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17.決断

「お前ら、なんで断ったんだよ。プロになるなら最低限街クラブに所属していたほうが有利だろ? それに赤城SCはこの辺りじゃ強いクラブだ。行って損は無いと思うが?」


「そうだよ! なんで断ったの? 俺が欲しいくらいなのに!」


「うーん、なんというか・・・」


「翔真、それは俺から説明するよ」


玉緒は星島と守谷に全ての事情を伝えた。玉緒は家庭事情のためにクラブチームには入団できないこと。そして月岡は自分とサッカーがしたいためにクラブチームを辞退したことを伝え、中学で一緒にサッカーをすることを決めたと伝えた。それを聞いた二人は難しい表情をした。


「そ、そうなんだ・・・ごめん、俺そんな事情を知らないで・・・本当に・・・」


「いや、気にしないでいいよ。健太郎。俺は全然悲観していないし」


玉緒の告白に守谷は謝った。玉緒の事象を知らないで少し責めたことを言ったしまった自分を許せなかったからであった。


「なるほどな。修斗の事情は理解できた。ただ翔真。お前は本当か? 修斗とサッカーしたいからって理由だけで入団を辞退したのか?」


「あぁそうだよ、篤。俺は修斗とサッカーをする。これは俺が決めた道だ」


月岡はまっすぐ星島を見た。その目は決して妥協などではなく、全てを覚悟して自分の道を決めた目だった。


「はぁ・・・なるほどな。そういえば、お前って意外と頑固なところがあるもんな」


星島はため息をつきながら何かを考えた。そしてベンチから立ち上がり、月岡と玉緒の二人を見た。

「決めたぜ。俺も赤城SCの入団断るわ。じゃ、中学でよろしくな」


「「「は?」」」


三人は声を揃えて驚いた。まさか星島まで赤城SCの入団を辞退するとは思わなかったからだ。そして星島はその事を伝えると、そのままその場を去ろうとしていた。


「いやいや、星島君! なんでだよ! 俺がいうのも違うけど、絶対に赤城SCの方が良いだろ! プロになるんじゃないのか!」


「修斗、まぁそうだな。プロを目指すんならそっちのほうが賢い選択だな」


「じゃあなんで・・・」


「そっちの方が面白そうだから」


「はい?」


星島はふざけた表情でも諦めた表情でも無く、真剣な表情で玉緒の質問に答えた。あまりにも普通に答えたため、玉緒達も困惑した。


「俺はな、ぶっちゃけ言うと赤城SCに行くかどうかマジで迷っていた」


「なんで?」


「俺は強いチームに入りたいんじゃないって気づいたんだ。俺は強いチームと闘いたいんだっていう気持ちが強かったんだ」


星島はスペイン時代とこの前の入団セレクションで戦ったことを整理して、その気持に気付いた。スペインでは強敵であった選手達からゴールを守るのがとても楽しかった。自分が負けたらそれで終わり、逆に防げば相手の心を折ることだってできる。そんなGKに魅力を感じていた。しかしセレクションでは玉緒に2点を入れられてしまった。このままではダメだと思い、自らを成長させるためには日本の強い選手と戦う必要があると判断した。


「でもさ、篤。この一年どうするんだよ。俺がいうのも何だけど、やっぱり一年のブランクって大きいと思う。何か手を打たないといけないと俺は思っている」


月岡は中学で本格的にサッカーを始めようとはしていたが、どうしても一年のブランクが気になってしまった。一年もピッチに立てないと感覚がずれてくる。そこはなんとかしないといけないと感じていた。


「あっ! なら、これならどうだ?」


そんな会話を聞いていた守谷が何かを思い出したように自分の鞄からチラシを取り出した。そこには【大川サッカー少年団、団員募集中!】と書かれていた。


「俺がスパイクとか買ったスポーツ用品店に置いてあったチラシだよ。なんでも団員が11人割っていて今年度は関東大会に出場出来なかったらしいし、全国U—12サッカー大会も今年は出場しないみたいだけどね」


「へぇ、少年団・・・」


守谷が出したチラシに玉緒は反応した。正確にはそこに書かれている金額。月謝2千円であり、ユニフォームや練習着は支給されるという旨が書かれていた。


「ここなら修斗もいいんじゃないか? 月謝も安いし、なによりスポーツ用品店が運営しているから支給品も多いみたいだし」


「・・・」


玉緒は考えた。そして決意をした。玉緒はそのチラシを守谷から受け取り、月岡に見せた。


「翔真、ここに行こう! ここなら多分俺もサッカーができる。ここで来年全国を目指さないか?」


「修斗・・・うん! そうしよう! 大川サッカー少年団に入ろう!」


玉緒と月岡はベンチから立ち上がり、固い握手をした。すると星島も近づいてきてそのチラシを確認した。


「なら、俺もここに行くかな。翔真と修斗がいれば例えクラブチームでも勝てると思うからな」


「じゃあ、俺もここに行くわ! 四人で頑張ろうぜ!」


とある公園で四人は大川サッカー少年団に行くことを決めた。そのまま四人は時間までサッカーの練習をしていた。


■■


「ただいまー」


「修斗、今いい?」


「母さん、俺も話したいことがあるんだ」


茜は仕事のため、修斗は手を洗った後にリビングで千早と二人で話をすることになった。そして千早はリビングの机にいろいろなチラシを広げた。


「修斗、クラブチームには行かせてあげられないけど、サッカー少年団なら大丈夫よ。サッカー、やってみない?」


「・・・母さん、そのことだけど」


修斗は千早に大川サッカー少年団に行きたいことを伝えた。そこには自分の将来が絶たれるかも知れないのに、自分のためにその選択をした友人がいることも伝えた。そしてそれを聞いた千早の目には涙があった。


「か、母さん! 大丈夫!」


「ううん、なんでもないわ。でも良かった。修斗がサッカーをしてくれるって言ってくれて。それにお友達もできたみたいでお母さんは本当に嬉しいわ」


千早は自分のせいで息子に我慢をさせているのではないかと思っていた。修斗はそんな事思っていなかったが、そんな心配をさせていた自分を少しだけ反省した。そして修斗は千早の背をさすりながら感謝の言葉をかけていた。


「母さん、俺やるよ。母さんのために、茜さんのために、そして俺を選んだ友達のために。俺は絶対にベストを尽くすよ」


「修斗、頑張りなさい! どんなことがあってもめげちゃダメよ。周りと比較しちゃダメ、自分の意思を持って取り組めば必ず自分に返ってくるわ」


「うん! 俺頑張るよ!」


修斗は決意を旨にサッカー少年団でサッカーを始めることを決めた。目標は全国優勝、とまでは行かないが、せめて試合に出られるように頑張ろうと思っていた。

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