「ピピーッ! 試合終了です!」
主審の笛が一斉に鳴り響いた。延長戦がなく、全てのチームの試合が終了した。それぞれのピッチには喜びを身体で体現している者、ピッチで泣き崩れている者と両極端の子供がいた。
「みんなよくやったわ! まずは二次予選進出ね! ここからよ!」
大川SSは後半にも得点を入れ、4対0で荒川SSに勝利した。玉緒がDFを引き連れている間に月岡が裏から飛び出し、1点を。月岡からのパスをフリーで受けた浅川が1点をもぎ取った。一方の荒川SSはなんとかシュートにまでは持ち込むことができたが、星島のセーブに阻まれて得点をあげることはできなかった。
「この後1日空いてすぐに二次予選のリーグ戦が始まるわ。明日は練習を休みにするからしっかり疲れを取ること!」
監督の大川の判断により、大川SSの面々は明日休養日となった。大川SSのメンバーはそれぞれロッカールームで荷物をまとめて、帰り支度をしていた。
「それにしてもすごいよな。サッカーの試合優先で学校は休んでいいって」
「まぁサッカーの大会は年代問わず一大イベントだからな。学校側も配慮してくれたんだろうよ」
「そうなんだなぁ・・・」
玉緒は星島の言ったことに感嘆の声を漏らした。玉緒は改めてサッカーというスポーツの力を思い知った。
「それよりも二次予選だ。厳しい闘いになるな。5チーム中3チームがクラブチームだ。幸いジュニアチームがいないのはいいが、ここからは厳しい闘いが続くだろうな」
星島の言うように二次予選からは厳しい戦いになることは玉緒も承知していた。
「それでも俺達は勝つよ。俺がストライカーとして点を入れる。何点取られても1点多く取れば勝てるスポーツだからな」
「・・・ふっ! 修斗、それは違うぜ。サッカーは1点も取られなきゃ負けないんだ。俺が0点に抑えるからお前は勝てるように点を入れておけ」
「そうか、そうだな」
星島との会話を終えると玉緒は月岡の車で自分の家に戻った。ちなみにその後の学校でも月岡はクラスの女子達に祝われていたが、2ゴールをあげた玉緒には早乙女以外誰も寄って来なかった。
「ねぇ、せっかくみんなの前で話せるようになったのに、他の女の子ばっかり見ないでよ」
「いや姫乃。お前には分からないかもしれないが、男なら一度でいいから女の子チヤホヤされたいんだよ。できればこう、山崎さんみたいに包容力のある女性だとなお可!」
「・・・」
「すみません、言い過ぎました。そんなに睨まないでください」
早乙女の冷たい視線に思わず玉緒は謝った。玉緒はこの前の勝ちが嬉しくなっており、ちょっと気が大きくなっていたが、いまので小さくなった。また二人はもうすでに付き合っていることを公表しているため、教室で堂々と会話をすることが出来た。
「はぁ。それより次は大丈夫なの? 二次予選、結構厳しいそうだけど」
「まぁな。俺達は今日の午後に高橋SSと戦うけど、そこには多分勝てる。だが、問題はそれ以降のチーム、特に赤城SCには気をつけないといけない」
赤城SC、玉緒が去年セレクションを受けたクラブであり、本戦リーグ常連のチームであった。強豪のため、玉緒は一筋縄では行かないことは理解していた。
「おいおい! そのまえに俺達深谷SCがお前ら大川SSなんざ、0対3で勝ってやるよ!」
玉緒と早乙女の会話に田中が割って入った。田中は玉緒からなら早乙女を奪えると踏んでいた。そのため、よく二人にちょっかいを出していた。
「てめぇなんざ、俺が本気出せば軽くひねり潰せるぜ! 早乙女、こんなやつと付き合ってないで、俺と付き合えよ!」
「嫌です。私あなたのこと嫌いだから」
「・・・ともかく! 俺は大川SSなんざに負けないからな!」
そう言うと田中は去っていった。そして早乙女はため息をつきながら玉緒の方を見つめた。
「・・・頑張ってね」
「おう。絶対に勝つ!」
