「今日は昨日も伝えた通り、練習試合を行う! 今の自分たちの実力を図るためのものだから。そこから来年の関東大会に向けて己の課題などを見つけて欲しい。じゃあアップを始める。スタメンはアップが終わり次第伝えるから」
大川は大川SSの面々にアップの指示を出した。それぞれボールを使ってドリブルをしたり、短いダッシュをしたりしていた。すると久森が選手を連れて玉緒達の元へと来た。
「すまんな、邪魔をして。全員というわけには行かないが、アップの終わった奴らを連れてきた。今のうちにコミュニケーションを取ってもらおうと思ってな」
「どうも、
「
「
その流れで玉緒達は一人ひとり挨拶に来てくれた三人に対して挨拶を返した。そのままみんなで談笑をしていた。
「あのー、一つ聞きたいんだけど、あそこにいる女子も大川SSのメンバーなの?」
「? 浅川のことか?」
守谷は久森に浅川のことを尋ねた。守谷は少年団に女子がいるのが気になっていた。そして久森は浅川のことを玉緒達に教えた。
「あいつはうちのエースストライカーだ。女子だと思って舐めていると負けるぞ。それにあいつ自身、女子だからって手加減されることを一番嫌うからな」
そんな会話をしていると大川から集合がかかった。そして集められた大川SSの面々に対してスタメンの発表が行われた。
「ではスタメンを発表するぞ! 配置は4—2—3—1でいく! いいな!」
GK
星島篤
DF
斎藤和則・CB
守谷健太郎・CB
石森二郎・右SB
MF
細田健介・ボランチ
久森亮・ボランチ
月岡翔真・トップ下
FW
浅川希・CF
(・・・俺は?)
「すまないけど、玉緒君はあとで交代してもらうわ。練習試合とはいえ、負けるつもりは無いからね。最初浅川さんで点を取ってもらって後半出場するようにする。玉緒君はアップを怠らないでね」
「はい・・・」
大川から告げられたメンバーの中に玉緒はいなかった。大川は別に玉緒の実力が低いとは思ってはいなかった。むしろ逆。実力がありそうなので、先に浅川の調子を確認しておきたかった。エースストライカーとしてどれだけ仕事ができるようになったかこの試合で確認をするつもりであった。そして準備を整えると練習試合の相手のサッカー少年団が姿を現し、それぞれポジションについた。
「よしそれでは練習試合を始める! ルールは20分ハーフの40分。公式のルールに準じてやるわ! ただし、スライディングなどをする時は注意すること! 怪我をしないことを最優先に考えて! じゃあ始めるわよ!」
(さてどうなるかな?)
大川が主審を務める練習試合が始まった。そして早速試合が動いたFWの浅川からボールを受けた月岡はそのまま相手FWとMFの二人をドリブルでいとも簡単に抜いた。その月岡を止めようと相手のMFが二人がかりでプレスを仕掛けてきたところで、月岡は右のサイドの林へとパスを出した。林は相手のサイドバックと一対一の状況になり、それをサポートするように月岡についていたMFが林に詰めた。
「こっちだ! 林君!」
月岡はパスを出した後で前線のMFにマークされながらも一瞬の隙をつき、すぐに後ろに下がった。そしてそのまま開いたスペースで林のパスを受けるとドリブルを開始して中盤のボランチとサイドハーフの両名を釣りだした。月岡はその上でスペースのできた左サイドの笹本へとパスを出し、月岡はそのまま相手の間をすり抜けて上がった。ボールを受けた笹本はそのまま上がり、ペナルティエリアに入っている月岡へとクロスをあげた。
(俺にCBが二人ついているってことは・・・)
相手チームは完全に月岡がシュートを放つのだと考えていた。しかし月岡はそのままワンタッチでパスを選択した。そのパスの先には相手の裏を取って右でフリーになっていた浅川へと渡った。GKも月岡が打つと思っていたため、右側を開けてしまっていた。
(すごい・・・これが海外でサッカーをしていた人の力・・・)
