「どうだった? 初めての活動は?」
「まぁぼちぼちだよ。あっでも、大川監督が母さんのファンらしいよ」
「そうなのね。じゃあ電話で絶対に贔屓はしないでくださいって伝えないと」
修斗は帰った後、千早に今日の活動のことを報告した。千早はそれを嬉しそうに聞いていた。それほど修斗がサッカーを始めたのが、実は嬉しかった。
「まぁその心配はないんじゃない? 監督は実力主義だって言っていたし。そもそも人数少ないから贔屓されるようなことも無いと思うけどね」
「そう、それならいいんだけど・・・」
「ま! 俺は実力でスタメン目指すから関係ないけどね!」
「ふふっ。頼もしいわね」
修斗は月岡みたいにまだ大会優勝を目標にはしていないが、せめてスタメンで試合を開始できるようにはなりたいと思っていた。そして修斗と千早が話していると、茜が帰ってきた。
「ただいま! 修斗! バッチリレギュラー取ってきたんでしょうね!」
「・・・いや、今日からだから。まだそんなことにはならないよ」
それから3人は夕食を食べ、千早は修斗が夜ふかしをしないように早めに寝るように誘導した。
「とうとう修斗のサッカー人生が始まるのね・・・」
「姉さん。修斗なら絶対に上に行けるよ。それこそ姉さんが果たせなかったワールドカップ優勝に導いてくれるかも!」
修斗を寝かせた千早はリビングで座りながら茜と話していた。二人共修斗のサッカー人生が始まることを喜び、今後の成長を楽しみにしていた。
「茜、それは気が早いわ。まずはみんなとサッカーをやることの楽しみを見出してからよ。子供のうちから勝ち負けを気にするのはよくないわ」
「えぇー、でも・・・」
「それに勝つことだけじゃなく、負けることも大事よ。負けから見えてくるものもあるから」
「ふふっ!」
「どうしたの? 茜?」
「姉さん、本当に嬉しそう! 実は私よりも修斗がサッカーを始めることが嬉しいんでしょ!」
「・・・そうかもね」
二人はそのまま談笑し、就寝した。そして修斗は一夜明けて学校へと向かった。今日もこの後、昨日の練習場所で大川SSの活動があった。
「で、どうだったの? 大川サッカー少年団は?」
「そうだね、楽しそうな場所だと思ったよ」
学校はすでに昼休みになっており、クラスのみんなはいつもように月岡のサッカーを見に行くために出払っており、早乙女と二人きりになっていた。
「ふーん・・・」
「それに同じチームに女子がいると頑張れるしな!」
「はっ? 女子?」
「は、はいぃ!」
玉緒は早乙女から今まで聞いたこと無いような低い声が聞こえたために驚いた。それに玉緒を睨んでいたため、玉緒は若干早乙女に恐怖を抱いた。
「修斗、そこはどんな感じだったの? 可愛いの? 身長は? 女のフェロモンとか漏れているタイプなの? それとも庇護欲をそそられるような感じなの? 答えなさい」
「あぁ、その、ひ、姫乃みたいに可愛い子だったよ・・・」
「へぇ、じゃあ私とその子、どっちの方が可愛い?」
「そ、それはもちろん姫乃だよ・・・」
「・・・まぁ、今日のところはこれで良しとしましょう」
玉緒が早乙女に伝えるとちょうどクラスメイト達が帰ってきたので、二人はそのまま会話を打ち切った。しかし玉緒はなぜか早乙女の方を怖くて見ることは出来なかった。そしてそのまま放課後を迎えた。玉緒と月岡は一度帰宅した後、支給されたユニフォームに着替えて合同ピッチへとむかった。
(さて、今日は試合か。気合いれていくぞ!)
練習場には昨日と同じような面々がいた。どの子供も昨日とは違い、練習着ではなく黄色を基調としたユニフォームを着ており、大川サッカー少年団と刺繍がしてあった。
「よろしくお願いします!」
玉緒はピッチに入ると全員に聞こえるように挨拶をした。子供達は挨拶を返した。しかしそのまますぐに準備運動へと戻っていった。
「おっす、修斗。篤が遅れてくるからストレッチの相手がいなくて困っていたんだ。手伝ってくれ」
「OK、健太郎。んじゃ、早速やるか」
一足早く来ていた守谷と玉緒はペアで準備運動も兼ねたストレッチを行っていた。そしてしばらくストレッチを行っていると星島と月岡が来た。
「やぁ! 健太郎。早いね!」
「お前チャイムなったらすぐに教室から出ていったろ。隣の俺のクラスで話題になっていたぞ」
「そりゃそうだろ! 早く練習したから早く出たんだよ!」
守谷はチャイムが鳴ると、一目散に下校をしてこの場所に来ていた。その行動が話題となり、違うクラスの星島にも届いていた。そして星島は若干呆れていた。
「あのなぁ、それで忘れ物したらダメだろ。ほら! 給食袋だ」
「あ! すまねぇんな、ありがとう」
星島は守谷が忘れていった給食袋を投げて渡した。そして玉緒を含めて談笑していた四人だが、玉緒はこちらを見ている視線に気付いた。
(見ているのは翔真と篤か。やっぱりサッカーをやっている小学生なら誰でも知っているってわけか)
玉緒はその視線がただ自分達の言動がうるさいから見ているというものではなく、月岡と星島に興味があるというものだと分かった。そしてそれを象徴するかのように一人の子供が修斗達に話しかけてきた。
「そこの二人、月岡翔真と星島篤だな。昨日は挨拶出来なくて済まない、そして単刀直入に聞くが、なぜここに居る?」
「えーと・・・」
月岡が話しかけた少年の言葉になんて返していいか困っていると、星島が代表して少年に答えを示した。
「なぜって、俺達は大川サッカー少年団に入団したからだよ。お手柔らかに頼むぜ、先輩」
「星島、俺は別に喧嘩を売りに来たんじゃない。むしろ実力のある二人が入ってきてくれてとても嬉しい。俺は単純に気になっただけだ。あーそうだ、俺は久森亮。キャプテンをやっている。よろしくな」
久森は右手を差し出し、星島と握手をした。そして次に月岡とも固く握手をした。そしてその手は玉緒と守谷にも差し伸べられた。
「君達もよろしく。久森亮だ。この大川SSは少年団には珍しい実力主義のチーム。人数は君達が入ってきてくれたことによって12人となった。来年3人位は入ると思うからこれでスタメンは白紙だ。俺達は11個の椅子を奪い合うライバル、よろしくな!」
「よろしくお願いします! 俺は玉緒修斗です!」
「俺は守谷健太郎だ!」
「いや、健太郎。先輩には敬語使おうよ・・・」
「だって同い年だろ!」
「まぁそうだけど、一応歴としては後輩だからさ」
玉緒は礼儀正しい子であった。そのため、同い年とはいえチームに長く所属していた久森には敬語を使っていた。
「玉緒君、君は礼儀正しいな。守谷の言う通り、敬語は無くていい。俺も玉緒と呼ぶからな」
「はは・・・ありがとうございます・・・」
玉緒達がそんな会話をしていると大川監督達が到着した。今日も手伝いで山崎と前田も来ており、二人は今日の準備を始めた。