「
月刊少年サッカーというサッカー雑誌を編集、発行している部署で女性編集者の
「順当に行けば東東京地区の東京カイザーズジュニアだろうな。去年も一昨年も優勝している。それにこの数年は必ず決勝までコマを進めていて、まず間違いないだろうな。だが、西東京地区の西東京キングユナイテッドジュニアも捨てがたいな」
郡は益田にパソコンを操作しながら答えた。郡の言う通り、少年サッカー編集部の大方の予想では東京カイザーズジュニアが優勝という意見が多数を占めていた。
「順当に行けばそうなんですけ、私同期の久遠から面白い情報を聞いたんですよねぇ」
「ほう? なんだ?」
郡は益田の意見に興味を示した。それは郡の元にない情報だと思ったからであった。雑誌の編集者として少しでも有用な情報は確保しておきたいと考えていた。
「郡先輩は日本に帰ってきた月岡翔真と星島篤がどこにいったのかって知っていますか?」
「それは・・・」
郡は知らなかった。郡はその二人がどこか有名なクラブチームか、ジュニアチームのセレクションに受かっていると思っていた。しかしあの二人の地元のクラブチームやジュニアチームへ取材に行った際、二人は見かけなかった。郡はその二人が中学に上がってからジュニアユースセレクションを受けるものだと考えていた。
「あの二人は西東京にあるサッカー少年団、大川SSに入ったそうですよ!」
「少年団・・・」
郡は分からなかった。スペインに行って取材をした時、あの二人はクラブの中でも上手かったという記憶があった。そんな二人がわざわざレベルの低いサッカー少年団に入る理由が検討つかなかった。
「それにここだけの話ですけど、その少年団にはあの久遠千早の息子さんがサッカーをしているそうですよ」
「あの久遠千早の? そういえば息子がいるっていう情報はあったな。そうか、サッカーを始めたのか。それはプレッシャーがすごいだろうな」
「プレッシャー?」
サッカーを仕事にして携わるものとして久遠千早の名前を知らない人はいない。日本人、いやアジア人の女性の中では確実のナンバーワンのストライカーであった。あの悲劇の事故さえなければ、今もなお海外で活躍していたこと間違いなしだった。
「あれだけの選手の息子、しかも子供は母親の方の運動能力の方を受け継ぐとされている。ならば期待も大きいだろう。子供にそんなことを期待するのは酷だがな。それにその子供がいい選手だという保証はどこにもないしな」
「それが先輩、この動画見てください」
益田が見せたのは去年赤城SCで行われたセレクションでの試合。益田の同期の茜が自慢のために送ったものだった。
(白リブスのFW上手いな。誰だ? こんだけ上手いとジュニアチームにいそうだが・・・)
「同期の久遠曰く、白のFWがあの久遠千早の息子さんらしいですよ」
「・・・なるほどな、確かに上手いな」
郡はそのプレーを見ただけで益田が何を言いたいのかがわかった。確かに彼は久遠千早の息子なのは間違いないと思った。
「だが彼は今のところ赤城SC所属していないぞ。彼はどこに所属しているんだ?」
「彼は月岡君や星島君と同じ大川SSに所属しているらしいですよ」
「そうか・・・」
(月岡君に星島君、それの玉緒君のいる大川SSか。これは西東京地区じゃ一波乱あるかもな)
郡は今年の大会に何やら一波乱ありそうな気がした。しかし、それでも西東京本命は西東京キングユナイテッドジュニアという認識には変わらなかった。
■■
「ねぇ月岡君! もうそろそろ関東大会だよね? 応援に行ってもいい?」
「月岡君! 頑張ってね! 応援しているから!」
「月岡君! いっぱいゴール決めてね!」
(やっぱり、翔真はモテるよなぁ・・・)
月岡の周りにはたくさんの女子が集まっており、全員が月岡に向かって黄色い声援を送っていた。他にもクラスの中には出場する者もいるが、月岡以外眼中にないようだった。
「見ていろ! 月岡! サッカー少年団にお前なんかに絶対に負けないからな! 俺達は絶対に本戦リーグに出場してやる!」
「田中君・・・受けて立つよ。俺達大川SSは絶対に勝ち上がる。そして俺達が本戦リーグへと出場するよ!」