早乙女と玉緒が会話を終えたのと同時にチャイムが鳴り、学校が始まった。その後玉緒と月岡、ついでに田中は関東大会の二次予選リーグに向かうために早退をした。そしてそのまま玉緒は家で軽めの昼食をたべた後、月岡家の母親の車に乗って合同ピッチへと向かっていった。
■■
「ピピーッ! 試合終了!」
大川SSは高橋SSと闘い、3対0で勝利をした。前半10分にDFの裏を上手く抜けた玉緒に月岡がワンタッチで足元にパスを出し、そのまま玉緒はボレーシュートを決めた。そして前半のアディショナルタイム、相手のシュートを星島がブロックし、そのボールが久森から月岡に渡った。そして月岡はカウンターで走り出していた玉緒へ縦のパスを通し、玉緒はそれを見事に決めた。
(よし、勝てたな。後半俺は引っ込んだけど、それでも得点をあげることができた。やっぱり強いんじゃないか? このチーム)
後半に入り、監督の大川は玉緒を交代した。MFの笹本を加え、月岡と浅川のポジションを最前線にして4—2—2の形で試合を進めた。そのなかで月岡がDFを引き連れてスペースが空いたところに浅川が抜け出し、そこに月岡がパスして追加点をあげた。
「みんなよくやった! これで勝点も3取れたし、何より得失点差で今のところ大川SSが1位だ!」
本日試合が行われたのは5チーム中の4チーム、大川SS対高橋SS、そして赤城SC対深谷SCだった。赤城SCは前後半に1点ずつ奪って2対0で勝っていた。
「今日はゆっくり休んで明日の深谷SCの試合に備えるように。あとで今日の赤城SC対深谷SCの試合の動画を保護者方向けにメールで送るから、各自確認しておくように!」
ロッカールームで監督の大川から連絡事項を受けた玉緒達はそのまま家に帰った。そして各面々は明日に備えて準備を行っていた。
(やっぱり少年団とはぜんぜん違う。みんな個人技が上手い)
玉緒は自分の母親宛てに送られてきた赤城SC対深谷SCの試合を見た。そして感じた。クラブチームと今まで戦ってきた少年団ではレベルが違うと。
(トラップがちゃんとできているからボールロストしないな。しかもちゃんとチーム単位で守備ができている。これは手強いかもな)
クラブチームは少年団と違い、ちゃんとチームでサッカーができていた。もちろん、大川SSもそれはできている。そのため、田中のいる深谷SCには勝てるのではないかと玉緒は考えていた。
(問題は赤城SCだよなぁ。みんな上手いのはもちろんだけど、特にFWがやっぱり上手い)
プルルルルー!
(ん? 翔真からだ)
玉緒が試合の動画を視聴していると、今年買ってもらった自分のスマホが鳴り、月岡からの着信が来た。玉緒はスマホを取って電話に出た。
「もしもし、今俺ビデオ見ていたところだよ」
「そのことなんだけど、深谷SCって半分がベンチメンバーだったよね?」
「えぇ! まじで!」
玉緒は月岡にそう言われたため、PCで再生していた動画を巻き戻して確認した。先程は背番号など気にしていなかったが、よく見ると12番以降の番号のユニフォームを着ている人が多かった。ちなみに田中はフル出場であった。
「多分深谷SCは今年の関東大会を捨てて、次の全国Uー12サッカー大会に焦点を当てているんだと思う。赤城SCが1位で通過すると考えて」
「なるほどね」
玉緒は深谷SCの控えメンバーを赤城SCに当てる事によって、控えメンバーのレベルアップを図ったと思った。そしてそれはそのクラブチームがこの大会を前座だと思っている証拠であった。
「負けられないな。次の試合は」
「そうだね、修斗。勝とう!」
玉緒は強く決意をした。自分たちは本気で関東大会出場を目指し、頑張っている。それを前座扱いにしているチームには負けたくなかった。そんな思いを抱きながら玉緒は次の日を迎え、深谷SCとの対決の時間となった。