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11.セレクションスタート

「これより小学5年生全48名の入団セレクションを開始する。先に合格する人数を伝えておく。合格する人数は最大で5人だけだ」


酒井監督はセレクションを希望する子供達に対して、合格率最大10%という狭き門だということを伝えた。玉緒を含めた子供達に緊張感が走った。


「それともう一つ。今回のセレクションでは合格者ゼロの可能性もある。その理由は分かっていると思うが、君達は少なからずここまでのセレクションに受かってこなかったからだ」


酒井監督はそのまま淡々と子供達に向けて話していった。酒井の言ったようにここにいる子供達は一部を除き、どのクラブチームのセレクションにも引っかからなかった者たちである。中には一度赤城SCが前に開催したセレクションに落ちた人もいた。


「正真正銘、クラブチームに入るにはここが最期だ。心して挑め。じゃあ、まずはフィジカルテストを行う。最初は50m走だ。各自リブスを受け取り次第、各レーンにスタンバイしろ」


「「「「はい!」」」」


玉緒達はそれぞれコーチからゼッケンを貰った。リブスの背中には受付番号が書かれており、赤、青、黄色、緑、オレンジ、白と6個に色分けされていた。そしてそれぞれ色ごとに指定された50m走のレーンに並んだ。


「リブスにはICチップが縫い込まれている。なので、この50mラインを超えれば自動的にタイムが我々のタブレットに受験者のタイム送信されるようになっているから安心して走りたまえ。なお、50mは三本走るからな。三本の平均タイムが記録となるぞ」


コーチからの指示に従い、受験者達はレーンに並んだ。そしてコーチ達が合図をすると最初の6人が走り出した。それを皮切りにどんどんとスタートが切られた。


(うーん、最速でも9秒台前半か。まだ8秒台は出ていないな)


コーチ達はタブレットを見ながら今年の子供達のフィジカルを見ていた。近年、ゲームなどがかなりの発展を遂げ、外で遊ぶ子供が少なくなってしまい、運動機能が落ちてきている子供が多いとされていた。そのため、サッカー界でも足の早い子供がなくなりつつあるのが危惧されていた。


(・・・やはり月岡君と星島君は頭一つ抜きに出ているな。二人共8秒台前半を叩き出したか)


月間少年サッカーという雑誌で特集されていた月岡と星島はセレクション受験生の中でも別格であると数値が物語っていた。コーチ達も内心ではこの二人は確実に選ばれると思っていた。


(! 7秒75! 誰だ・・・玉緒ってあのサッカーが上手かった子か!)


コーチ達が8秒台で驚いていたところで玉緒が7秒台を記録した。そしてその記録は今回の50m走では抜かれることはなく、玉緒はその後の二回も7秒台を記録した。


「よし! では次、コーンドリブルだ。コーンの間を素早くジグザグに走れ!」


その後に行われたフィジカルテストでも玉緒は月岡、星島を抑えて単独一位となり、コーチ陣を驚かせていた。


■■


「酒井監督、これが今回のフィジカルテストの結果です」


「・・・玉緒が一位か。意外だな、スペインから来た月岡や星島辺りが一位だとばっかり思っていたな」


酒井監督はデータを見て少し驚いていた。足が速い子供ならクラブチームには正直いる。しかし、玉緒はボールを使ったドリブル走でもスピード一位、ミス0という数値を出していた。しかも驚きなのが、シンプルにドリブルしながらの50m走が全速力のタイムとさほど変わらないことであった。これはもうすでに足元の技術が小学生の能力を越えていたということを現していた。


(あの子は確か、サッカー指導は受けていないんだったな。だとしたらこれは天性のものだな。磨けば光るどころか、ダイヤモンドがその辺に転がっていたとは驚きだな)


「チーム編成どうします? 玉緒君と月岡君は同じ色のリブスです。今から交換しますか?」


「・・・いや、このままでいい。どれだけサッカー選手としての才能があろうとも、それがチームにとってプラスになるかはわからん。それに玉緒という選手を月岡がどのように導くかも興味ある」


「監督、その発言はダメですよ。子供は平等に見ないと」


「そうか、そうだな」


酒井監督とコーチ陣が話している頃、白リブスを着ている玉緒と月岡と守谷は三人で集まり、次の試験について話していた。


「次の試験は恐らく8人で試合を行うんだと思う。だから二人にはもう一度ポジションについて教えておくよ」


月岡は玉緒と守谷にそれぞれポジションについて教えていた。月岡は二人に希望するポジション聞き、それに付随したポジションを教えた。守谷は小学生の中では大柄なため、CB(センターバック)というポジションについて説明をし、ついてもらうことにした。そして自陣からの攻撃の際は起点になるということを伝えた。玉緒に関してはCF(センターフォワード)というポジションを説明した。基本的には得点を狙うポジションだが、ボールを保持する役割もあるということを伝えた。


「俺はメンバーの状況にもよるけど、トップ下っていう修斗にパス出したり、状況によっては得点したりするポジションをやるよ。とりあえずポジションが被っていなくてよかった。じゃあ二人共頑張ろう!」


ちょうど月岡が話し終えると同じくらいに酒井監督から招集がかかった。玉緒達はすぐに集合して、酒井監督の説明を聞いた。


「これより8人制でのゲームを行う。チームはリブスの色だ。それぞれ一試合だけ行う。時間は20分ハーフ。公式戦と同じルールで行う。では各チーム準備をするように」


玉緒達は大きく返事をした。その後、リブス同士集まってポジションの確認を行った。チームの組み合わせとしては赤対青、オレンジ対黄色、緑対白という組み合わせとなった。そして最初は玉緒達、緑対白の試合となった。


(緑は篤のいるチームか。なかなか得点は見込めないかな)


 月岡、玉緒、守谷のいる白チームは緑チームと対戦することになった。そして緑チームは星島がいた。月岡はそのため、1点を取れるかどうかのゲームになると思っていた。


「白チーム全員集合してくれ!」


月岡は白チーム全員に号令をかけた。白チームのキャプテンはこの瞬間に月岡に決まったが、誰も文句を言わなかった。実績的にもチームの誰もが認めていた。


「とりあえず、みんなの希望するポジションを教えて欲しい。ポジション被りとかは気にしなくていいから」


白チームはそれぞれ自分の希望するポジションを述べた。残念ながらGKを希望する人はいなかったが。そして各自のポジションを聞いた月岡はそれぞれにポジションの指示を出した。


「とりあえず、フォーメーションとしてはDFから順に3—3—1の人数で行こうと思う。基本的にはショートパスを繋いで、FWの修斗に決めてもらう作戦でいこう」


とりあえずの作戦が決まって白チームは指示されたコートに向かった。それぞれの主神はコーチ陣が担当し、副審などはクラブチームの子供が担当していた。


「それではキックオフだ!」


酒井監督の掛け声とともにサッカーのゲームがキックオフされた。

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