浅川は正確なパス技術と状況判断ができる月岡に驚いていた。そう思いながら浅川は右足を振った。しかし浅川が月岡の技術に少しだけ驚いた瞬間にGKはポジションを素早く直し、浅川のシュートにかろうじて防ぐことができた。そのボールは右ゴールラインを割り、大川SSのコーナーキックとなった。しかしそんなことよりも両チームが月岡翔真というサッカー選手の力を否応なく実感した。
(すごい・・・たった3分弱のプレーを見ただけでも月岡君が別格だと分かったわ。相手コートに切り込むドリブル能力、周りを見る力、そしてパスの精度。体格を除けばうちでナンバーワンね)
大川は月岡のワンプレーを見て即戦力になれると考えていた。大川SSは人数がいたころもはっきり言って攻撃力に乏しい部分があった。前にいた六年生のトップ下も他の少年団の団員から見れば上手い方だったが、やはり月岡を一度見てしまうと見劣りしてしまった。
(うーん、となるとますます疑問ね。なんでうち何かに来たのかしら? クラブチームとかJ1のジュニアチームとかいろいろと選択肢があったのに・・・)
大川がそんなことを考えていると大川SSのコーナーキックの準備ができていた。キッカーは林。林は手をあげるとすぐに月岡が林に近づいた。そしてコーナーからショートパスをつなぎ、ドリブルしながらピッチを見渡して逆サイドの味方サイドバックへパスを出した。パスを受けた左SBの佐藤はそのままペナルティエリアギリギリの外でシューを放った。しかし、それは相手CBによってブロックされた。
「みんな戻って! カウンターだ!」
月岡は叫んだが、すでにCBは最前線のトップ下へと縦パスを繰り出していた。そのまま相手のトップ下はドリブルをするが、大川SSのボランチである久森と細田によって囲まれた。
「そう簡単には行かせないよ!」
「くそ! 仕方ない!」
相手チームのトップ下はボールを奪われる前にかろうじて二人の間の隙間からパスを出した。そしてそこには相手チームのFWが上がっていた。
(ナイスパス!)
相手のFWはパスを受け取るとそのままゴールに向かってドリブルをした。そしてそれを食い止めるために大川SSのCBである斎藤と守谷がプレッシャーをかけた。
「こっちだ!」
「!」
左サイドから声が聞こえた。相手チームのSHが相手のFWと同じようにピッチを上がっていた。そしてそのパスを要求する声に守谷は反応してそちらを向いてしまった。
「バカ! ボールから目を離すんじゃないぞ! 健太郎!」
GKの星島から守谷へ叱責が飛んだ。しかし相手FWはこれが好機と判断し、よそ見をした守谷をドリブルで抜き去った。しかも守谷を壁として斎藤にシュートの邪魔をさせないようにしていた。
(よし! ゴールもーらい!)
相手FWはそのまま自身から遠い位置、ファーサイドに向かってシュートを打った。相手FWには手応えがあった。渾身のシュートといっても差し支えなかった。しかしそのシュートを星島は横跳びをして片手一本でブロックした。そしてそれをSBの石森がクリアをして、相手チームのスローインからスタートすることになった。
「健太郎! 教えただろ、絶対にボール保持者から目を離すなって。それにむやみに詰め過ぎだ。DFはただ詰めればいいってわけじゃない。そこら辺を考えとけ」
「すまん、篤! ついな!」
(星島のあの身体能力はなんだ? 本当に小学生か? ジャンプ力もすごいけど、相手FWのあのシュートを片手で防ぐなんて・・・)
大川は星島のプレーにも驚いていた。星島の反射神経はトップクラス。普通なら反応できないボールにも平気で反応ができる。しかも小学生にしては手足が長く、体格もいいため、らくらくと片手でボールをブロックできていた。
(これがスペインで鍛えられた守護神の力・・・U—12世代では一番なんじゃないの・・・本当になんでここに来たのかしら?)
大川はますます二人のことが分からなかった。なぜこんなスポーツ少年団に来ているのか、もっといい選択肢があったのではないか、そんなことを思いながらも相手のスローインでリスタートした。