「「「「「「キャー! かっこいい! 翔真くーん!」」」」」」
(・・・イケメンって凄いな)
玉緒がこの世の不条理を目の当たりにしていると、チャイムが鳴って授業が始まった。そしていつものように昼休みを迎え、クラスメイト達は月岡のサッカーを見に行くため、いなくなった。
「修斗、いよいよだね」
「あぁ、もうすぐ関東大会が始まる。俺が初めて参加する初めての大会。絶対に勝つ!」
玉緒はいつものように誰もいなくなった教室で早乙女と一緒に談笑をしていた。すると早乙女がリュックから何かを取り出した。
「修斗、これあげるわ」
「これは?」
「私が作ったミサンガよ。お守りとして足につけてね」
早乙女は玉緒のために作ったミサンガを渡した。玉緒はそれを受け取り、しっかりと左足の足首に付けた。
「ありがとう、姫乃。絶対に勝つから」
「うん! それには私の髪の毛少し編んでいるから、効果は間違いないと思うよ!」
「・・・うん」
早乙女は笑顔で発言したが、玉緒は少しだけ引いていた。そんなこんなで昼休みのチャイムが鳴って、クラスメイト達が戻ってきた。そしてそのまま放課後を迎えた。
「修斗! 今日は大川SSの練習ないけど、公園で少し練習しない? 監督からはあまり練習のやり過ぎには注意しろって言われているけど、大会も近いし、少しでもボールに触っていたいんだ!」
「あぁ、いいよ!」
月岡が珍しく教室で玉緒と話した。普段は玉緒から目立つという理由で話しかけないでと言われていたが、時期も時期なため、公園で練習を約束しに来た。
「おうおう、玉緒! お前サッカーやってんのかよ! お前みたいな存在感のないやつに誰もパスなんて出さねぇよ! やめちまえ!」
「・・・田中君」
田中はその会話を聞いており、二人の会話に割って入ってきた。田中は弱いやつほどよくマウントを取るようになっていた。所属するクラブチームでスタメンへとなったことでさらに気が大きくなっていた。
「田中君! 修斗は凄いぞ! 君なんかよりもサッカーが上手い!」
「はっ! こいつ、昼休みサッカーしてないだろ! こんなやつを上手いっていうお前の底が見えたな!」
田中は月岡と対峙しており、なんとしても月岡の評価を下げようとしていた。しかしそれは田中にとって悪手であった。
バチン!
田中は急にビンタをされた。そのビンタをしたのは早乙女だった。早乙女は田中にゆっくりと近づき、怒りの表情だった。
「田中君、今のはひどいわ。修斗に謝って。修斗はサッカーが上手いわ!」
「え・・・なんで・・・え・・・」
田中は呆然としていた。クラスメイトも早乙女の行動に驚いていた。それを見ていた玉緒はやばいと思ったが、すでに遅かった。
「私と修斗は付き合っているの! だから彼氏の悪口言われるのは見過ごせないわ!」
クラス中が驚きの声に満ちた。そのまま玉緒はクラスメイトから質問攻めにあってから、下校をすることになった。ちなみに田中は状況が飲み込めず、心ここにあらずの状態だった。そしてなんとか下校した玉緒は月岡と早乙女と一緒に練習をしていた。
「いやぁ・・・修斗。大変だったね・・・」
「まぁね・・・でも、いずれバレるかもしれなかったからちょうど良かったよ」
月岡と玉緒はいつものように高等テクニックでパス交換をしていた。するとそれをベンチで座って見ていた早乙女が質問をした。
「ねぇ、関東大会ってどうしたら西東京の代表になるの?」
玉緒は早乙女の質問に答えた。
関東大会および全国Uー12サッカー大会予選では複数の予選と本戦を勝ち抜いたチームが地区代表チームとなる。本戦までは一次予選と二次予選があり、一次予選では2チームで勝ったほうが進出する。そして二次予選では5チームのリーグ戦を行い、一番の勝点を持ったチームが進出する。さらに本戦のリーグ戦では二次予選までを勝ち抜いた32チームを8ブロック4チームのリーグ戦にして、上位2チームが本戦トーナメントへと出場、そのトーナメントを勝ち残ったチームが西東京代表になると伝えた。
「そうなのね。修斗。頑張って。まずは本戦リーグ出場してね!」
「あぁ! 絶対に出場するよ!」
その言葉を胸に玉緒と月岡はパス練習を続けた。そして玉緒達は一次予選までの間練習に励んでいた。