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3.月岡からのお願い

(すげぇ・・・俺でもあのスピードでボールはコントロール出来ない・・・玉緒修斗か・・・)


月岡は自分の足元にきれいに収まったボールを見て感心していた。そしてそのままドリブルを行った。それを見た女子達がキャキャ—と言っていたが、もうすでに月岡には聞こえていなかった。月岡は玉緒とサッカーがやりたくて仕方がなく、笑顔になっていた。


「おーし、休憩を挟んだら次はクラス対抗のサッカーゲームな。クラスから11人選出しておいてくれ!」


サッカーが日本に根づいて以来、学校には常にタッチラインと呼ばれる側面と、ゴールラインというゴールのある場所に引かれる線があるグラウンドが用意されていた。しかもゴールキーパーがボールを持ってよいペナルティエリアやゴールキックという行為が許されているゴールエリアもきちんと引かれていた。


(11人か。男子は確か30人中17人だったな。てことは6人余るはずだ。俺は面倒くさいから参加はやめておこう)


玉緒は試合に出るのが面倒くさかったため、クラスで誰が出るか話し合いをしている中で息を潜めた。そのまま適当に話し合いが終わると思われていたが、そうはならなかった。


「うちのクラスはサッカーを習っている男子が確か9人。残りの3人はどうする? やりたいやつ、手を上げろ!」


クラスの代表である陽キャ、田中が中心となり話が進んでいた。さすが世界的スポーツなだけあってクラスにはサッカー教室でサッカーを習っている人が多かった。それでも足りないため、田中が立候補を募るとそれに呼応して月岡が推薦をした。


「俺は玉緒君がいいと思う」


「え? 玉緒? そんなやついたっけ?」


(おい、クラスメイトの名前くらい覚えろよ)


玉緒は田中にちょっとイラッとしたが、田中が惚れている早乙女と隠れて付き合っているというマウントを心のなかで取って、堪えることが出来た。しかし玉緒はどうするべきか困った。正直面倒くさいから断ってもいいが、断ると月岡の誘いを断った空気の読めないやつとして玉緒はこの先、卒業をするまで耐えなければいけないことを懸念していた。


「わ、わかったよ・・・」


玉緒は仕方なく了承した。その後は適当に出る人が決まり、11人が選抜された。そして玉緒は一旦トイレに行こうとしたところで月岡に捕まった。


「玉緒君! ちょっといいかい!」


「えぇ・・・」


「君とやってみたいことがあるんだ! とりあえず、今日はこれだけ覚えてくれたいいから!」


月岡は玉緒にマークしている相手から離れつつ、パスを受けてシュートを打つという、いわゆる裏で受けるという方法を教えた。マークされている相手から離れるように動き、ボールとは反対方向にバックステップで動く。そして月岡からのパスが放たれるタイミングで空いているスペースに走り込むことを実践して欲しいと伝えた。


「じゃあお互いに頑張ろう!」


「お、おう・・・」


玉緒は月岡からのお願いを聞いた後、そのまま休憩時間に一階のトイレへと向かった。月岡と話していたため、玉緒は用を済ますのが最後になってしまった。


(なんで月岡君は俺に構うんだ? サッカーやっているやつなら他にも居るだろうに・・・)


「なんで月岡君は修斗に構うんだろうね?」


「本当だよなぁ・・・えっ! ちょっと!」


 緒が用を済まそうとしていると、なぜか玉緒の横には早乙女がいた。そのため、あたふたとしてしまった。玉緒はなぜ男子トイレに早乙女がいるのか、そしてなぜ平然と横にいるのかと疑問に思った。


「ね、ねぇなんでいるの!」


「ん? 修斗が最後に入って行くのが見えたし、意外と男子トイレって外から見えるのよね。だからちゃんと修斗が一人なのを確認したわ」


「そういう問題じゃ無い気がするんだけど・・・」


「修斗以外に見られていないから大丈夫よ。それより終わったんならしまいなさい。早く行かないと授業始まるわよ」


そう言うと早乙女は男子トイレから出ていった。そして玉緒はなんとも言えない気持ちのままグラウンドへと向かった。


■■


(あぁ面倒だな・・・とりあえずなんかやっている風を装うか・・・)


玉緒がトイレから戻ると、すぐに体育の授業が再開された。そして試合が始まると玉緒はボールがあまり来ないだろう後ろの方にスタンバイしようとしていた。しかし、その行動は月岡によって止められた。


「玉緒君はこっち! 最初に俺へボールを蹴り出す役だからね!」


「えぇ・・・」


玉緒は月岡に言われて仕方なくグラウンドのセンターサークルへと向かった。選抜された11人の中には、なんでこいつがここなんだよという目線を玉緒に向けている者もいた。


(とりあえず、ボール蹴ったらこの辺うろちょろしてよ・・・)


月岡はクラスの選抜11人に対して、いわゆるポジションを指示していた。玉緒はそれに関してさっぱりわからないが、いわゆる最前線という場所に配置されていた。


「よし! 全員揃ったな! それじゃ試合開始だ!」


先生からは事前にルールの説明がされていた。オフサイドとかセットプレーとかいう難しいルールはなしで、交代も自由。危険な行為をした場合は即交代という優しいルールで試合は始まった。


(あぁやっぱり囲まれているな、月岡君)


玉緒がボールを蹴り出し、試合が始まった。玉緒の蹴ったボールは月岡に渡り、月岡もドリブルで相手の陣地に向かっていた。しかし、すぐに相手チームの恐らくサッカー経験者に囲まれていた。月岡は囲まれる前に後ろへとパスを出した。そのパスはきれいなパスだとその場にいた誰もが思っていた。


(俺ってなにすればいいんだろう。ていうか、俺のポジションって何?)


そんなこんなで試合は続いていた。玉緒はとりあえず相手にボールが渡ったら突っ込んでいくというのを繰り返していた。だが初戦は初心者、ボール奪取は一度も出来なかった。


(まぁ別にボール取れなくても大丈夫だろ。なんとなくこっちの方が有利な感じするし)


状況として玉緒は自分のクラスが優勢のように感じていた。玉緒のクラスには経験者が9人もいる。対してあちらは見た感じ4、5人くらいであり、後は同じ素人だと玉緒は思った。現にあまり玉緒のクラス側に攻められる様子もなかった。


(時間はそろそろか。こりゃ引き分けか? サッカーって意外と戦力差あっても勝てないスポーツなんだな)


玉緒はサッカーについて詳しくないが、1点が重いスポーツだということは知っていた。そのため、なかなか点数が入らないということも分かっていたが、こうも入らないとは思わなかった。


(さて、俺はこのままやっている感じを出して・・・うん?)


玉緒が後は適当に流そうとしているところで、月岡が玉緒をじっと見ていた。それは月岡からの合図だった。玉緒は月岡の方を見ると、月岡は玉緒に対して口パクでやるぞと口を動かした。

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