(だから茜さんは気合が入っていて、周りの子供もこいつなら勝てるって目を向けていたのか)
玉緒は自分にやたらと舐められた視線を送られている理由が分かった。そして玉緒はとても無く面倒くさいと思いながら、仕方なく準備運動を始めた。
「全員、準備運動を止めてコーチの言う通りに並べ」
玉緒が準備運動をしていると、全員の前に数人を大人が現れて指示をだした。玉緒達はその指示に従い、列へと並んだ。
「これより赤城SCの入団セレクションを始めるぞ。俺は赤城SCの監督である
三十代後半くらいの明らかにサッカー経験者の感じがする人が俺達に向けて話し始めた。内容としてはまず初めに全員合同練習に参加をする。そこではドリブルやパス、シュートなどの基本的な動作を行う。その後、入団を希望する者はセレクションを受けるという流れらしい。
(ということは強制ではない? じゃあ帰ろうかな?)
「修斗! 絶対に受かろうな!」
「お、おう・・・」
(無理だな・・・)
月岡は目を輝かせながら説明を聞いていた。それに月岡だけでなく、他の子供の目も輝いていた。それはそうである。プロになりたいなら最初から強豪に入ってプレーするのは必須だというのはサッカーをあまりしらない玉緒でも知っていた。そんなこんなで説明が終わり、玉緒達は赤城SCのコーチと思われる大人に指示に従い、3つの集団に分かれてドリブル、シュート、パスの練習を順番に行うことになった。
(俺は最初パスからか。まぁ体育でやったから大丈夫だろ)
「じゃあペアを見つけてお互いにまずは正面からパスを出し合って見てくれ!」
コーチがペアを作れと言われると続々子供達が近くの子供とペアを組み始めた。玉緒は月岡が別の集団になってしまったため、勇気を出して近くの子供へと声をかけた。しかし現実はそう甘くはなかった。
「君明らかに初心者でしょ? 別の人と組んでよ」
「初心者とペアを組みたくないから嫌だ!」
「俺、別の人と組むから」
(・・・えぇ)
玉緒はボッチだが、体育の授業やその他の授業でペアを組めと言われてもなんとかなっていた。しかし今は違う。みんな人生を賭けてこの場にいる。初心者をかまっている余裕はなかった。
「ねぇ君! ペアいないなら俺と組もうぜ!」
後ろから元気な声が聞こえたため、振り向くと明らかに運動が好きという印象を受ける少し身長が高めの男子がいた。しかもその子供もジャージを着ていたため、玉緒は自分と同じ初心者でハブられた者だと思った。
「うん、いいよ。組もう」
「俺は
「俺は玉緒修斗。よろしく」
そのまま玉緒と守谷はそのままペアを組み、サッカーボールをコーチから渡されて向かい合いながらパス練習を初めた。そして結論からいうと守谷は本当に初心者だった。
「おりゃ!」
「おっと!」
守谷はまっすぐ玉緒にパスを出すどころか、ボールを蹴る際にインサイドではなく、つま先でボールを蹴り出していた。もちろんそれでもボールは蹴ることができるが、あまり正確にパスはできる感じではなかった。玉緒は左右に散らばる守谷のパスを反復横跳びのように激しく動きながら足元でトラップして、守谷の足元に返してあげていた。
「・・・」
「? どうしたの、守谷君?」
守谷は玉緒からのパスを受け取った後、黙って自分の足元のボールを見ていた。玉緒はなかなかパスが来なかったため、守谷の元に近づいて声をかけた。
「なぁ修斗。どうやったらお前みたいにまっすぐにパスを出せるんだ? しかも俺の足元へ正確に」
「うーん、俺も経験者じゃないから分からないけど、足の内側のインサイドっていう場所を使って押し出している感じかな。あとはなんとなくこんな感じの力で蹴れば足元に行くんじゃないかって思って蹴っているよ」
「へぇ修斗って経験者じゃないのか。てっきりサッカーやっていると思ったぞ! 上手いな!」
「いや、そうなのかな・・・」
玉緒は守谷にアドバイスをした後、定位置に戻って守谷からのパスを受けた。先程よりは良くなったが、まだまだ安定はしていないという感じのパスだった。
「よーし、次はさっきよりも少し距離を取ってくれ。ロングパスとトラップの練習をするぞ。ボールはインフロントで蹴るようにな」
(インフロントってなに? 確か月岡君が体育の時にアウトフロントドリブルを教えてくれたからその逆ってことでいいのかな?)
玉緒は月岡に教えて貰ったことを思い出しながら、その逆を使えばいいのかと考えていた。しかし合っているのか不安であるが、ここで「インフロントって分かりません!」って言える勇気は玉緒になかった。玉緒は自分の考えを合っていると信じてコーチの指示に従おうとした。
「はい! インフロントって何ですか!」
「ん? そうか君は初心者かな? インフロントキックっていうのは足の内側のつま先寄りの部分に当てる蹴り方のことだよ」
(守谷君すげー!)
玉緒は守谷に感激した。明らかに質問がない雰囲気で進もうとした場に一石を投じた。コーチは別になんとも思っていない感じで説明をしてくれたが、周りは明らかに守谷を笑っている感じがして玉緒はちょっと不快だった。
(笑っている奴ら。お前らだって最初は分からなかっただろうが。誰もいない中質問した守谷君を俺はすごいと思っているぞ!)
玉緒がそう思っているとコーチからロングパスとインフロントキックの説明が終わった。そしてそのまま玉緒達はロングパスの練習を行った。
「行くぞ、修斗! おりゃ!」
(・・・こりゃ足で受けるのは無理だな)
守谷のロングパスはかなり伸びた。玉緒は後ろに下がっていったが、足でトラップをするのは無理だと判断して、体育の時や遊びでサッカーをやっていたクラスメイトがやっているのを見た胸トラップをしてボールを足元に落とした。そしてそのまま玉緒は見様見真似のインフロントキックでロングパスを放った。ボールは見事に守谷君の足元目掛けて飛んでいった。しかし守谷はトラップに失敗して後ろにそらしてしまった。