「よーし、シュート練習はこれで終わりだ! この後休憩を挟んで入団テストを受けるものは残れよ。ボールは貸し出すから好きに練習をしていけ」
玉緒達はシュート練習のアップを終えた。月岡の言う通り、シュート練習はただゴールに向かって蹴るだけの簡単なものであった。玉緒はしっかりとコントロールをしながらも強いシュートが打てたため、満足していた。ちなみに守谷は全然シュートを決められなかった。全て用意されていた子供用のゴールの上へ飛ばしていた。
「守谷君はこの後の入団セレクション受けるんだよね? 大丈夫なの?」
「おう! 任せておけ! あっそうだ! 俺の事は健太郎でいいぞ。俺も修斗ってもう呼んでいるしな! おまえも受けるんだろ?」
「まぁな。受かるかは分からないけど、ベストは尽くすよ。健太郎」
練習が終わった後、玉緒と守谷は練習場の隅っこで休憩をしていた。守谷は入団セレクションを受けるというが、正直玉緒は難しいと思った。そして玉緒は守谷が完全にいいやつだと思ったので、名前で呼ぶことにした。
「おーい!」
(また月岡君だ。あと隣の人って誰だろう。イケメンだな)
イケメンがイケメンを連れてきた。爽やかではないが、目つきが鋭い感じがするクールなイケメンという印象を玉緒は抱いた。
「翔真、こいつがおまえの言っていたやつか?」
「そうだよ、
篤と呼ばれた男子は玉緒を値踏みするような視線を向けた後、玉緒に近づいて握手を求める手を差し伸ばしてきた。
「俺は翔真の幼馴染の
「えーと、玉緒修斗です。よろしく・・・」
玉緒は星島の握手に答えた。星島の手は子どもとは思えないほどゴツゴツしており、足の裏みたいな感じという印象を玉緒は受けた。どれほど手でボールを触ったのか、玉緒でも分かった。
「素人だって聞いたが、本当か? ちらっとシュート練習を見ていたが、なかなかいいシュートだったぞ。希望ポジションはフォワードか?」
「えーと・・・」
「篤。修斗はまだルールを完全に理解していないし、多分ボジションもあんまり理解していないよ。だから篤を連れてきたんだよ。修斗に簡単でいいからルールとポジションについて教えてあげてくれないか?」
「はぁ・・・まぁそんなことだろうと思ったよ。いいぜ、暇だしな。それに教えたら練習付き合ってくれるんだろ?」
「あぁ! もちろんだ!」
「えぇとよろしくお願いします・・・」
星島は月岡から玉緒にルール等を教えて欲しいと頼んでいた。その見返りとして練習を一緒にするという約束をしていた。玉緒は星島にお礼を言ってルールの説明を聞いた。ついでに守谷も一緒に聞いていた。守谷も実は分からないとのことだった。玉緒達は座って星島の話を聞いた。
「いいか、まずサッカーの競技時間だが、正式には45分を前後半するから90分間になる。ただ、俺達子供は20分ハーフの40分が試合時間だ。そして基本的にはファウルと言って違反行為が無い限り、試合の流れは止まらない。ファウルに関してはいろいろとあるから後で話す。あとは・・・」
星島は玉緒と守谷に向けてルールの解説をしてくれた。タッチラインやゴールラインを割るボールアウトオブプレーというものになった場合は、タッチラインだと相手チームのスローイン、相手チームの選手が最後にボールに触れて、相手陣内のゴールラインを過ぎた場合はコーナーキックというセットプレーになることを教えた。そして自分たちの陣内で相手がボールを外に出した場合はゴールキックでプレーを再開するのだということを伝えた。
「次にファウルについてだが、ファウルを審判に取られると相手チームのフリーキックっていうセットプレーからスタートをする。そしてフリーキックにも二種類あってだな、間接フリーキックは一度選手にボールが渡らないと、ボールがゴールに入っても得点には認められない。逆に直接フリーキックはそのまま得点につながるんだ。まぁ基本的には直接フリーキックが一番世間でフリーキックって言われるものだな」
「「へぇ・・・」」
「んじゃ、次にオフサイドについて教えるぞ。オフサイドは簡単に言うと待ち伏せ行為の禁止だな」
星島は玉緒達にオフサイドとは攻められているチーム、いわゆるディフェンスになったチームのゴールから数えて二番目の選手より前に攻め手の選手がいては行けないというものだと教えた。攻め手のボールを持っている選手が、オフサイドラインと呼ばれる二番目の選手より前にいる自軍の選手にボールが渡ると、間接フリーキックで再開されると伝えた。ちなみにオフサイド判定はボールを蹴った瞬間に行われるものなので、オフサイドラインに戻って受けた場合もファウルとなることも教えた。
「まぁこれだけ覚えていれば大丈夫だろ。特にフォワードならオフサイドには気をつけろよ。じゃあ次はポジションについて解説するぞ」
基本的にポジションは
「じゃあ、次はミッドフィルダーとフォワードについてだな」
星島曰く、MFは複数の仕事があり、攻撃的なMFと守備的なMFに分けることができるのだと伝えた。攻撃的MFはFWへのパスやドリブルを仕掛けたり、シュートを打ったりする選手のことを指し、守備的MFは自陣に攻め込まれた時にDFと共に守備したり、パスを出したりする選手のことだと教えた。そしてFWは攻撃を中心にする得点を求められるポジションだという。
「ポジションに関してはもっと細かく分けることもできるが、全てを説明すると時間がかかるからな。自分で調べておいてくれ。とりあえず説明はこんなもんだろ」
「ありがとう篤。やっぱり説明は篤がしたほうが分かり易いや!」
「ともかく、この後のために練習するぞ、翔真。じゃあな」
星島は玉緒達に説明した後、そのまま練習をしに向かった。玉緒と守谷はその場に残り、黙って星島からの説明を反復していた。
「なぁ修斗。俺はDFになるぜ!」
「へぇ、なんで?」
「俺はさ、ヨーロッパでの試合見た時、DFっていうポジションの人の闘志むき出しのプレーに憧れたんだよ。攻められている時も必死で自陣には近づけないようにしている姿がなんかかっこよくてな。修斗は?」
「俺は・・・なるとしたらFWかな。点取るほうがなんか楽しそうだし」
「そうか、なら俺達二人が揃えば完全無欠のサッカーチーム作れるんじゃないのか!」
「・・・いや無理だろ」
玉緒達はそのまま談笑をして入団セレクションに備えた。その途中で茜が来て、もう一度おもいっきり背中を叩かれて気合を入れられた。玉緒はかなり痛いと感じたが、なんかやる気になった。