら結果を残せていなかった。それでも気合を入れたプレーは日本中に好かれており、一部のサッカーファンを除いては人気の選手となっていた。
「なーにが、「走り続けたい」よ。走る前にゴールを決めろっての! 兄さんがもっとゴール奪えていたらワールドカップもベスト16進出できたかも知れないのに!」
「茜、秀明のことを悪く言わないの。秀明だって頑張っているわよ。この前のワールドカップだって得点はしていたでしょ?」
「それは・・・まぁ・・・」
実際、秀明は日本では優秀な方のストライカーであった。ワールドカップという大舞台でもゴールをできているし、最近は鳴りを潜めているが、Jリーグでもコンスタントに得点を量産していた。しかし、世界にはあと一歩通じなかった。
「それに秀明が引退したら次の日本のストライカーは誰がやるのよ。今のところいないでしょ?」
「・・・そうだね、姉さんの言うとおりだよ。このままだと次のワールドカップやばいかも・・・」
茜の言う通り、現状日本は代表の世代交代に直面していた。しかし、その世代交代には不安の声もあった。特にストライカーに対しての。
「あーあ。日本にも欧州並にすごい選手がいればいいのになぁ」
「よそはよそ、うちはうちよ。日本も頑張っているじゃない。それにいつかは出てくるわよ。そんな選手が」
「うーん、やっぱり修斗にサッカーやらせようかな?」
「えっ! 俺!」
修斗は自分に話題が振られると思っておらず、驚いた。すると茜は隣に座っている修斗へと椅子を寄せた。
「ねぇ、修斗。私さ、給料上がったんだよね。だからさ、サッカーやってみない?」
「えぇ、今からぁ? ちょっと遅いんじゃないの? サッカーやっているやつは結構前から習っていたけど?」
「そうよねぇ、流石に小学校高学年からだと遅いかもねぇ。それにもう関東大会も終わって、今は全国
実際、同じクラスの田中は幼稚園の時からサッカーをやっていると自慢していたのを修斗は聞いていた。そしてそのくらいの年齢にサッカーを始めなければ厳しいということも修斗は理解していた。
「二人共、そろそろ出ないと遅刻するわよ!」
「あ! やばい! 行ってきます!」
茜は腕時計を見て、慌ててマンションを飛び出した。修斗も準備をして学校に向かった。
■■
「ねぇ知っている? この学年に転校生が二人も来るんだって。しかも男子だって二人共」
(へぇ、夏休み明けに転校生って珍しいな)
「みんな、席について! 今日からうちのクラスのお友達になった転校生を紹介します!」
玉緒がそんなことを考えていると、担任の先生である
「待って、めっちゃイケメン」
「かっこいい・・・」
「やばい、タイプだ」
クラスの女子達から様々な声を玉緒は聞いた。クラスの女子の言う通り、その男子は男から見てもイケメンだった。それに笑顔も良かった。性格が良いことがひと目で分かるほどだった。
「じゃあ
「はい!」
月岡と呼ばれた男子は黒板のチョークを使い、自分の名前を書いていった。その一挙手一投足に女子からはかっこいいという声が漏れていた。
「名前は
(スペインってサッカーの本場じゃん! すげぇな・・・)
玉緒がそう思ったようにクラス全員が驚きの声をあげた。海外でサッカーを経験したことのある人は大人でもいない。全員が興味津々で話を聞きに来ていた。
「スペインでサッカーやるってどんな感じなの?」
「やっぱり日本人じゃ、敵わないの?」
「翔真君! 好きな女の子ってどんな感じ?」
月岡は真摯にそれらの質問について答えていった。スペインの街クラブではスタメンを勝ち取っていたこと、日本人でも海外に通用することなどをクラスに述べていった。
「ねぇ翔真君! 翔真君はどこかのサッカークラブに入るの?」
「あぁ、それは悩んでいるよ。今からチームに馴染めるかもわからないからね。来年のジュニアユースセレクションを受けようかなって今は考えていて、今日転校してきたもう一人の幼馴染にもそう伝えているからね」
(へぇ、転校生同士って知り合いなんだなぁ)
玉緒がそんなことを考えているとチャイムが鳴り、一時間目がスタートした。そしてそのまま時が経ち、四時間目の体育を迎えた。